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選ばれざる言霊使い   作者: シロライオン
第1章 名もなき島 編
35/75

殺意

前回のあらすじ

殺意がリントに降り注いだ

人影は後方に下がり、手にはククリナイフのような物を持っていた。

全身に黒いローブを纏っているため顔が隠れて見えない。


「何だお前は!?何故、俺を狙っている?」


反応はない。

しかし、心当たりはある。

先日、獣人の勇者イアンヌからメッセージが届いていたからだ。

内容としては、獣人の騎士団長シュバルツがリントに間者を送り込んでいるから気を付けてと書かれていた。

このメッセージが来ていなかったら先ほどの不意打ちは躱せなかったかもしれない。

まさか襲われるとは思っていなかったが。。。



間者は後方に下がるとすぐさま氷の刃を無詠唱で飛ばして来た。

牽制として氷の刃を放ち、ククリナイフでリントに襲いかかる。


(早い!)


リントは鞘と剣で攻撃を防いでいたが、飛んでくる氷の刃とククリナイフのコンビネーションで防戦一方だった。


(一旦距離を取らないとまずい。)


闇弾ダークボール


間者はすぐさま闇弾ダークボールの存在に気づき、体を横回転させながら躱す。

その隙にリントは足元に泥水マッドを展開、そしてすぐに水鞭ウィップで後方の木の上に登る。

急に足元が泥水になった間者は足を取られた。その隙にリントは詠唱した闇弾ダークボールを間者に向けて放つ。

初動は間者に躱された。しかし追尾するその黒い球は目標に当たるまで消えない。

躱し切れない事が分かると間者は、ククリナイフで闇弾ダークボールを斬りつけて消滅させた。


(マジか!強すぎだろこいつ。)


するとふいに、リントの耳に美しいメロディーが聞こえて来た。


(?笛の音か?)


振り向くとクピスがいた。ルルとキキに装備を整えてもらったらしく、踊り子のような白い軽装に鉄の胸当てをしてエメラルド色の大きなフルートを吹いていた。


「クピス!逃げろ!こいつはやばい!」


だが、クピスは逃げるどころか間者に向かってフルートを吹きながら歩いて行く。

間者はターゲットをクピスに変更して襲いかかる。

しかし、クピスは間者の攻撃をいとも簡単に避けた。


リントはその隙に間者の後ろから攻撃。

間者はリントに向き直り反撃する。


(なんだ?さっきより動きが遅い?クピスのスキルか?)


クピスは大きなフルートでリントに加勢。

フルートは耐久性もあるらしく間者の刃に当たっても刃こぼれ1つしなかった。



2対1になった間者はリントとクピスの息の合った攻撃に徐々に押され始める。


「ぐぁぁぁ!」


今まで、沈黙を守っていた間者から初めて声が出た。

リントの共鳴剣レゾナンスブレードは高速振動をしており、ククリナイフごと間者の手を切断した。赤い血しぶきが宙を舞う。

すぐさまリント達は間者を抑えつけた。


「観念しろ!お前の負けだ。」


間者は逃げ出せない事が分かると、動きを止めた。


「お前は誰だ!?なんの為に俺を狙った!?」


しかし反応がない。

抑えつけたまま、間者の頸動脈を触ってみる。


「・・・・・死んでる。」


間者は自害していた。

手首が切断されただけで、こんなに早く死に至る訳がない。

恐らく、口に含んでいた毒かなにかで自害したのだろう。

顔を覆っているローブを脱がすと獣人の男だった。

顔には複数の傷跡があり、かなりの手練れだったことが伺える。

リント1人だったら恐らく殺されていただろう。


「クピス。ありがとう。来てくれなかったら危なかった。」

「あい!」


クピスはリントに抱き着く。

リントはクピスの頭を撫でる。


「でも、よく俺がここに居るって分かったな?まだギルド証でフレンド登録もしてないのに。」

「・・・・め。」


クピスは右目を閉じて、自分の左目を指さした。

リントと入れ替わった黒目だ。


「目?」

「かため。みえる。りんと。」

「ん?片目、見える?」


リントはクピスの真似をして、右目を閉じて左目だけに意識を集中してみた。

目に映ったのはなんと、右目を閉じている自分の顔だった。


「うわ!なにこれ?」


どうやら右目を閉じて左目に意識を集中させると、クピスが見ている映像がリアルタイムで見えるようだ。


「すごいなこれ!」


これも恐らく、ハーデによるものだろう。

クピスはこれを使って、リントのピンチに気づき町を飛び出して来てくれたのだ。

しかしリントは1つ気になった事がある。


(これって、俺が見ている映像は全部クピスにも見えるって事だよな?他の女の子とイチャイチャしてる所もクピスがその気を出せば、見られる事になるのか。。。)


クピスとの視覚共有にメリットとデメリット感じた。


間者の事をサーシャに報告する為に間者の死体を担いで町に向かった。

町に死体を持ち込む訳にはいかなかったので、町の近くに着くとクピスにサーシャを呼んできてもらった。

その間、リントは間者の持ち物を調べたが身分を証明するような物は何も持っていなかった。


クピスがサーシャを連れてきた。

サーシャは死体を見た瞬間驚いていたが、リントの説明で平静を取り戻した。


「リント。この町を出た方がいいかもしれないわ。」

「やっぱりそう思いますか?」

「そうね。イアンヌのメッセージが正しければ、レギオ王国は間者が帰って来ない事を不審がって、違う間者を送り込んでくる可能性が高いわ。」

「ですよね。。。」

「それにこの島ではC級以上のクエストは滅多に発生しないの。Bランクを目指すならどちらにしろ大陸に行かないといけないわ。」

「そうなんですか?」

「ええ。この島は通称、初心者の島と呼ばれていて、比較的簡単なクエストが多いの。駆け出しの冒険者が各地からわざわざ集まってくるほどよ。」

「なるほど。それであまり強そうな人を見た事ないんですね。」

「そうよ。だから、近いうちにこの島を出なさい。リントは転移門を使う許可がないから、船の手配をしておくわ。」


サーシャは少し寂しそうに告げた。


「分かりました。」

「あ!そうそう!例の推薦状も書いておいたから、夕食が終わったら取りに来なさい。」

「ありがとうございます!」



間者の死体を近くの草むらに埋めて、簡素な墓を作ってやった。

その上に間者の折れたククリナイフ突き刺す。


(お前は、命令を受けただけなんだよな。。。。)


リントはこの世界に来て初めて魔物以外の命を自分の手で奪った事を考えていた。

正当防衛だったとしても、相手が死んでしまっては思うところがある。

この間者がどのような使命を背負って自害をしたのかは分からない。

もしかしたら大切な人を人質に取られていたのかもしれない。

そんな事を考えながらリントは墓の前で十字を切り、町に戻った。



町に戻ると、入り口にルルとキキがいた。


「リント君!!」

「クピスにスキルを覚えさせていたら、急に飛び出して行ったから驚いたぞ。」


リントは事の経緯を簡単に説明した。

近いうちに町を出る事も話した。


「ええー!この町を出て行ってしまうんですか?」

「そうなんだ。せっかく2人と仲良くなれたのに。。。残念だけど。。。」

「そうか。。。」


キキは寂しそうに下を俯く。


「まぁ二度と会えなくなる訳じゃないし。。。また会えるよ!」

「そ、そうですね。。」


ルルは悲しそうにリントを見つめた。



リントはルルとキキに別れを告げて、宿屋に帰った。

★サーシャ先生の補足授業★

今回、クピスが使ったスキルは旋律士の固有スキルでターゲットの敏捷を下げるスキルよ。

クピスが持っていた魔楽器はフルートが大きくなったような物でエメラルドで作られているの。

65cm~100cmまで伸縮が可能で、先端が尖っているから突き刺す事も出来るわ。

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