モフモフキュッキュ
前回のあらすじ
リントは銀狼を連れて帰る事にした。
リントと銀狼は町の近くまでやって来ていた。
「そういや町の近くの街道は魔導器が設置してあって魔物の嫌な臭いがするらしいんだけどお前大丈夫なのか?」
「バゥ!」
大丈夫っぽいな・・・・・・・いや、待てよ!?全然大丈夫じゃない!こいつが普通に町に入ったら大騒ぎになる!ヤベ!何も考えてなかった!
俺は町の衛兵が見えるギリギリのラインの所まで来た。
「ちょっとあそこの岩陰で待ってて。サーシャさんに相談してくる」
「ワン!」
銀狼は言われた通り岩陰に隠れた。
やっぱ俺の言葉を理解してるな。言霊の力なのか?
町に帰って事の顛末をサーシャさんに話した。
「それは本当なの?」
「はい。どうしましょう?」
言霊の力の説明は伏せた。サーシャさんを信頼していないからではなくこの力を伝える事でサーシャさんに迷惑が掛かってはいけないと思ったからだ。
「私も行くわ。連れてって」
サーシャさんを連れて銀狼の所に案内した。
「!!この子、ブラッディウルフなのよね?」
「たぶんそうだと思うんですけど、違うんですか?」
「どう見たって違うじゃない。ブラッディウルフは全身黒よ。この子、全身銀色じゃない!」
「は、はい。でもたまには、そういうのもいるんじゃないんですか?亜種とか」
「そうなのかしら?あなたの言う通り亜種は存在するけど亜種だとしても魔導器の匂いも気になっていないみたいだし・・・不思議だわ。これは調べてみる価値がありそうね」
サーシャさんは何だか楽しそうだ。
「あの先生。調べるのは良いんですがどうしましょう?」
「あ。ごめんなさい。これを付ければ大丈夫よ」
サーシャさんが取り出したのは金色の首輪だった。
「これは?」
「魔獣使いが魔獣を従属させるために付ける首輪よ」
「魔獣使い?そんな職業あったんですね。町でそんなの見た事なかったです」
「それも無理ないわ。従属の首輪は大陸にしか売ってないし、値段が高いから庶民がなれる職業じゃないの。魔獣使いになっても首輪がないと意味ないもの。魔獣使いなんてやってるのは貴族か王族ぐらいよ」
サーシャさんは銀狼に首輪を付けながら淡々と答えるがちょっと待て。
「え!?そんなに高い物なんですか?さすがにそれは申訳なさすぎます!」
「いいのよ。私使わないし」
「いやいやいや!あ!じゃあ取りあえず貸して下さい。これの模造品が作れるか聞いてみます」
「別にいいのに」
サーシャさんはなんでもないように言うけどさすがにそれは気が引ける。
「あ。でも町の人からは俺がどっかのボンボンに見えるって事ですよね?」
「そうね・・・でも魔獣使いは数は少ないけど浸透してる職業だから騒ぎになることはないと思うわ」
「悪いやつに狙われたり?」
「それもないと思うわ。珍しそうに見られる事はあるかもしれないけど貴族や王族に手を出すバカな悪党はいないと思う」
それもそうか。そんなのに手を出したら後が怖いもんな。
銀狼を連れて町に戻る。
サーシャさんの言った通り物珍しそうに見る人はいたが騒ぎにはならなかった。
「取りあえずその子をこれを使って洗ってあげなさい。匂うし。毛が血だらけよ」
そういうとサーシャさんが出したのは手のひらサイズの白い正方形の塊だった。
「これってもしかして石鹸!?」
「せっけん?違うわ。それはマジックソープよ」
・・・どう違うのか分からん。
「あ、ありがとうございます。まさか体を洗う物があるとは。シャワーがあるだけマシだと思ってました」
「今回だけ特別よ。それは魔力が込めてある品物で娼婦かお金持ちぐらいしか使ってない高級品なんだから」
この世界って娼婦いたの?そりゃいるよね。やっほい!
「先生みたいな超絶美少女が良い匂いしたらたまりませんな」
「な、何言ってるの!いやらしい子ね。それに私はいつも良い匂いするわよ」
サーシャさんは少し頬を赤らめた。
俺は銀狼とシャワーに向かった。
銀狼をマジックソープで丁寧に体の隅々まで洗ってやった。
「おー!見違えたな!普通の石鹸じゃここまでキレイにならないぞ」
「バゥ!」
毛を乾かすと、くすんでいた銀色の毛は白銀のように美しくなり毛はサラサラになった。
「う~ん。これは・・・・・俺のモフモフ衝動を止められないな!」
「ワン!」
俺はモフモフをたっぷり堪能してキャロットを渡すためルル&キキの店に向かった。
昼時だった為か店は空いていた。
「ただいまー。キャロット取ってきたよー。」
「おかりなさいー・・・って。え!?なんなんですかこの子!いつの間に魔獣使いにんったんですか!?」
ルルはリントの後ろにいた銀狼に驚いた。
「いやぁ、ちょっと色々あってね。飼う事にしたんだ」
「色々って、この数時間の間に色々ありすぎでしょ!」
「まぁ普通そうなるよね」
「さ、触ってもいいですか?」
「もちろん」
「やったー。モフモフッキュ~」
「バゥ」
フフフ。そうだろう。そうだろう。モフモフしたくなるだろう。そしてそのあとキュ~って抱きしめたくなるだろう。ウチの愛犬をたっぷり愛でてやってくれ。あ、愛犬じゃなくて愛狼か。
ルルがモフモフしていると店の奥からキキが出て来た。
「リント。来てたのか。さっきは挨拶も出来ず悪かったな」
「いやいや。気にしないで。忙しいのは良い事じゃん」
「フ。そうだな・・・って。この魔物は!?ルル!離れろ!!」
「あ~大丈夫。これは俺が飼ってるやつだから」
「そ、そうなのか?・・・・・リントはいつの間に魔獣使いになったんだ?」
「まぁ~ちょっと色々あってね~~。そんな事よりこの金色の首輪の模造品を作って欲しいんだけど出来る?」
「・・・・・・・・」
「キキさん?」
「・・・・・・・・」
俺の声が聞こえていないようだ。
キキはルルがモフモフしているのをじっと見ている。
「フッフー。モフモフ~」
ルルは銀狼をたっぷりモフモフしている。キキは若干震えながら、その様子を見続けている。
あれあれあれ~?キキさん。触りたいのに我慢してるのかな~?いいんだよ触っても。フフフ。
「リ、リント・・・これは触っても大丈夫なのか?」
「あれぇ~?やっぱりキキもモフモフしたいの?」
「ち、違う!ルルが触っても危険がないか確かめるだけだ!」
キキは顔を真っ赤にした。
「危険なんかある訳ないじゃん。俺が飼ってるんだから」
「そ、そうか・・・で、でも一応念の為に私も触っていいか?」
キキは言い訳しながら銀狼に触ろうとせがむ。
「だ~め。素直じゃない子には触らせません」
「!!!」
キキはこの世の終わりのような顔をした。
「キキもモフモフッキュッキュ!させて下さい。って言ったら触らせてあげる」
キキは一瞬顔を強張らせたが、すぐにしおらしい顔で言った。
「クッ!・・・・・・キ、キキもモフモフキュ・・・させ・・・・ぃ」
キキは下を俯きながら小さな声で言った。
「ん?なんだって?聞こえないなぁ~」
俺はニヤつきながら耳に手を当ててみせた。
「キキキもモフモフキュッキュさせて下さい!」
「触ってよし!」
俺ががそう言うとキキは隼の如く銀狼をモフモフキュッキュしに行った。
フフ。冷徹なキキもウチの愛狼のモフモフには勝てなかったか。しかし、キキにあんな事を言わせるとは。モフモフ恐るべし!
「そういえば、リント君。この子何て言う名前なんですか?」
「あ、そう言えば全然考えてなかった。呼ぶ時とか困るよな。名前がモフモフじゃさすがにな・・・」
「銀狼なんで銀ちゃんとかどうですか?」
「いやいや。それじゃあどっかの某アニメの主人公になっちゃうから」
「へ?」
「・・・いやなんでもない・・・・・・うーん。スピークとかどうかな?」
「スピーク?」
「俺の生まれた所で話すって意味なんだ。いつかは普通に話せるといいな~って願いを込めて」
「へぇ~。素敵な名前ですね!でも話せるんでしょうか?」
「分からないけど、俺の言葉は理解してるみたいだよ」
「バゥ!」
スピークは名前が気に入ったのか嬉しそうに尻尾を振っている。
「そう言えばリント。さっきこの首輪がなんとか言ってなかったか?」
キキはモフモフしながら聞いてきた。
「そうだった!これと同じ物作れる?」
「これは従属の首輪だろう?魔導精製士じゃないと無理だな。今のルルとキキでは魔導器はまだ作れないんだ」
「あ~ごめんごめん。色と形だけ同じものを作ってくれればいいんだ」
「・・・それなら出来ると思うが、なんでそんなものがいるんだ?」
「あ~。えっと~・・・」
理由を考えてなかった。普通なら当然の疑問だろう。
「まぁいい。話せない事情もあるのだろう?分かった。リントの為だ。善処しよう」
「申し訳ない」
「だが材料が必要だな。これは本来オリハルコンで作られているものだが、この島に採掘出来る場所は発見されてない」
「マジで?大陸とか行かないと無理っぽい?」
「いや、琥珀ならオリハルコンの代わりになるだろう。模造品を作るだけだからな」
「良かった~。何処で採れるの?」
「この町の東側にある鍾乳洞で採れるらしいぞ。」
ビッグタートルと戦った時たしか浜辺の奥の方に洞窟みたいなのあったな。あそこかな?
「強い魔物いる?」
「奥に進むといるらしいが琥珀は手前で採れるみたいだ」
「分かった。防具が直ったら行ってみる!」
★サーシャ先生の補足授業★
琥珀は鍾乳洞等で採れる鉱石よ。
琥珀には微量だけど雷の属性が含まれているわ。




