いじめられっ子
前回のあらすじ
リントは追われている銀色の狼を追っていた。
銀色の狼を4匹のブラッディウルフが追っていた。
よく見ると銀色の狼は他の狼より一回り小さくかなりの重傷を負っていた。あらゆる所から出血している。
それを見た俺は無意識に銀色の狼を助けなくてはならないと思った。自分でも理由は分からない。
魔物が魔物を襲っている状況。その珍しいもの見たさとかではなく勝手に体が動いた。
強い物が弱い者を虐げる。この世界では普通の事だ。
しかし何故か助けなくてはならないという衝動に駆られていた。
懸命に後を追い、リントは足の速いウルフに遅ればせながら何とか追いついた。
銀狼は森の大木を背にブラッティウルフ4匹に囲まれている状態だった。
そのうちの1匹が銀狼に体当たり!
銀狼は体当たりを喰らいながらも牙でその狼の腹を噛みつける!
「キュゥン・・・」
1匹は足をバタバタさせ絶命した。
すぐさま残りの3匹が一斉に銀狼に飛びかかった。
「水鞭!」
リントは水鞭の射程範囲に入った銀狼を間一髪でたぐりよせた。
たぐり寄せた銀狼は気を失っていた。今にも息を引き取りそうな銀狼に水治癒をかけ、リントは左手にエレメンタルタクトを構え右手に剣を構えた。
3匹は銀狼を見失っていたがすぐに後ろにいるリントに気づき一斉に襲いかかる。
しかしリントは不思議と冷静だった。戦闘に慣れて来たのかもしれない。
衝撃波を放ち1匹を後方へ吹き飛ばす。
「泥水(マッド!)」
リントは左の1匹の前方に泥水を展開。多少バランスを崩したが、4足歩行にはあまり効果がなかった。
しかし同時攻撃は免れた。右から向かってくる1匹に僅かな時間だが1対1で戦う事が出来る。
リントは右から迫る噛みつき攻撃に対して剣を口に挟んで回避。左手のエレメンタルタクトで頭を突き刺した!血しぶきをあげ、一匹は倒れた。しかしすぐさまバランスを崩していた1匹がリントを襲う!
「ぐぁぁっ!」
リントは左肩を噛みつかれた。体はそのまま地面に倒れ左肩は大量に出血し激痛で気を失いそうになった。
「くそがぁ!」
リントは右手で落ちている木の枝を拾って噛みついているブラッディウルフの左目に叩きつけた。
「キャァイン」
ブラッディウルフはたまらず牙を肩から外し後方に下がった。
「ハァハァ」
これはまずい。左手が使えなくなった。衝撃波は出せない。水治癒じゃ回復が追いつかない。ポーションを飲む暇もない・・・。
リントは改めてソロの厳しさを実感していた。自分は勇者でもなんでもないのだ。一般人が1人で同じランクの魔物3匹を同時に相手をするなど傲慢だった。さっき見かけた冒険者ですら3人パーティーだった。今の自分は回復してくれる仲間もいなければ、時間を稼いでくれる仲間もいない。
頭の片隅に”逃げる”という言葉が一瞬浮かんだ。木の上に退避してゆっくり回復すればいい。水色の羽を使って一瞬で町に帰ればいい・・・。
だが実行出来なかった。
なぜだか分からないが銀狼を見捨てられない。
そんな思考を働かせていると衝撃波で後方に吹き飛んでいたもう1匹のブラッディウルフがリント目掛けて襲ってくる。リントはすぐさまギルド証から槍を取り出し投げつけた!しかし素早いブラッディウルフに当たるはずもなく躱された。
ヤバイ。詰んだ・・・。
諦めかけていたその時、銀狼が槍を躱したブラッディウルフに目掛けて体当たり!
水治癒ではあまり回復していないが最後の力を振り絞った一撃だった。
・・・・・何やってんだ俺は!今死んだらマリーをあそこから解放してやれない!諦めてたまるか!
リントは剣を拾い片目が負傷している1匹に斬りかかった。
「うぉぉぉぉ!!」
気迫の突撃に片目が負傷しているブラッティウルフは避ける事が出来ず左腹を斬られ絶命した。
振り向くともう1匹のブラッティウルフが銀狼の背中に噛みついていた。
「水鞭!」
銀狼の後方にある木に向けて水鞭を放った。木に引き寄せられる反動を使い膝蹴り!ブラッディウルフは吹っ飛んだ。
すぐさま近くにあった槍を拾いブラッディウルフの頭に叩き込んで止めを刺した。
「くっそ!膝痛てぇ!」
リントはすぐに瀕死の銀狼に水治癒をかけた。
「ハァハァ。せっかく助けたんだから死ぬなよ・・・。」
リントはその場に座り込み回復ポーションを飲みながら考えた。
なんで俺はこいつを助けたんだろう?下手すると死ぬかもしれないのに・・・何故かどうしても見捨てられなかった。
俺は何気なく銀狼に言霊を放った。
オーラは赤か・・・好物は魚。
「ハハッ。お前、魚好きだから仲間外れにされたのか?それとも銀色の毛だからか?」
少し回復した銀狼が目を開ける。
「グルル・・・ガウ!」
銀狼はリントの手に噛みついた。
「いてっ!」
噛まれた手は出血したが弱っているため力はそんなに強くない。
「おいおい。そんなに怖がらなくても大丈夫だ。よしよし」
リントは銀狼の頭を優しく撫でた・・・オーラが赤から黄色になっていく。
「俺ってもしかして前の世界ではいじめられっ子だったのかもしれないな・・・それでお前を放っておけなかったのかもな・・・」
リントは生前の記憶は全くない。ないが潜在意識の片隅に記憶が残っているのかもしれない。
「いじめられっ子同士仲良くしようぜ」
リントは銀狼の頭を水治癒をかけながら撫で続ける。まるで赤子をあやす様に。
しばらくすると銀狼のオーラが黄色から緑色になり噛んでいた手を放した。
ふぅ。だいぶ回復したな。でもそろそろ動かないとまたブラッディウルフが来るかもしれない。今日はもう帰ろう。
リントは武器を回収して亡骸をドロップ化した。
「じゃあな!いじめに負けるなよ!」
「クゥーン」
銀狼はまだ傷が完治していなかったが歩けるぐらいには回復していた。
リントは銀狼に別れを告げて足早に町に向かった。
町に向かう途中、先ほどの冒険者がブラッディウルフを狩っていた為か魔物に出くわす事はなかった。
「サーシャさん。ただいま」
「おかえりなさい・・・ってどうしたのその顔!?真っ青よ!」
サーシャさんが驚いた顔で叫んだ。
「え?」
「無茶したの?」
「・・・・そうですね。結構ピンチでした。血がダラダラ~って。でもHPは満タンですよ」
「何言ってるの!ポーションでも治癒魔法でも血は回復しないんだからね!」
「そうなんですか!?」
「呆れた・・・・・今日はご飯食べて寝なさい!」
「あ、はい。なんかすいません」
町に帰るまで気を張っていた為か、リントは自分の貧血に気付かなかった。
夕食を食べ終わると、一気に疲れが出てきて深い眠りについた。
ロロロロロロロロ
「リント様・・・リント様・・・」
誰かが呼ぶ声がする。
「リント様・・・」
目を開けると薄暗い部屋の中だった。
「あれ?ここ見覚えがあるような・・・」
「リント様」
声のする方を見るとそこには金髪の美少女が立っていた。
「シャイナ・・・か?」
★サーシャ先生の補足授業★
回復魔法やポーションでは出血した血は戻らないの。
血を回復するには、よく食べてよく寝る!これに限るわ!




