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選ばれざる言霊使い   作者: シロライオン
第1章 名もなき島 編
13/75

獣人の勇者

「勇者ーーーーー!?]


リントの声が静かな墓地に木霊した。


「リント君が驚くのは無理もない。勇者は60年前に転生されてからというもの今まで1度も転生されなかったからね。以前は人間の勇者だったが今回は獣人勇者の番ってわけだ」


今回は?そうか・・・まだ他の大陸に勇者がいるって事を知らないのか。

てか簡単に勇者って明かしていいんだろうか?


「そうだったんですか・・・でも何故ここに?」

「イアンヌは本当に人見知りでね。何故か僕とは話せるんだが王国内の獣人と馴染めないんだ。ちょっと気分転換にバカンスを兼ねて種族が入り乱れているこの島に来たって訳さ」


なるほど。生前は人間だった記憶はないけど潜在意識に人間だった記憶が刷り込まれているのかもな。てかバカンスに墓地って・・・この人ぶっ飛んでるな。


「そ、そうですか。でもレギオ大陸ってすごい遠いですよね?どうやって来たんですか?」

「君は冒険者なのに知らないのかい?少々高いがギルドの転移門を使ったんだよ。何処の領地でもない町は自由に行き来出来るんだ。もちろんリント君が無断でレギオ王国領地内のギルドに転移門で行くことは出来ないけどね」


知らんかったー。てか初心者の心得にも書いてなかったぞ・・・まぁ初心者は転移門なんて使わないのか。高いとか言ってるし。


「そうなんですか。でも何故墓地に?」

「今は王国内の良いクエストが全然なくてね。まぁ勇者のギルドランクを上げる必要はないんだがイアンヌがとりあえずBランクになりたいと言って聞かなくてね。でも理由は教えてくれないんだ」


あ。虫になるからか。これは転生者共通なのかな?


「なるほど。でも何か良いクエストがこの墓地であったんですか?」

「丁度Cランクのクエストがあってね。この墓地の奥にいるリッチーを倒そうと思ってるんだ」


うげっ!そんなのいたのかよ・・・下手したら死ぬじゃん。リッチーに会わなくても死にかけたけども。


「良かったら君も一緒にくるかい?ギルドポイントは入らないが経験値は入ると思うよ」

「え?良いんですか?なんの役にも立たないと思いますが」

「これも何かの縁だ。気にすることはない。じゃあギルド証を出して・・・ほらイアンヌも」


俺とイアンヌはギルド証を取り出してお互いのギルド証を重ねた。

するとギルド証が輝き出すと、パーティー編成されました。と天の声が聞こえたような気がした。


「おー!これがパーティー。初めて組みました」


イアンヌを見てみると頭の上に簡易バーが表示されている。


===============================================

レベル:6 イアンヌ

職業 :獣人勇者

HP :120/120

MP :∞/∞

===============================================


「え?レベル6?てか∞?え?なにこれ?無限って意味っすか!?」


リントは驚愕した。レベルが低いのにHPが高いのもそうだがMPが無限なのだ。


「驚いたかい?僕も初め見たときは驚いたよ。こんなの見た事がない。初めはギルド証の故障かなと思ったけど違うんだ。イアンヌは何発魔法を打ってもMPが減らないんだよ。どうやら勇者の固有スキルみたいなんだが・・・それにしても勇者は別格だと思い知らされたよ」


えーーーー!?どんだけチートだよ!マジ無双すぎるだろこれ!


「獣人の勇者なのに魔法が優意な固有スキルらしい。獣人は本来魔力が低いものなんだけどね・・・イアンヌのレベルが上がればエルフの4大賢者にも匹敵する魔法使いになるだろう」


また訳の分からない強そうなやつ出てきたな。


「あれ?シュバルツさんはパーティーに入らないんですか?」

「僕がパーティーに入ったら経験値を吸っちゃうからね。リント君とイアンヌだけで倒して欲しい。なぁに心配ないさ。僕はこう見えて聖騎士だからね。大抵の傷は治せる。まぁ死んだら無理だけど・・・でもいざとなったら助けるから」


じゃあなんでさっきポーション?まぁ死なないように慎重にいこう。


「そ、そうですか。まぁイアンヌさんがいるから大丈夫ですよね」


リントがチラっとイアンヌを見ると、またシュバルツの後ろに隠れた。


「じゃあリント君。剣を貸してくれるかい?」

「?はい」


リントはミドルソードをシュバルツに渡した。


聖付与ディバインエンチャント


シュバルツが呪文を唱えるとミドルソードが輝いた。


「これでアンデッドに有効な武器になったよ。効果は30分ぐらいだからサクっと奥まで行って倒そう」


どうやら聖騎士ってのは本当らしいな。


奥に向かって行くとゾンビやスケルトンが群れになって襲ってきた。しかしリントは輝くミドルソードのお陰でサクサクアンデッド達を倒していく・・・。


「補助呪文スゲーーー!」


シュバルツさんの魔法は並の補助呪文ではない事は頭では分かってるけど・・・気持ち良いー。

迫りくるアンデッド達を、斬る。斬る。突く。斬る。躱す。斬る。ガード。斬る。突く。ガード。突く。躱す。こける。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る!


「ハァハァハァ・・・あのぉ~イアンヌさん?」


リントが後ろを振り向くとイアンヌと目が合った。しかしイアンヌは目が合った瞬間にシュバルツの後ろに隠れる。


「なんか俺一人で戦ってる気がするんですけど?」

「ハッハッハ。いやぁ~お見事!補助呪文があるとはいえ見事なものだ。リント君には剣の才能がある。冒険者を辞めてうちの騎士団に来ないか?」


シュバルツはごまかすように笑っている。


「いや、そういう事じゃなくてですね・・・」

「まぁ大丈夫。ちゃんとリッチーが出てきたら戦わせるから。」

「ハァハァ。分かりました・・・」


リントは納得出来ないながらもアンデッド達を倒しながら奥へ進んだ。


奥に行くと他の墓とは比べ物にならないほどの大きな墓があった。


「ここだな」


シュバルツはそういうと騎士剣を構える。一応危なくなったら助けてくれる気はあるようだ。


「リント君!前だ!」


リントが前を見るとリッチーが現れた。黒いローブを纏い手には大きな鎌を持っていて中は骸骨。

まさに死神だ。


リッチーが大鎌をリントに振り下ろす。

ガギィン!

剣と大鎌がぶつかり合い金属音を鳴らす。


「あっぶねぇ!」


そのままリントは後方に回避。


「イアンヌさんお願いします!」


リントはリッチーを警戒しながら後ろに声をかけた。しかし魔法は飛んで来ない。

ガギィン!ガギィン!ガギィン!

リントとリッチーの武器が重なり合う。


「クッ!イアンヌさんー!」


俺が邪魔で打てないのか?それとも・・・。


リントはジリ貧だった。あまりにもレベル差があるため押されるのは時間の問題だった。


キン!


リントの手を離れ剣が宙を舞う。


「しまっ!」


リッチーが大鎌をリントの首めがけて振り下ろす!

その刹那、先ほどより大きな火の玉が目の前に飛んできた!リッチーに当たると一瞬にして灰になった。


「ハァハァ」


てか・・・一発かよ・・・。


後ろを向くとイアンヌと目が会った。しかしシュバルツの後ろに隠れる。


「いやぁ~。見事だったよリント君。レベル差があるのにあそこまで打ち合えるとはね」


パンパンと手を叩きながらシュバルツは上機嫌そうだ。


「いや。そこじゃないでしょ!魔法打つの遅くないですか?詠唱に時間がかかったんですか?俺マジで死ぬかと思いましたよ!」


シュバルツはしかめっ面をしながら答えた。


「すまない。そういう訳じゃないんだが、イアンヌはMPは無限なんだがちょっとメンタルがね・・・」

「どういう事ですか?」

「彼女は戦いが嫌いでね。誰かがピンチに陥らないと魔物に対して魔法が打てないんだよ。だからレベルが低いんだ。勇者なのに僕も困ってるんだよ」

「ちょ!そういう事は早く行って下さいよ!」

「まぁまぁ。そんなに怒らないでくれ。イアンヌはさっき死にかけた君を助けた。放っておいたら君は恐らく死んでいただろう。これでおあいこって事にしてくれ」


このイケメン何言ってんの?・・・俺は上手く利用されたって事か。バカンスとか言ってたけどレベルの低い冒険者を探してただけじゃねぇかよ。ちょっとでもカッコイイと思った俺がバカだった。油断ならねぇ・・・それにしてもレベル6でCランクボスを一撃か。どんだけ魔力高いんだよ。チート過ぎだろ・・・。


「ぁ、あのぅ」


イアンヌが初めて口を開いた。


「ご、ごめなさぃ。わたし・・・」


シュバルツの後ろから顔だけ出して謝っている。獣耳をペタンとして本当に申し訳なさそうにしている。その顔もまた可愛らしかった。


「あ、いや。こちらこそすいません。助けてもらったのに偉そうな事言って・・・イアンヌさん。良かったら友達になって頂けませんか?」


イアンヌは悪くない。悪いのはこの聖騎士様だ。イアンヌは悪くない。獣耳可愛いし。イアンヌは悪くない。顔も可愛いし。


「は、はぃ」

「ハッハッハ。珍しいな。イアンヌが僕以外の者と喋るなんて。リント君。是非友達になってやってくれ」


あんたの意見は聞いてねぇよ。

イケメンに良い奴はいない。これは教訓としよう・・・。


「じゃあフレンド登録したまえ」


シュバルツに促され、リントとイアンヌはお互いのギルド証を交換し胸に当てた。そうするとギルド証が輝きだす。


フレンド登録が完了しました。と天の声が聞こえたような気がした。


「ありがとう!よろしくお願いします!イアンヌさん!」

「は、はぃぃ」


手を差し伸べるとイアンヌは怯えながらも手を出してくれた。

スベスベな小さい手だった。獣人でも全然いいね!


「じゃあそろそろ帰ろうか。リント君」

「はい・・・」


もうちょっと握手しときたかったのにこのイケメンめ・・・。



リント達が町に戻る頃にはもう辺りは暗くなっていた。


「じゃあ僕たちはここで失礼するよ。今回の事が王国にバレたらマズイんでね」


マズイのかよ。めちゃくちゃだなこの人。まぁイアンヌは魔法打てないし、勇者を育てるプレッシャーがあって大変なんだろうけどな。でも嫌いだ。このイケメン。


「今日はありがとうございました。イアンヌもまたねー」


リントがそう言うとイアンヌはペコっと頭を下げてシュバルツと共に王国に帰っていった。


いやー可愛いなあの勇者。獣耳とかマジ反則だろ。

いやいや!いかん!いかんぜよ!俺にはマリーがいるじゃないか!


リントは勝手にモテキャラになり、勝手に葛藤していた・・・。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

フレンド登録・・・・1日1回だけギルド証を通じて相手にメッセージを送る事が出来る。位置情報も1日1回だけ検索できる。ただし検索やメッセージの有効範囲は自身の魔力によって変化する。

ちなみにレギオ大陸にいるイアンヌには今のリントの低い魔力では位置検索やメッセージを送る事が出来ない。

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リントがこの事に気づいたのはしばらく経ってからだった・・・。

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