勇者になれなかった者
初投稿です。
至らない部分があるかとは思いますが、気長にお付き合いよろしくお願いします。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
ハッっと気づくと、薄暗い部屋の中にいた。
「夢か?今、俺は叫んでいたような・・・」
記憶が全くない。何故自分が叫んでいたのかも分からない。
「ここは?」
どこだか分からない。自分の名前すら分からない。
ふと目の前をみるとそこには全身鎧を着た中年の大男が座っていた。白髭を生やしてどちらかと言えば初老に近い。その大男が口を開いた。
「ようこそ。転生の間へ。ワシの名はオーディン。戦を司る神じゃ。そなたをここへ呼んだのはワシじゃ。そなたは選ばれし勇者となったのだ。気分はどうだ?リントよ」
リント?俺の名前か?
「えっと、全く記憶がないんですけど・・・俺はリントって名前なんですね。これってもしかしてよくあるアレですか?」
するとオーディンは笑みを浮かべた。
「勘が良いなリントよ。そうだ。アレだ」
神が女神じゃないのは気にはならなかった。それほど興奮していた。
「うおぉぉ!マジかよ!ゲームとか漫画によくあるアレか!俺TUEEEな能力でモテモテ勇者生活のアレじゃん!やったぜ!」
母さん産んでくれてありがとう!母さんの事全然思い出せないけど!うぉぉぉぉ!
生前の記憶はないけど一般常識、漫画やゲームの記憶はあるみたいだ。
リントが歓喜に唸っている間、オーディンにひっそり話かける少女の声があった。
「お父様。成功です。」
「ん?もしかしてこやつが例の?」
「そうです。」
「よくやった!これで我等の勝利は約束されたようなものだ」
「はい。ですがこの者はどう致しましょう?勇者枠はもうありません」
「そうだな・・・惜しいが、虫にでも転生させるか。」
「さすがにそれは・・・お母さまに気づかれたら大変です。」
「むぅ。それもそうか。ならば適当な理由をつけて普通の人間に転生させてしまおう。協力してくれ」
「・・・・・分かりました」
「あの〜すいません。なんか適当な理由とかなんとか聞こえたような気がしたんですけど?」
オーディンは少し焦りながら答えた。
「そ、そんな事言っとらんぞ。気のせいじゃ。それに聞こえたのは女の声だったじゃろ。女なんて何処にもおらんではないか」
「確かになぁ。ってあれ?女の声?」
「・・・・まぁ、そんな事はどうでも良いじゃろ。これからモテモテ勇者生活が待っとるんじゃ」
なんか強引に話を進められた気がする。まぁいいか。
「ですね!俺には美少女達とキャッキャ♪ウフフ♪のドリームファンタジー生活が待っている!オーディン様!早く転生させて下さい!」
「まぁまぁそう焦るでない。まず勇者スキルの選択をせんとな」
オーディンがそう言うと目の前にウィンドウが現れた。
「この中から好きなスキルを1つ選ぶが良い」
飛翔・・・・・・・・時速10kmで飛べる。10秒ぐらい。
自己再生・・・・・・常人より自然回復力2倍。
閃光・・・・・・・・めっちゃ光る!眩しい!
折れない心・・・・・・・決して落ち込まない!
「どうじゃ?勇者っぽいスキルじゃろう?」
オーディンはドヤ顔でそう言った。
えー?こんだけ?飛翔。10秒飛べるってすごいのかな?なんか魔法とかで普通に飛べそうな気もするけど。突き落とされて落下したりしたら有効なのかな?
自己再生。自然回復力ってどんなもんか分からんし、異世界って傷の治りが普通より早いのかな?それだったら一考ありそうだけどそんなの回復魔法でよくね?
閃光。めっちゃ光る!眩しい!って。まぁ確かに勇者ぽいけど目くらましぐらいにしか使えなくね?
折れない心。これに至っては精神論じゃん!後半適当すぎだろ!
「あの~。オーディン様。質問よろしいですか?」
「なんじゃ?」
「異世界には飛べる魔法ってないんですか?」
「ある!飛べる種族もおる!」
オーディンは悪気なしにそう言った。
「・・・・・自然回復力ってどんなもんですか?俺が前いた世界より傷の治りがめっちゃ早いとか?」
「いや一緒じゃ。たんこぶが治るのが2日ぐらいかかるじゃろ?わずか1日で治るんじゃ。」
「回復魔法はないんですか?」
「もちろんあるとも!たんこぶも治る!」
なぜドヤ顔なんだこの神は。そして、たんこぶて・・・。
「閃光って光るだけですか?」
「光るだけじゃ!勇者っぽいじゃろう?」
「光る魔法はないんですか?」
「これはない!自ら神々しく光るのは神ぐらいじゃ!光魔法とかはあるぞ!光槍は光る槍をぶつける光魔法じゃ!アンデッドに有効じゃ!」
「光ったらアンデッドを浄化させるとか?」
「いや、そのスキルは光るだけじゃ!2秒ぐらい」
それだったらたいまつにもならんじゃないか。
「・・・・・・・」
もはやリントに折れない心の事を質問する折れない心はなかった。
「あの~勇者補正とかあるんですよね?ほら。経験値倍とかチート的な」
「そ、そんなものあるわけないじゃろう!?勇者なんじゃからこの中のスキルを貰えるだけ有り難く思
え!そんな怠慢な勇者を召還した覚えはないぞ!」
もの凄い剣幕で言い放った。
「そ、そうですか」
そんなやりとりをしていると、ふいに声が聞こえた。
「お父様。もう見ていられません。正直に話しましょう」
そう言いながら暗闇から現れたのは髪の長い金髪の少女だった。
「初めましてリント様。私、オーディンの長女シャイナと申します。以後お見知りおきを」
その少女はスカートの裾を持ち、丁寧にお辞儀をして挨拶をしてきた。
「は、初めまして・・・」
突如現れた少女は身長は160cmぐらい。整った顔つきはとてもオーディンの娘とは思えないほど美人だった。歳は20歳前後ぐらいだろうか。綺麗な金髪を腰まで伸ばした彼女は美しくとも可憐さを感じさせる佇まいで、女神と呼ぶのに相応しい。
「申し訳ございません。こちらの手違いでリント様は勇者枠から外れてしまったのです」
「え?なにそれ?どういうこと?」
シャイナが手違いの説明をしてくれた。
要約するとこうだ。
オーディンには4人娘がいる。
光を司る女神・長女シャイナ しっかり者
火を司る女神・次女フィア お転婆娘
水を司る女神・三女パリス お嬢様
地を司る女神・四女マウ子 おっちょこちょい
どうやらこのおっちょこちょいが双子の片方だけを転生させるつもりが、間違って双子を二人とも俺より先に転生したらしい。
てか4女の名前がおかしくない?
「という事はもう勇者枠が無くなって俺は一般ピーポー?」
「そうなります」
「えーーーーー!マジかよー!どうすんだよこれ!俺TUEEE!のキャッキャ♪ウフフ♪のドリームファンタジーライフは!?てか誤魔化そうとしてたの?君のお父さん!」
「はい。申し訳ございません」
シャイナは本当に申し訳なさそうな顔をしていたがこれは許せん!
「テメェ!ジジィ!なに誤魔化そうとしてくれちゃってんの?」
「ワシもさっき聞いたのだ。すまんのぉ。」
「すまんのぉって・・・それでも神かよ!まぁ転生前に分かって良かった。あのまま転生してたらエライ事になってたわ」
あのクソスキルならあってもなくても変わらない気がするけどな。
「元の世界にはもう戻れないのか?」
まだ信用出来そうなシャイナに聞いてみる。
「リント様は死んでいるの戻れません。」
やっぱり俺は死んでたのか・・・
「他に選択肢は?」
「一応、他の世界に転生が出来ますが・・・」
シャイナが口籠った。
「なに?嫌な予感しかしないんだけど。」
「今から他の世界に転生すると虫になります。」
「え!?意味わからないんですけど!」
「この世界での貢献度によって転生先の生物が決まるのです。今は貢献度ゼロなのでリント様は虫になります」
「ちょっっっマジかよ!魔王ぐらい倒さないと死んだら人間に戻れませんってか?」
「いえそこまでは・・・でもそうですね・・・・・冒険者ギルドでランクBぐらいまで昇格すれば死んでも人間ぐらいには転生出来るでしょう」
「なんか中途半端だな。てか何設定だよそれ・・・まぁいい。この世界で神に貢献するしかないって事だな!?でも魔王を倒す使命とかないよな!?俺、勇者じゃないもんな!?」
「はい。自由に生きて頂いて大丈夫です」
「よし!じゃあ取り敢えずランクB目指して頑張って、あとは美少女を探してキャッキャウフフなドリームファンタジーライフを満喫しても誰も文句は言わないんだな!?」
「は、はい」
シャイナは少し飽きれたように返事をするが関係ない!むしろ魔王を倒す使命とかないんなら逆にラッキーかも知れないぜ!ビバ!フリーダム!
リントは思わずガッツポーズをする。
ガッツポーズをしながらオーディンをチラっと見ると大きなあくびをしていた。
「おい!ジジィ!なに眠そうにしてるんだよ!今、大事な話!」
「いきなりジジィ呼ばわりとは・・・全く現金な奴じゃ!・・・・それはそうとスキルは決まったか?」
「いやいや!こんな役に立ちそうにないスキルばっかり提示して決めれる訳ないだろ!そっちの手違いで勇者補正はないわ、下手したら虫になるわで最悪じゃねぇか!」
「今お主ガッツポーズしてたであろう?それに勇者でもない者に力を与える訳がなかろう」
「うっ。でもそれはそれ!これはこれ!せめてもうちょいマシなスキルくれよ。元々そっちの手違いで俺は勇者になれなかったんだからな!これじゃあんまりだろ!」
ここは引き下がれない!
「お父様。ここは私のスキルを彼に与えましょう」
シャイナの提案にオーディンが血相を変えた。
「ならん!ならんぞ!そのような事は!お前にもしもの事があったらどうする?セイクリッドになんて言えばいい?」
「お母様にはいずれ私が話します。それにお母様は慈愛の女神。こんな事が後で知れればひどい目に会うのはお父様ですよ?」
セイクリッドというのはどうやらシャイナの母親らしい。
「むむ。そうか。しかしな・・・」
オーディンが喋ろうとするのを遮るようにシャイナが話す。
「リント様。ご覧下さい」
そういうと目の前にウィンドウが現れた。
光神の加護・・・あらゆる魔法を反射する。
エスケープ・・・いつ如何なる場所でも自分が行った事のある所に瞬時に移動出来る。自分のみ。(リチャージ10日)
神獣召喚・・・神獣ファラオを召喚する。MP消費極大。
言霊・・・生物と意思疎通が出来る。
「勇者補正(経験値倍化・ステータス補正)は無理ですがこれならどうでしょうか?規定で1つしかお渡し出来ませんが」
何の規定だよ・・・。
女神の加護。一見良さそうだけど、これって回復魔法も跳ね返すって事だよね。物理攻撃受けたら回復薬しか回復手段ないじゃん。自分のタイミングで意図的に出来るのかな。
エスケープ。チキンスキル過ぎるな。リチャージ10日もあるし。これに慣れてしまったら強くなれそうにない。しかも自分のみ。自分だけ逃げて、仲間が死んだら後味悪すぎだろ。即死したら意味ないし。
神獣召喚。なんか強そうだけど、MP消費極大って・・・使えるのこれ?
俺が思考を巡らせているとシャイナが口を開いた。
「リント様。私たちの目的をまだ話してませんでしたね」
「ん?魔王を倒す事じゃないの?」
「もちろんそれが第一の目的です」
「まだあるの?」
「第二の目的はお母様の救出です」
「え?お母さん捕まってるの?」
「はい。3日前に」
「それまたずいぶん最近だな!」
「そうなのです。魔王は以前から存在しましたが、大魔王は突如3日前に出現したのです。そのため急いで勇者が選定されたのです」
そんなことを言い訳に手違いされても困るけどな。
「この世界には大陸が東西南北4つあり、各大陸にそれぞれ魔王が存在します。さらにその中央に浮島が存在します。ここは聖地でかつて我々神が住んで居ました。ここに3日前、突如大魔王が出現したのです。お母様は私達を逃す為に大魔王に捕まってしまいました」
えー?お母さん捕まってたのかよ!何やってんだジジィ!戦の神とか言ってなかったか?
「この4人の魔王が大魔王を召喚したのです」
「何でそんな事が分かるんだ?」
「神々の古い文献に記されています。4人の魔王が人柱となれば大魔王を召喚出来ると」
「なんで今まで誰も魔王を倒そうとしなかったんだ?」
「いえ。過去に何度かお母様が異世界人を勇者として転生して魔王に挑みました。しかしいずれも失敗に終わり殺されてしまいました。やがてお母様は心を痛め、もう転生はしない事にしていたのです。特にこちらから何もしない限り魔王も動きませんでしたので」
「それで今回は特別に各大陸に勇者を召喚した訳ね」
「はい。各魔王(人柱)を倒すと大魔王の力は弱まります。魔王すら倒せないようなら大魔王はとても倒せません」
「なるほどね。それが目的か」
「それともう1つ目的があります。それは各大陸の架け橋です。私は光の女神として4大陸の巫女と対談し、各大陸が争わぬよう促さなければなりません。それが第三の目的です。現在4大陸の王国はそれぞれ種族が違うためか、仲が良いとは言えません。大きな戦争な未だにないのですが、このままでは危険です。そこで4人の勇者が力を合わせて大魔王を討ち滅ぼせば英雄譚が広がり、王国同士でいがみ合う事もなくなるでしょう」
種族間戦争に大魔王か。混沌だな。
「それでどんな種族が存在しているんだ?」
「北のマシーナリー大陸には魔導器を使うドワーフが支配し、南のレギオ大陸には強靭な肉体を誇る獣人族が支配し、東のフォレン大陸には強力な魔法を使うエルフが支配し、西のランルージ大陸には特徴がないのが特徴な人間が支配しています」
特徴がないって・・・まぁ人間がいたからいいや。安心した。
「その4種族しかいないの?」
「いえ。あくまで各大陸を主に支配しているのが4種族なだけです。王国内にはそれぞれの種族しかいませんが、地方や島には色々な種族が混在しています。フォレン大陸にも人間はいますし、ドワーフもいます。獣人族もしかり。ノームや竜人族等もいます。各大陸は緊迫状態ですが貿易等は行っているようです」
「なるほどね・・・ドワーフの王国なのに人間が勇者やっていいの?」
俺はふと疑問に思う。英雄譚を作りたいなら自分の種族の英雄じゃないと効果が薄いのではないのかと。
「各大陸に覇権した勇者はそれぞれの種族になっております。生前の記憶がないので元は人間ですが、人間だった事は忘れております。獣人の自分に何の疑問も持ちません」
「あれ?でも俺は人間だった事は覚えてるぞ?家族とか友達の記憶はないけど」
「・・・あなたはイレギュラーですし、転生前ですから」
都合の悪い事は書き換えるってか。恐ろしいな。どっちが魔王なんだか。慈愛の女神はどこいった。
って俺は下手するとドワーフになってたっていう事だよな?エルフとかなら未だしもドワーフとかマジ勘弁・・・。
「話が長くなりましたね。それではスキルを選んで下さい」
シャイナがウィンドウを指差す。
「じゃあ言霊で。」
「え?それでいいのですか?他にも良さそうなスキルが」
「いやそれでいい。どうせ勇者補正ないなら俺TUEEE!も出来ないだろうし。生物と意思疎通出来るってのは魔物とかにも有効なんだろ?大魔王に会って何考えてるとか聞いてみたいしな。一般人が会えるか分からんけど。あ。大魔王ぐらいになると喋れるのか」
「私も直接対面したことがないので分かりませんが、残忍で凶暴な存在だと聞いています。」
「でもさ、もしかすると大魔王にも都合があるのかもしれないじゃん。4人の魔王が勝手に召喚したんだろ?お母さん捕まえた理由とかさ。本心は分からないだろ?話す余地はあると思うんだ」
リントは探究心が強く、基本的に平和主義者のようだ。
「・・・貴方のような方が勇者になるべきだったのかもしれませんね。ではそろそろ時間なので転生を始めます。お父様よろしいですね?」
「まぁ良かろう。むん!」
「え!ちょっと待って!まだ聞きたいことがぁぁ!」
リントは眩い光に包まれ消えた。
「お父様。あんな感じでよろしかったでしょうか?」
「上出来じゃ。よく思い付きであやつの質問に答えられたのう」
「お父様も人が悪いですわ。指示したのはお父様でしょう?それに全てが嘘と言う訳でもありませんわ」
「カッカッカ。さすがワシの娘じゃ。あとはセイクリッドにバレても良いようにせんといかんのう」
「私がたまに様子を見に行って参りますわ。彼は私の事を信じきっていますから」
「うむ。頼んだぞ・・・」
話が終わると二人は光に包まれ消えた・・・




