サークア強襲作戦 Ⅱ
――イレアナの家
ずいぶん寝てしまっていた様で、起きたのは日が沈み、夕食の竈の煙が、少しづつ消え始めた頃であった。
寝室をでて、テーブルを見てみると、色とりどりの野菜のサラダと、パスタの様なキノコが添えられている麺類がおいてあり、食べるようにとの書置きがあった。
それを、食べ終えると、二階が気になり、階段を上り様子を見に行く。
2階を開けたとたん、熱気と甘酸っぱい匂いが、鼻をくすぐる。
金属同士が打ち合わされる音が、一定のリズムで聞こえる。
奥の方では、一人に女性が何かを懸命に作っている。
背の高さからして、イレアナでは無いようにも見える。
長い耳で、褐色の肌、燃えるような紅い髪までは同じであるが、背が高く立ちながら作業をしているので分かったが、モデルの様な体型である。
すらりと伸びた手足。
くっきりとしたお尻。
胸はクンヘル程ではないが、僕の手では少しはみ出すくらいには大きい。
強弱がはっきりした体つきは、非常に魅力的である。
体中から汗が滴り、尚の事体のラインを強調する。
蒸せかえる熱気混ざる、甘酸っぱい匂いは、彼女の匂いであることが分かる。
決して深いな匂いではなく、非常に性を刺激する強烈なフェロモンのように感じた。
角は、前方に歪曲して大きく伸びており、牛のしっぽのようなものが生えていた。
確信はできないが、おそらくイレアナの【魔人化】した姿ではないかと直感した。
よほど集中しているのか、こちらの様子に気づかなかった為、そのまま扉を閉じる。
なんだか、あんな魅力的な女性と、同じ家にいることが落ち着かず、食事に対するお礼の書置きと、散策に行くとの言付けを残して、外出することにした。
――サクーア娯楽街
兵士が多いからか、昼の市場よりも、夜の娯楽外のほうが活気があふれていた。
リザードマンやゴブリン等の亜人が幅を利かせている都市であるからか、道端の娼婦も人型が多く、たまに声までかけられてしまう。
極力無視を決め込み歩いていると、前から腕の無いリザードマンの集団が歩いてくる。
急いで、小路に隠れると、さっきまで声をかけていた娼婦は不振そうな顔をしながらも、新たな金蔓が来たと、彼らに声をかける。
「お兄さんがた、傷もちとは勇ましいね。どうだい、あたしと遊んでいかないかい?」
「うるせーBBA」
と言うなり、問答無用に切りつける。
一太刀のものに絶命する娼婦。
最後の断末魔により、まわりが振り向くが、少し経つと興味を無くしたように、各々の仕事や遊びを始める。
どうも、この娼婦は、個人でやっている回遊魚のようで、死んだところで、誰も損はしないらしい。
仲間が道端に、娼婦の死体を寄せると
「あー忌々しい。あのバンパイアのガキはどこに行ったんだ」
「お、俺たちを切りつけておきながら、こ、この都市に残っているとは思えないよ」
「警備隊は、今日は行商のコボルト集団しか出都してないって言ってたんだぜ」
「まあいいや、腕なんざ後三日もすれば、また生えてくるからよう」
リザードマンは、鱗による防御力と、強靭な体力と、再生により、歩兵としては強敵に部類にはいる。切断された自分の体の一部を食べれば、すぐに再生されるとも言われている。
「俺たちの体を、あんなに簡単に切り裂く剣があるとはな」
「なんでもいい、さっさと殺して~」
「そ、それより、お、俺たちがノェウを落とした事で、教団から報奨を貰えたんだから、き、今日はたのしもうよ」
「しゃあね~な。俺たちは英雄だからな。まあ、英雄ノェウが出てきて結局は、占領までできなかったがな」
「いいじゃねーか、住民からの信頼は失墜して、議長から降ろされるみたいだぜ。一市民として復興がんばってくれってね。それより次は、ラバーハキアだそうだ」
「件の王は、氷の弓で何物も寄せ付けないそうだ。それに、送ったスパイがことごとく、奴の草によって殺されているそうだ」
「大丈夫なのかよ」
「当然それじゃあダメだからって、上流から生活用水に毒を盛るそうだぜ」
「えげつねえな」
「そのための、ノェウの無力化だったんだな」
「ま、まあ。お、俺たちはそこで、金と女を好き放題できればいいわけだから、どうでもいいぞ」
「お前は、本当に欲望に忠実だよな。でも今日は残念だったな」
「ぐ、ぐぅう」
「今頃、あの混ざりものも、バンパイア様とよろしくやってるだろうよ」
「バンパイアに吸血されると強烈な快楽を味わえるらしいからな。今頃、あのデックアールヴも、涎垂らしながら、あの良いケツ振っておねだりしてるさ」
「ゆ、許せないぞ。こ、興奮してきたぞー」
いやいや、興奮するなよ。
それに、マジかよ。バンパイアには、そんな夢の効力があるんだね。
じゃあ今までに吸ってきた(剣でだけど)奴らは、エクスタシー状態で、まさに昇天してたんだ。想像したら、気持ち悪い。
次の目標も確認できたところで、グエンやアズサがいるラバーハキアの守りは心配していないが、毒の話は非常に危惧された。
アンデットによる、伝達についても、生命の魔石がそこまで持つのか不明であることから取りあえずは、やめておくことにする。
教団の力を、武装組織から切り離すことが先決では無いかと考え。
今日は、塔の様子を見るに止め帰宅する。
ー―イレアナの家
家に戻ると、元の姿の小さなイレアナが、テーブルに座り待っていた。
「ただいま、寝ていればよかったのに」
「……」(首を横に振る。不機嫌そうな顔)
「イレアナさん何で怒っているんだい?」
「……」(無表情)
無言で、イレアナは近づいてきて、クンクンと匂いを嗅いでくる。
体臭そんなにきついかな?
前の世界では、たしかにワキガでした。
モテませんでした。
彼女ください。
「……女ごの匂いがする」(無表情)
「違いますこれは、違うんです」
「……」(ジト目)
「分かったよ。娯楽街に行ったのは事実だよ。ただ、遊びに行ったわけではなく。昼間のリザードマンが気になって見に行っていたんだよ」
「……」(睨むような目)
「心配させてしまったね。ごめん」
ここは、素直に謝ることにした。
女性には勝てないよ男は。
何を言っても言いわけだし、彼女が正しいとおもったから。
「……心配しなくてよい。我はあの者たちより、幾分腕におぼえがある」
初めて、彼女が長い言葉をしゃべった。
それだけ気にかけてくれていたのだろう。
「……今からは、家にいてくれ。我が心配で眠れぬ」
「分かったよ。眠れるまで一緒にいよう」
「……」(機嫌のよい顔)
「ところで、君が寝たら僕はどこで休めがいいかな?」
「……一緒にいる」
「はい?」
「……一緒にいる」
「まさか。ベットは一つなのかい?」
「……」(コクリ)
「……」(ゴクリ)
後何日御厄介になるか分かりませんが、それまで理性を保たなければならない。
転生以来、一番の試練をむかえるのであった。