表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/28

ノェウ防衛戦Ⅳ

――ノェウ居住地区


都市の落下速度は、いまだに早くなっている。

少し早めのエスカレーターのように、雲の間を抜けていく。

インテリジェンスの多くは、自らの羽で上空に舞い上がり、エアフィルターの近くにまとまっている。そのに出るのは命取りになるので、落下の衝撃を避けられる程度の飛行をしているのだ。


もちろん、町人の多くが空を飛べるわけもなく、議事堂などの丈夫な建物に避難しようとしているが、バランスは保っているとはいえ、揺れる地面を歩くのも困難の様だ。


いよいよ魔導エレベーターを目視できる所まで、落ちてきていた。

しかし、恐怖を感じる事はない。

自分を信じているというのは、嘘になる。

自分の業の深さを考えていた。


周辺の森から、鳥たちが一斉に飛び立ち。

町の人々の混乱がピークに達し、瞬きをした瞬間。

世界は、星々に囲まれ、都市は激突する地面を失った。

上も下も無い世界。

しかし、次の瞬きを終えると、都市は黄昏時を終え、薄暮をむかえた元の世界へと帰ってきた。


衝撃などはなく、ただ大きな岩の塊にのった都市が、地面に置かれていた。

自分たちが無事であった喜びに、町は歓喜している。


僕は、上空を見上げていた。

薄暗い世界に、星のように輝く、インテリジェンスたちのハロ。

一段とまばゆい光が、エアフィルターを突き抜けこちらに飛んできた。

それは、太陽のように明るく、美しく、強い。


「久しぶりの外は気持ちいいかい?」


その者は、美しい顔をややしかめて

「慌てふためいている姿が見れると思ったから、急いで飛んできたのに、何だ余裕そうじゃないか。つまらないな~」


子供が、悪戯を失敗してしまった時のような顔をしながら拗ねている。


「クンヘル、僕は君に頼ってしまった。出会って間もない君に……。それに、君のその力を利用してしまった。許してくれとは言わない、皆を守ってくれてありがとう」


その者、クンヘルはいつもと違い。ショート丈で襟の付いたタンクトップのような服装。白を基調にし、襟などの淵は金属で装飾されている。肩は露出し、二の腕の中間くらいまで白い鱗が張り付いており、その先は長く鋭い鍵爪になっている。スパッツに、細い前掛け状の鎧。レッグリングなどの宝石のついたアクセサリーを身に着けていた。

大きな特徴は、頭の上のハロと、腰から翼が左右合わせて4枚、背中から竜の羽がはえていた。魔人化していた。


「利用されることには慣れている。誰にそうされるかが重要だと今日分かったよ」


「どうゆうことだい?」


「なんでもないよ。それよりノェウ周囲に、千の影が迫っているけど、どうするかね?」


「テロリストのお友達かな?」


「ノェウの兵士は、生き残った市民を救出しているから、防衛することができなそうだよ」


「なら僕の出番の訳だな」


「ベヘモトにも勝てなかったくせに?」


「みっ、見てたんだね?」


「ふふふ、ここは最強のクンヘルさんにお任せだよ」


僕の言葉は無視して、ドヤ顔をする。もちろん胸も張っているので、ありがたや~ありがたや~


「世界の輪郭を作るのは何だと思う?それは、『光』だよ」


「だから、君は世界を作る事が出来るんだね」


「そう、光竜の力で輪郭を作り、インテリジェンスの知性や感性を加えて、その空間を形成する」


「まるで神様みたいじゃないか」


「けして無から有は生み出すことができないから、正確には違うけどね」


「十分尋常じゃない力だけど」


「まあ、その力で、架空の世界を作り、都市をキャッチしたわけなんだけれどもね。

それでは、さっさと片づけるから、君はそこで見ているといいよ」


「おっおう……おなしゃす……」


光被(こうひ)


千の敵が、映像として現れる。

一度にこれだけの索敵能力は脅威だ。


「プロの引きこもりは、コミュ力の代わりに、外敵への索敵能力が高いのだよ」


カッコいいが、中身はダサい台詞を、ドヤ顔で言い放つ。


妖光(ようこう)


彼女のハロと羽が怪しく、そして仄かに光を放つ。

彼女の作り上げた空間に、千の軍勢が迷い込む。

彼らは、方向を失った。

ここがどこなのか、上なのか下なのか、左なのか右なのか。

彼らは、亜人のリザードマンであり、各々が屈強な戦士である。

しかし、そんな彼らでも、この幻影を看破する事が出来なかった。

軍は混乱におちいり指揮系統が、完全に機能しなくなった。

どんな強力な軍隊でも、統率がとれなければ、集団としての力を発揮することはできない。

多くの兵士が意識を失い。意識を失わずとも、ほとんどの者が朦朧としている。


たった一人で、千の軍勢を翻弄する。

朦朧としながら兵士たちは、退却を開始する。


「骨がないね」


唖然とするしかなかった。

相手を傷つけずに、


「強大な力じゃのう」


一通り救助を終えたノゥエが突然現れた。


「同胞よ、その力を我らの為にふるってみぬか?」


「同胞とは都合のいいことを」


「我らインテリジェンスこそ至高の存在と奢っていた。その結果が今回の事件につながった」


都市では、なおも救助が行われるなか、犯行グループと思われる死体が運ばれている。

その中に、茶色の肌の男がいた。

魔導エレベーターの所で話したドルクという青年だ。

すでに、絶命していた。


「これから急いで復興しなければならない。その力貰いうけたい」


「おことわりだね。利用されるにも、誰に利用されるかが重要だよ」


ノェウは、それ以上は何も言わず立ち去っていく。


クンヘルは、僕の前に降り立つと、【魔人化】を解除する。

急に脱力して、こちら側へ前のめりで倒れ込んで来る。

抱きしめるように、体を支える。


さすがに魔力を使いすぎたようで、そのまま意識を失ってしまったようだ。


「お疲れさま」


クンヘルの頭を優しく撫でる。


意識を失ったクンヘルを見守りながら、近くの木陰で休んでいると、ナーセットが現れた。


「ここにいらっしゃいましたか」


「ナーセットも無事でなにより」


「突然、アンデットの鳩が飛んできたときには驚きました」


「そのおかげで僕は助かったのだが」


「それはようございました」


「クンヘルの事をお願いしてもいいかな?」


「おそらく本人は、まだ貴方様の腕の中にいたいかもしれませんが、致し方ありませんね」


といいつつ、ナーセットはクンヘルを抱き上げる。


「ありがとう」


「また、旅に出られるのですか?」


「ああ、あのリザードマンたちがどこから来たのか気になるしね」


「もう少しこの子の傍にいてやれませんか?」


「……」


「冗談です。早くしなければ、彼らの行き先を見失ってしまいますから」


「すまない……」


「ご出立の前にこれを」


そう言い、ナーセットは、ネックレスを渡してきた。

ブロンドの剣をモチーフにしたそれは、僕の首にピッタリとはまった。


「このネックレスに意識を集中すると、貴方様の持っている武器に、光の加護をあたえることができます『赫灼(かくしゃく)の首飾り』とでも言っておきましょう」


「ありがとう。僕からも君たちに渡したいものがあるんだ」


クンヘルに、ガラスのアクセサリー。

ナーセットにガラスの腕輪を渡す。

結局何かをほどこすことは、できなかった。


それでもナーセットはお礼をいい、クンヘルも喜ぶと言ってくれた。

そして最後に、


「それでは旅のご無事をお祈りしております。いってらっしゃいませ」


再度、動力部を見に行き、サーキットボーグの残滓を確認。

《分解》のサーキットを獲得した。

完全には、破壊できなかったようで、都市の姿勢制御は行えていたようだ。

もしこれまで消されていたら、落下中に都市が傾き、もっと多くの死者がでていただろう。

――荒野の岩陰


その後、魔導二輪で、リザードマンたちを追尾している。

度の入っていない眼鏡に《遠視》を添付、匂いで気づかれない距離から3日間追いかけている。


歩兵メインの部隊であり、行軍速度は速くない。

ただ確実にどこかへ向かっている。

それがどこなのか。

ここがどこなのか分からない。

分かる事は、これが終わったら、帰る場所ができたという事だけ。


『いってきます……』心の中でつぶやくのであった。

自分のイメージを文字にするのが、こんなに難しいとは……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ