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ノェウ防衛戦Ⅱ

――クンヘルの遺跡


ゲームを一通り楽しんだところで、立ち上がる。

「あっ」


クンヘルが何か言いたげであるが、そのあとの言葉が続かないようだ。


「また立ち寄る。ここら辺に入口はあるのだろう?」


そう言い残し、出口へ向かった。


「もう来るな~」


クンヘルがどんな表情をしているかは、分からない。


ナーセットが出口までの道案内として、着いてきてくれた。


「クンヘルと遊んで頂ありがとうございました」


「いいや、こちらが遊んで貰ったようなものだから」


「クンヘルはずっと一人でこの空間に閉じこもってますから、外から来た人と話すのは久しぶりです。それに、それがあなたで良かった」


「君もずいぶん難儀しているようだね」


「私は、クンヘルの僕ですから……」


「僕に名前で呼ばせないだろう」


「どういう意味ですか?」


「……まあ良い。ところで、この空間はクンヘルが作り上げたのかい?」


「ええ、彼女は白竜とインテリジェンスの混血ですから、膨大な魔力量により、空間の作成を行っています」


「維持するのが大変ではないのかい?」


「そうでしょうね。マナの大半は空間作成に使ってしまっていますから。結界のような空間との断絶を生むだけではなく空間自体をつくっていますから」


「すさまじい魔力量だな……」


「この魔力量で、遊び道具を異界からかき集めて、引きこもっているんですからどうしようもないですが……」


「ハハハ」


「そういう貴方様も、なかなか稀な魔術をお使いになりますね」


「まあね。魔術回路の作成と魔石の作成だけだけど……」


「あらゆるサーキットの作成ができれば、理論的にはあらゆる魔術が使えることになります。とても強大な力ですね」


「そうかもね。でも、クンヘルの空間作成のサーキットは解析できなかったよ」


「お気を付けください。あまりに高い能力は人を狂わせます。自分自身はもちろん、他人もです」


「肝に銘じておくよ」


「クンヘルは、その巨大な力により他人を狂わせてしまいました。それに、魔獣の頂点である竜と天の使いとされるインテリジェンスとの混血は、忌避と羨望により差別を受け続けました。彼女の信じるものはその力のみとなりました。ある意味自分自身も能力に振り回されてしまったのかもしれません」


「そういうナーセットさんも信頼されているじゃないか」


「ナーセットで構いません。私も彼女の力で生まれましたから」


「そうか……」


入口らしき空間が近づいてくる。


「あなたはクンヘルにとって、いい刺激になりそうです。引きこもりの娘に彼氏ができた気分です」


「そんな気持ち分かるのかい……」


悪戯な微笑みを浮かべるナーセットに別れを告げて元の世界へと降り立つ。


――ノェウ近郊の森手前


日はすでに落ちて、虫の鳴く声森に木霊している。

魔導二輪を確認して、軽く深呼吸してみる。

日本の埼玉では、秩父でしか感じることのできないマイナスイオンを体に取り込む。


その瞬間頭に声が木霊する。


<おお。やっと繋がった繋がった>


「なんだかな」


<儂の念話が使えないなど何処に行ってたのじゃ。心配だったんだからね>


「君は僕の彼女か!」


<まあ良い。面白い噂を持ってきたのじゃ>


「噂とか言いながら、噂ではないんだな。もう慣れたよ」


<そうかそうか。天空都市ノェウを落下させるという計画が立っている>


「何それ何処情報?何処情報?」


<ウザ。天空都市落下に伴う損害は甚大ではない。都市の崩壊はもちろん。近隣の村々が落下の衝撃に巻き込まれる。舞い上がった砂塵は、太陽を覆い今年の作物に被害を与える>


「しかし、あの巨大な魔石をどうやって止めるんだい?」


<そこまでは不明じゃが、サーキットの破壊自体は理論上可能だからのう>


「サーキットリボークってところかな?」


<さあ、楽しい観光の始まりだ>


「鬼畜が……」


――天空都市、天空のブランコ下


天空のブランコは、観光客用の施設であり、有翼で無い者も天空都市に登れるような魔導エレベーターである。


有翼でない種族にとっては、空は憧れの場所である。

一度は飛んでみたいと思ったことは、なかろうか?

僕はあるね。


天空ブランコの近くで一夜を過ごし、今は列に並んでいる。

腹がすいておりおなかの音がなる。


「よう、兄ちゃんノェウは初めてか?」

肌が茶色ぽく焼けている好青年だ。


「そうだね。何回か来てるのかい?」


「おうよ。ダチがいるからな」


「そうかい」


「これやるよ」


大豆を潰したクッキーをくれた。


「ありがとう、いただくよ」


「おれはドルク。ロブクの出身だ」


「僕はレオナール、ラバーハキアから来たんだ」


「そうか近いのにあまり来なかったんだな」


そうこうしているうちに、魔導エレベーターが降りてきた。

十畳ほどの空間があり、観光客や住民、商人などが乗り込む。

貴重品以外は、物資を運ぶ用の魔導エレベーターに乗せられているので、皆荷物をそれほど持ってはいない。


約十五分ほどかかり、降り場に到着した。

雲の上にある都市。

まさに天空都市の名に負けない絶景である。

初めて来た観光客の第一声がため息であることから、

降りばから荷物受け取りカウンターまでの橋は、『ため息橋』と呼ばれている。


ため息橋を、渡り切り多くの人がごった返す中を通り抜けた。魔導二輪は地上に預けてあるので荷物はほとんどないからである。


ドルクは、荷物がたくさんあるからと、ここで別れた。

中央に広場と議事堂があり、とても綺麗だとの事だ。

相当な高度であり、空気も薄い。

ただし、都市に張られている。

【エアウォール】により、紫外線と酸素を調節しているようだ。


空気の被膜は何かに使えるだろうなぁと思いながら、今手にしたサーキットの構造をいろいろ考えていると、中央につながる大通りへと出た。

露店が立ち並び、雲の上にいることも忘れてしまうほどの、人ゴミと広さだ。


意外と、インテリジェンスの数は少なく、人族や亜人のほうが多かった。

インテリジェンスは、基本的には、金融、役所仕事などの職を営むことが多く、また種族の個体数もあまり多くないからだろう。


ノェウは現役で議長をやっており、すでに六十歳を超えている。

まだまだ、心身共にご健在で影響力は強い。


バルバトスからの紹介状を持っていることから、議事堂にはすぐに入れてもらえるだろうが、綺麗だとの事であるから、少し広場で休憩することにした。

広場には噴水があり、議長の肖像が近くにたっている。

噴水も人が多く、近くからは見れない。

喫茶店にはいると、一人席に勧められて紅茶とパンダパンケーキをオーダーする。

主な収入源は観光なのだろう。そこで得た収入を銀行に預け、銀行は融資により更に外貨を稼いでくるのだ。


なかなか美味しい紅茶だ。

確かに景色もいいし、ゆっくりすすりながら、今度のノェウの落下作戦をどう防ぐか考えていた。


まずは、議長を味方に付けるしかないな。

後はどうやって落下させるかを探るかだな。


――市内、石畳の小路


バルバトスからの招待状を見せたところ、議長との面会の許可は得られたが、あいにく本日は不在とのことから、訪問は明日の午後となってしまった。

今日の宿の確保をしてから、夕闇に沈む街を散策することにした。

ガラス工芸の店が並び、中には魔石を使ったアクセサリー店などもあった。

ガス灯のような魔石で点灯する街灯が並び、町並みは昔いったことがあるベネチアに似ている。


広場には、相変わらず人がいたが、昼間ほどではなかった。

噴水や石像はライトアップされており、ロマンチックな雰囲気が漂っている。

カフェは、飲み屋にかわり、お酒がふるまわれている。

今度はクンヘルに見せてやりたいと思ったが、同族からの嫌がらせで、引きこもっている彼女にとっては、同じように景色をみることができるか怪しい。


ガラスのアクセサリーを購入した。

翼をモチーフにしたそれは、クンヘルへのプレゼントに購入した。

同じく、ガラスの腕輪を購入。これはナーセット用。


後で、魔石とサーキットを刻もう。

買い物を一通り終えると、宿への帰路につく。


その途中、一羽の鳩が息絶えているのを見かける。


「君は、一生懸命飛んだここまでたどり着いたのに、最後の最後で果ててしまったんだね……」


いたたまれない気持ちになり、商業区から少し離れた住居区の植え込みに穴を掘り埋めた。

頑張ったら報われる。

それが当然でなくなったのはいつだろう?

学生時代の勉強は、頑張ったらある程度は、数字として報われたかもしれない。

社会人になってからは、報われたと感じることが、減ってしまったように思える。


少し夜風を浴びてから、再び帰路についた。


――翌日、議事堂内


今まさに、この都市において最高の意思決定者と面談している。

名前は英雄ノェウ、インテリジェンスは普通両翼の二枚羽だが、六枚羽であった。

インテリジェンスの羽の多さは、強さの証でもある。


「よく来たなご客人。わが友ラバーハキアの息子の知り合いとな」


「忙しいところ面会いただきありがとうございます」


「よい。観光はたのしまれたか」


「お陰様で。ところで、ノェウ議長様お耳に入れたい噂がございます」


「うむ」


「この美しい都市を落下させるという計画があるそうです」


「重要な情報と思いきや、年に何回も聞く噂話のようだな。我の対抗勢力が、よく不安をあおるためによく使う手じゃ」


「そうなのですか?」


「そうじゃ。安心せい魔石とサーキットの防衛は、我が都市でも選りすぐりの者で守っている」


「それなら安心しました。もう少し観光を楽しむことにします」


「うむ」


――荷物の搬入口


協力は得られないようだ。

自分自身で解決しなければならない事に苛立ちを感じている。

よもやま話として、無視して観光するのもいいが、おそらく信ぴょう性は高いだろう。

言葉の主は、混乱を望むが、退廃は望まない。

一方的な破滅より、そちらのほうが退屈しないのだろう。

問題の種が発芽するギリギリに、こちらを差し向ける。

【インビジブル】により、姿を消して都市の探索を行っている。

サーキットがあるのは、おそらく都市の地下。

都市の地下に一番近いとしたら、魔導エレベーターの荷物搬入口付近だろうと考え潜入した。


職員が、いそいそと搬入を行っている。インテリジェンスはそこにはおらず、亜人の奴隷が働いている。インテリジェンスはプライドも高く、前も思った通り、どちらかと言えばホワイトカラーとして働いているようだ。


十メートル以上の荷物もいくつもあり、それぞれ魔術で肉体を強化したり、荷物の重量を軽減して荷物の搬入をしている。


通路は複数に分岐しており、探すのは困難を極める。

おそらく、議事堂に近いはずである。

そちらの方角で一番大きな通路を調べる事にした。

従軍及び籠城する際に、狭い通路では兵士、武器等の搬送は非効率になると考えたからだ。


奥へ進むと一際広い部屋を発見した。

ちょうど中央広場の真下に位置していると思われる。

螺旋状の階段が下につながっている。

飛び降り、落下の速度を抑える。ゆっくりゆっくり落下していく。

少し薄暗くなってきた。

ノェウは精鋭たちが警備をしているといっていたが、あまり兵士をみていない。

数分の落下の後、淡い青色の輝きが見えてきた。

上の階段に、ゆっくり落下し、下の様子をうかがう。

さすがに、兵士が何人か見回りをしているが、欠伸をしていたり本気で警備をしている者などいない。


「天に近いからと奢っているな」


おそらく、グエンレベルの強者はいないものと思われる。

魔石まわりには、紋章が四つ刻まれており、一つは《上昇》、一つは《浮遊》、一つは《再生》一つは理解できなかった。


若い兵士が一人こちらを見てきた。

見えていないはずであるが、こちらに近づいてくる。

一応その場から離れ隠れる事にした。


「どうしたんだよ新入り?」

先ほど欠伸をしていたベテラン兵士が若い兵士に向かい話しかける。


「いえ、さっきまで何かいたような気がして。でも、気のせいでした」


「たく、こんなところに人なんか来るわけねーだろ」


「はっ」


どんなに腐った組織にも、優秀な者はいるものだと感心しながら、長居は無用と考え、長い階段を昇るのだった。


守るべき場所はわかったが、戦うべき相手が分からない。

まあ、すぐに何か起こるわけでも無かろうと思い。

宿に帰ったら考えることにした。

もうすでに、事は起こっているなど知りもせず。

少しストーリ―進行。

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