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寄り道とモーガス寺院と修行編 Z

おす!オラ最弱先生!おめーら楽しんでけよ!

――時送りの間・一週間経過


もはや飲まず食わずで、一週間同じようなことを、一日中やり続ける忍耐力には敬意さえ振るわなければならないのう。


人族より強靭な、バンパイア種とはいえ、そろそろ限界を迎えるころじゃのう。

寝ていても、避けられるくらいの速度しか出ておらぬ。


「そろそろかのう?鬼が本領を発揮するのは」


程なくして力尽きたように、小僧が倒れてしまう。

同時に、【魔人化】が切れてしまう。


軽い痙攣をおこしてはいるが、もはや身体の限界を迎えてしまったようじゃ。

恐らく人族では、この状態になった段階で、死へ向かうだけじゃろう。

しかし、鬼はここから生への執着を見せて来よる。


猛犬の様な低いうなり声が聞こえてくる。

痙攣も収まりピクリとも動かなくなったレオナールからだった。

声は次第に音量を増していく。


「ぐっうぅぅ……があぅあぅぅ」


むくりと立ち上がり、その赤い目は、儂を睨め付けてきよる。

牙は先ほどより鋭利になり、体全体から赤に湯気の様なオーラを纏っておる。


「やっと、【畜生道】へ落ちたようじゃのう」


先ほどとは比べものにはならない速度で、突進を仕掛けてくる。

食欲という本能にのみ従うそれは、まさに傷を負い追いつめられた野獣になり果てている。

もはや、人族でも魔族でもなかった。

知能は必要なく、ただ敵を食らい尽くす事のみに集中しているがゆえ、すべての力が捕食行動に回っている。


「やはり、厄介じゃのう」


一瞬、かすりそうになったものの、すんでの所で回避し、服を含めても傷一つない。


今のは、あぶなかったのう。


その後も怒涛の突進が続く。

どの段階まで、これを続けさせるのかと考えながら避けるだけの余裕がでてきたが、帝鬼も少し息が上がってきている。


「今何を言っても理解できまいが、【畜生道】に落とす事によって、お主の身体能力を強制的に高めておるんじゃよ。いくら強力な技を見たところで、それについていく体がなければしょうがないからのう」


「ぎぃやぁぁぁあぁぁ!」

更に、攻撃速度が速くなってくる。

それに合わせ、筋が断絶して、それを回復させようと体の代謝が加速していくたびに、紅いオーラは濃さと範囲を広げていく。

いずれこの超回復も限界を迎える。

その次の段階が、今回の目的地点。


マナは自然に起こる事象を変革させて、周囲にその影響を与える。

要するに、身体能力では賄えない傷を、マナの力で補う。

物理的な限界を、事象変革で超えてしまうという算段である。


帝鬼は、このままの力で、かわし続ければ次の段階では、服をかすめる程度の一撃が来ると考え、まだ力を解放せずにやりすごすつもりであった。


しかし、その考え方が甘かった。

徐々に攻撃速度が弱まり、もう一度機能停止してからマナの干渉が始まるはずであったが、レオナールの攻撃は、更に速さを増していった。


「何じゃこの鬼は、ただの鬼ではないのか?いや、小僧の意思がそうさせているのか」


「ぐうぐぐぐううぅ」

低いうなりと共に、身に纏うオーラが濃い赤から、青に変色していく。

顔から怒りの表情は失せ、代わりに獲物を狙う目に変わっていた。


「ううむ、なんと、【餓鬼道】まで落ちたというのかのう」


餓鬼は、食欲の塊。目前の欲望への固執そのもの。

そしてそれは悪である。

ここでの悪とは、自身の行動を顧みる能力としての悪であり、強さの悪である。


先ほどより、更に速度を上げた攻撃を仕掛けてくる。

突然の変化に、さすがの帝鬼も対応する事ができず、服にかすり傷ができる。


「ここで、止まるお主ではないじゃろう?」


すでに、ここでのルールなど、意に介さず、目の前の老人を殺害し、その肉をむさぼる事に固執してしまったレオナールには、声も思考も届かない。


「しかたない弟子じゃのう」


レオナールとは少し距離をおく。

帝鬼の体から、レオナールと同じ青いオーラが漏れ出る。


「これが、力の使い方じゃよ」


瞬時に、レオナールまで距離を詰める。

本能により、身の危険を感じたレオナールは、回避行動に移る。

しかし、それに合わせ帝鬼は、更に距離を詰め、腹部に一撃をお見舞いする。

レオナールの体が、浮き上がり、後方へ吹き飛ばされ動きが完全に止まる。

さすがに、二度目はなく、静寂が訪れた。


「自力で【餓鬼道】まで落ちよるか。今後は、注意しなければ殺されかねないのう」


入るときに没収しておいた生命の魔石を、レオナールの口に含ませた。

意識はさすがに回復しないが、壊れた筋が、回復していく。

その後、彼が意識を取り戻すのに、二日かかってしまった。


以後、一年間を掛けて、絶食訓練は行われ。次第に、体が肉弾戦に適したものになってきた。シャープであるが、適度の筋肉がついている。また、マナを効率的に取り入れる事ができるようになり、もともと膨大にあった魔力は、以前の比ではなくなっていった。


何度目の食事だろうか、よく噛みながら味わっている時に、

「老師、何故このような過酷な訓練から入るのでしょうか?技とかは教えていただけないのでしょうか?」


「ほっほほ。戦闘において勝利とはなんじゃ?」


「敵を無力化する事だと思いますが」


「その通りじゃ。しかし、無力化する上で、技は必要かのう?」


「それは絶対ではありませんが、あったほうが良いのではないのでしょうか?」


「技とは、ただの型じゃ。相手を無力化するのは、武器でありその拳じゃ。相手の攻撃を避けるか、耐えて。相手に攻撃を仕掛ける。ただそれのみ」


「避けて、耐えて、与える、ただそれだけですか……」


「そうじゃ。技を覚えるのではなく、戦い方を覚えるんじゃ」


「わ、わかりました」


「それでは、また始めるかのう?」


これで暫く食事ともお別れかと、名残おしく皿についてた残りかすを舐めてから立ち上がる。


「マジか……」

――時間送りの間・三年目経過


絶食訓練は三年目も終わる頃には、やらなくなった。

正確には、やる必要が無くなったのだ。

そもそも、何故絶食訓練をやっていたのか、三年目にして聞いて見たところ。

三大欲求のうち最上位である「食欲」を刺激する事によって、「捕食したい」という思いを増幅させるためである。思いとは「願い」に繋がり、マナの操作過程で一番重要な要素である。

また、執着とは「集中力」であり、どんどん落ちていけばいくほど、集中力が高まる。

【畜生道】より【餓鬼道】のほうが、その業が深い。道とは、精神状態である。


現状では、【畜生道】の状態でも、正気を保つ事ができる。

本能的な行動だけでなく、そこに簡単なフェイントを交える事もできるようになった。

しかし、老師には、攻撃を加えることはできるようになったが、決定打は打てず、いまだに一回も勝ったことはなかった。

ただ、老師も【畜生道】に落ちた状態での戦闘であり、いままでのように普通の状態では勝てないと悟っているようだった。


「老師、剛には軟をと言いますが、軟には何をすればよいのでしょうか?老師の動きはまるで風や水のように捉える事ができません」


「軟には剛をじゃ」


「意味がいまいちわかりませんが、柔らかい動きには、強い動作は敵わないのではありませんか」


「要は、剛が無ければ最終的な決定打は打てないという事じゃ」


「使い分けるという事ですか?」


「その通りじゃ。それを「和」と名付けている」


「それはどう身に着けていけばよいのでしょうか?」


「それは経験により身に着くものじゃ。気長に考えるものじゃ。儂の教えには、奥義やっ必殺技はないが、最終的な教えとしては『三位一体』を常に意識する事じゃ」


「とおっしゃいますと」


「『三位一体』とは、『心』『技』『体』が、いずれ何れかに帰結しバランスをとる事じゃ」


「心技体とはよく聞きまるが、何をさしているのですか?」


「いままで、お主が修行でやってきておることじゃ。『心』とはその精神状態。要するに『道』じゃ。強い願い。『技』とは先ほど話した『和』じゃ。決して必殺技ではないのじゃよ。勝つための柔と剛の使い分け、そして『間』の見極め。ここが一番時間がかかり、同水準の相手との勝敗の決め手になる。『体』は、文字通り身体能力じゃ。『心』を鍛える上で、お主は成長したようじゃがのう」


「例えば、体が成長していれば、心と技がそれに合わせようとするという事ですか?」


「その逆もあるから気を付けるのじゃ。衰退したほうに合わせようとする場合じゃ」


「分かりました。肝に銘じます。心、体が成長したので、いずれ技も成長すると信じて修行をつづけます」


「良い心がけじゃ。褒美に良い鍛錬を提供して進ぜよう」


【多相童子】


老師の首にかかっている数珠が光を放つ。老師が印を切り地面に手を付ける。すると、地面が盛り上がり、土が子供の形をとる。術を見ても吸収できないということは、魔術回路で作られているわけでは無さそうだ。


「この土人形は、さまざまなものに擬態できるのじゃ。それは、儂の記憶にあるモノならどのようなものにもじゃ。例えば、これはどうかのう」


僧服を着た。青年が現れた。ただならない雰囲気を放っている。


「こ奴は、儂の弟の王鬼。儂が知る最後の姿じゃ。今のお主では相当苦労するぞ」


「勝てないわけでは無いのなら、全力で立ち向かうまでです」


王鬼は、兄の帝鬼とは違い剛を得意とする者であり、一撃一撃が重い。

勿論、その分の予備動作が長い事もあり、今の自分では、見切る事が可能であるが、すきがない。


【畜生道】


紅いオーラを纏う。お互い突撃するように、全身し互いに拳を突き出す。

相手は体重が、こちらは速さがのり、衝撃波が周りに霧散する。


「うおおぉぉぉおお」


気合と共に、更に両腕から、攻撃を打ち続ける。

相手も、同じように正面突破でくる。

お互いの真正面からの打ち合い。

当然、体重のある王鬼のほうが有利である。

それでも、一歩も引く気はない。

剛には軟をが鉄則であるが、この剛に負けるようでは、帝鬼の軟にはかなわない。

打撃からの回復は、代謝とマナにより、超回復をしている。

『体』で負けているのなら、『心』か『技』を上げればよい。

『技』は上げられない。正攻法で戦うことを選んでしまったので、剛で押し切るしかない。

それならば、『心』を変えればよい。


【餓鬼道】


紅いオーラから蒼いオーラへと変化していく。衝動に精神が肉体が持っていかれそうになるのを抑え、ただ前の敵に集中する。


攻撃力とは何だ。

それは、体重と速度だ。

当然、自分自身の攻撃に耐えられるだけの硬度も必要にはなる。

重量や、力の方向は相手が有利。

だったら、より早く力がのりやすい角度で、打ち続けるしかない。

もはや、致命傷以外は、避けることをせず打撃に集中する。

打撃による痛みなどもう感じない。衝動へ引き込まれまいと耐える方が、ずっと苦しい。


「はあぁ……はあぁ」

自然と笑いが込みあげてくる。

分泌された大量のアドレナリンが、自分の器からはみ出しそうになっている事を感じながら、何とか衝動に流されないように、踏みとどまる。


殴り続ける拳は止めず、更に前へ踏み出す。

致命傷ではないとはいえ、十分な攻撃力の拳を受け続ける。

意識が朦朧とするなか、渾身の一撃を叩きこみ、倒れ込むのであった。


意識が回復してから、最後の一発が決め手となり、王鬼も倒れたとの事を聞く。

勝利したとはいかに戦い。

更に次の日も、毎日の基礎訓練の他に、【多相童子】により老師の戦ってきた、見てきた相手との勝負を行うようにした。

二年の後に、再度王鬼との対決を行ったときは、剛の戦い方で【畜生道】で勝利。軟の戦いのみで通常状態で、勝利するまで成長する。


足掛け八年四ヶ月の修行を終えて、最後に老師と向かい合っている。


「ようここまで来たものじゃ。すでに、外の世界では一ヶ月経過しておる。最後に、外にでたかったら儂と勝負する事じゃな」


「老師今までの教え、今日あなたにぶつけて見せます」


それだけをお互い告げたら、両者とも構えにはいる。

両者とも心は、【餓鬼道】に置き、互いに突進していく。

お互いの拳と拳が、ぶつかり合ったことで、衝撃波が生まれ空間が歪む。

それだけで、外に出られるかもしれない。

でも、そんなものはどうでもよかった。

外にでたいというのは建前で、今は目の前の強者との闘いを楽しみたい。

そんな、熱血系の主人公の様なことを、本気で考えながら、鬼の血が湧くのを楽しむのであった。

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