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武士 異伝  作者: 弁鳥有無
降誕編
9/104

捌 勝利の代償

 大猿の最期の吐息が大地に飲まれていった。

 辺りを死闘の後の静寂が包む。

 その静謐な静けさは男の勝利を讃えているかのようでもあった。


 戦いは終わった。

 男は大猿が黄泉路に旅立ったのを確かに見届けた。

 次の瞬間、喀血し身体が震え地に膝を着く。全身を熱と激痛が襲う。

 真っ赤に熱した鉄の棒を押し付けられてるかの様であった。

 膝を突いただけでは身体を支えられず大地に伏す。

 全身が痙攣し、動かす事が出来ない。

 大猿の最期の、文字通り死力を振り絞った攻撃は、強かに男の全身を打っていた。

 かわすどころか防ぐ動作をする時もなく、大猿の攻撃が来る寸毫の間に、残った全ての気を防御に回すのが精一杯であった。

 瀕死だったとはいえ、死力を尽くした大猿の打撃は想像を超えた物であった。肉は断裂し、骨には亀裂が走った。

 だが男の体はそれに耐えた。

 命はあったが大きな損傷を負ってしまっている。

 肉と骨で防ぎきれなかった衝撃は、体の内部へと伝わり、臓腑をも強かに打ちのめしていた。

 幾度にも渡る大猿の打撃と、精根尽き果てた戦いによって、最早指先一つ動かす事が出来ないほどであった。


 意識を失う間際、見えるはずの無い空に浮かぶ月が見えた。

 蒼蒼とした光を湛えた不吉なほど美しい満月であった。

 現実とは思えない光景に

 あぁやはりこれは今際の際に己の願望が見せた夢であったのだな

 男はそう思った。

 視界に闇が迫り一帯を飲み込む。

 男は意識を失った。

 それでも尚、右手には刀が握り締められていた。

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