監察官(1)
序章
平日の日差しのいい朝。学校へと続く坂道を一人の少年が独り言を吐きながら歩いていた。
「まずは自己紹介をはじめよう」
誰に説明するわけもないが、なぜか説明しないといけないような使命感に襲われている自分がいた。
「俺の名前は甲斐飛鳥。家族構成は弁護士の父親にお偉い議員の母親の長男として生まれた世に言うエリートの子供である。もちろん家はお金持ちで無駄に広い屋敷に住み、宝石のように大事に育てら何の不自由もなく育てられた子供である。もちろんこういった子供にありがちの我儘で生活能力が全くないという特技も持っていた。しかし、世の中は上手くいかないことばかりだ。父親の不倫騒動が発覚し、追い討ちをかけるように母親の脱税問題も発覚し、家族は離れ離れになり俺は世間から存在を隠すかのようにしてこの島に送られた哀れな存在である。だからといって俺は悲しんだりしていない。世の中には俺なんかより沢山不幸な生活を送っている奴らも沢山いる。全てを失い俺はこの島に放り出されたが、何分生活能力を全く持っていない関係か目覚まし音で起きることもできていない。そのせいもあって入学式が始まる前から学校を見ようという計画が台無しである」
そう現在の時刻は12時45分ともう入学式が始まろうという時刻である。
「せっかく時計を用意したが、アラームスイッチをオンにしていないとういミスをしてしまいこのような時間になってしまった。まあいいか…学校なんて早く見たってあまり意味がない。これから毎日見ることになるのだから」
あれこれ考えているうちに学校についてしまった。時刻は13時を過ぎてしまっている。校舎は木造二階建てでよく見る形の学校だ。しかし校舎を囲む壁はコンクリートで高くそびえ立ち、外からの侵入を妨害している。正門を入る際、警備員が怪訝な顔で近寄ってきた。
「君は見ない顔だけど…新入生かな?」
怪訝な声で話しかけてきた。
「はい。自分は今日入学してきた甲斐飛鳥といいます」
返事をすると同時にポケットに入れておいた身分証明書を渡した。係員は証明書を受け取り、手元にあったパソコンでIDを確認した。
「甲斐…、甲斐飛鳥…、ああ、君は1―1教室だから、入って階段を登って右の廊下を進んでもらうとあるよ。もうすぐ入学式だから急いで行ってくれ」
申請を済まし、言われたとおり教室に向かった。少しずつ緊張が高まってきた。1―1という教室の看板を確認するとドアを開け、中に入った。
ドアを開けると同じくらいの年の男女が7人確認できた。ドアを開けた音で半分以上がこっちを向いている。恐る恐る中に入り、唯一空いていた左後ろの席に腰を降ろした。
席に着くと左の急に男が話しかけてきた。
「よおっ、俺、長谷川大介って言うんだ。よろしくな、えっと…」
「甲斐、甲斐飛鳥だ。こっちらこそ宜しくな。長谷川くん」
「いいよいいよ、俺のことは気軽に大介って呼んでくれて。こっちも飛鳥って呼ぶから」
「ああ、宜しくな大介」
そう言って俺たちは握手を交わした。
「一つ聞きたいけど飛鳥って15歳だよな?」
「ああ、勿論そうだけど…、もしかして俺って老けて見えるか?」
「いやいや、なんか少し大人びた雰囲気を感じたけど、ここにいるってことは同じ歳だよな。悪いな、なんか気を悪くさせてしまって」
「いいってことよ、よく言われることだし」
そう、俺は15歳のわりには少し大人びて見えるらしい。まあ大人っぽいって格好良いってことだろうけどな。
それと同時にチャイムが校内に響き渡った。そして教室のドアが開いた。
「はーい、貴様達席につけ―」
入ってきたのは二十代前半に見える若い女性だった。服装はスーツ姿だが、谷間のあるふくよかな胸に男子は釘づけになっただろう。
「えー、今日からこのクラスを担任することになった夕月亜梨沙だ。宜しく」
普通に新入生に挨拶をするような感じで話し始めた。
「入学ついでに私から貴様達に忠告することがある。貴様達はこれから普通の学園生活を送れると思わないことだ。なんせ貴様達は犯罪者なのだから」
第一章
人口八千人のこの街の丘の上に大きな学校が存在する。学校といっても全体が塀に囲われており、出入りには必ず警備室を通らなければいけない構造になっている。勿論この学校は普通の生徒を育てる環境ではない。ここは犯罪者を構成する学校である。
現在この国には罪を犯した場合、二つの処罰が行われる。一つは収容施設行きである。これは成人を満たしたものが罪を犯した場合に送られる施設である。またこれは成人に満たないものでも殺人などの凶悪犯罪を行ったものも送られる。もう一つは未成年院である。これは字の通り成年に満たないものが罪を犯した場合、直接収容所には送られず、未成年院に送られる。未成年院では監察官が犯罪者たちに対して更生を促して更生した場合は社会復帰をし、しなかった場合は収容所へと送られる。その未成年院がこの学校である。
「そして私が君たちの監察官だ。この環境では私こそが全てだ」
自分が正義といわんばかりの口調で彼女は話し始めた。
「良いか、そもそも貴様達に人権など存在しない。なぜなら貴様達が犯罪者だからだ。貴様達は誰かの人権を犯し、ここに送られてきた。つまり貴様達の存在によって誰かが苦しんだのだ。そんな貴様達に人権を与えてみろ。人権を侵害した奴に人権なんて与えられると思うか。答えは否だ。貴様達に人権など与えられるべきではないのだよ。その事をよく自覚して今後の学園生活を送るように。分ったか、返事はっ」
「はいっ!!」
「ではこれから入学式を行う」
これから、ということはここで行うということなのか?
「夕月先生―、入学式はここで行うんですか」
俺たちの疑問点を大介が聞き出した。
「貴様は長谷川大介だな。良いか、私のことは夕月監察官と呼ぶように。でだ、貴様の質問に答えてやろう。現在、この学校の生徒は貴様達のみだ」