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第六話


 この世界はある意味平和である。


 魔王に支配されかけた世界。

 魔物が闊歩し、荒野には人を呑み込む迷宮。

 外を歩けば山賊に襲われ、海を行けば海賊に襲われる。

 街にいても暗殺者や邪教徒が暗躍している。


 なにが言いたいのかと言うと。

 仕事が無いのだ。

 

 ギルドに行けば、登録している者なら誰でも仕事にありつけた。

 年齢にかかわらずだ。

 薬草採取から、魔王の討伐まで幅広く。

 実力のみが求められていた。


 この世界は戦争をしているが、実際は職業軍人と呼ばれる人たちがやっていることだ。

 一般人が参加する事は、徴兵が行われるようになるまではない。

 ましてや、子供が戦争に参加して報酬を得るなんてことは出来ない。

 そんな状況があるとしたら、すでに敗戦一歩手前の末期にでしかありえないだろう。


 くどくなってしまったが、子供がお金を稼ごうと思うと大変なのだ。


 そんな中で見つけたのがこの仕事。

 肉体労働だ


 空襲を受けた被害の復旧がまだ行われているため、どこも人手不足。

 水道管に下水管、ガス管に街道の整備、家の建築から河川の修復まで何でもござれ。

 最初こそ相手にされなかったが、仕事ができると見るや嬉々として社長が書類を偽造していた。

 さすがに年齢がまずいらしい。

 仕事をしていれば汚れて黒くなってしまうので、背が低いで通っている。

 土魔法は使い放題で、体の鍛錬にもなるので重宝している。


 つるはしを振りおろし、スコップで土を掘り起こす。

 眼の端に工業用ロボットが作用しているのが見える。

 民間の間でも使用されているものだ。

 巨大なスコップやドリル、荷台などアタッチメントを変更することができ、一台で多目的に使用できるので重宝されている。

 いざという時は、軍の倉庫にある戦用アタッチメントを取り付けることで戦う事が出来る。

 ただ、操縦するのは軍人になるので、実際に動かした事がある人はないみたいだ。

 

 工業用ロボットを使ってみたいと思うが、仕事中に事故が起きた時のリスクから使うことは禁じられている。

 主に重機の入らない狭い場所の作業に従事しているのだ。

 いろいろと適当な会社ではあるが、その辺はきっちりしていた。


「おう、頑張っているな。 昼休憩だ、みんな上がってこい」

「「「お疲れ様です」」」


 書類を偽造していた社長だ。

 昼飯を持ってきてくれたようだ。

 強面であるが面倒見がいい人なので、会社の人から好かれている。


 今日はから揚げ弁当。

 会社で作っている自家製のから揚げで、肉汁が豊富で人気のメニュー。

 入社当時は先輩に強奪されていたが、いまでは奪う側だ。

 この筋肉社会においてだけは、強さが何よりも重んじられる。

 弱肉強食なのだ。

 一方的な蹂躙される側から一転、蹂躙する側に回ったあの事件をきっかけに、随分と交流を深めることができた。

 一時は、休憩時間を使って体力を消耗するという、不毛な戦いが繰り広げられ、仕事に支障が出てきて、社長のから揚げ弁当を廃止するという宣言が出るまで続いた。

 今では停戦条約が結ばれ、弁当への不可侵条約が効力を発揮しているため、昼飯時間は平和になっている。



「社長、この前借りたマニュアルは全部覚えたので返しますね」


 そう、機械に触ることはできなかったが、マニュアルは借りる事ができたのだ。

 かなり分厚い冊子だったが、一字一句間違えず、記憶した。

 元の記憶力がいいのもあるが、そこはもちろんアレだ、アレを使ったのだ。

 一から覚えるのはそれなりに時間がかかったが。


「全部覚えたのか。 しかしなぁ……」


「社長! 大丈夫ですって、ハヤトなら出来ますって」

「そぉっすよ、俺より頭いいしな!」

「俺も、心配は無いと思います。 社長」

「「うん、うん」」


 社長は悩んでいるようだが、先輩たちが援護射撃をしてくれる。

 実際問題、工業ロボットを動かすには免許が必要になる。

 無免許で操縦し、事故でも起こそうものなら、社会的に終了だ。

 俺も仕事で使いたいわけでなく、暇な時間にでも動かす事ができればいいなといった感じだ。


「よし、決めた。 お前に工業用ロボットは、まだ早い」

 

 ダメだったか。

 ちょっと期待してしまった。


「そりゃないっすよ、社長!」

「そぉっすよ」


 抗議の声を上げてくれるが無理だろう。

 一度決まった事はまず覆らない。


「その代わり。 パワードスーツを貸してやる。 それで我慢しろ」

「ほっ本当ですかっ!」


 思わず聞き返してしまった。

 

 パワードスーツ。

 人工筋肉を使い、人体の力をはるかに凌駕する力を発揮する事が出来る補助機械である。

 見た目は小さなロボットを着込むという感じだろうか。

 重い物はもちろん、高速で移動する事もできる。

 小ささゆえに稼働時間は短いが、有線で繋げば問題もない。

 ちなみにお金を貯めていたのは、将来的にパワードスーツを買うためでもある。

 かなりの高額で個人で買えるようなものではないが、いい装備は欲しくなるのだ。


「ああ、もう決めた。 その代わり今まで以上に働いてもらうぞ」


「「「「えっーーーーー!!!!」」」」

「それは、ないっす社長!」

「なんで、ハヤトの奴なんかにっ!」

「ってことは、社長のですか!?」


 一転して、俺への非難が飛び交う。

 パワードスーツは高価なため、会社にも無い。

 あるのは、社長のパワードスーツのみだ。

 社長が若い時、そのスーツを着て抗争を戦ったと先輩たちから聞いている。

 いまでこそ引退しているが、その内容は今でも語り草になっており、とある界隈では伝説となっているらしい。

 

 今となっては散々聞かされて、耳にタコができたが、初めて話を聞いた時は、伝説のパワードスーツという言葉に心をふるわせたものだ。

 伝説の剣、伝説の鎧、伝説の杖。伝説の魔法。

 素晴らしい、響きだ。

 結局どれも目にする事はなかったが、今その伝説がすぐそこまで来ている。


 続いていた先輩たちの非難は、社長の一喝で止まり、仕事が再開される。

 社長の機転で、仕事終わりにこの場所で、パワードスーツを着せてくれるとのことだ。

 わざわざ持ってきてくれるらしい。

 機体に胸を膨らませながら、仕事を続けるのであった。




 仕事が終わる時間が近づいてくるにつれ、だんだんと現場の空気が変わってくる。

 皆、実物を見るのは初めてで、興奮しているらしい。

 仕事が終わり、片づけをしていると、社長の車が近づいてくる音が聞こえる。

 急いで片づけを終わらせ、社長の前に並ぶ。


「「「「お疲れさまです」」」」


 普段なら挨拶して解散になるが、今日は誰も動かない。

 みんな待っているのだ、伝説のパワードスーツを。


「よし、ハヤトこっち来い」


 車に近づくと、折りたたまれた状態のスーツが荷台に乗せられているのが見える。

 社長が後部ドアあけ、「持てるか?」と聞いてくる。

 ぐっと力をこめて持ち上げると、満足そうな顔で社長が頷く。


 パワードスーツは人工筋肉から生じる力を受けとめるためフレームが金属でできている。

 フレームを強くすればするほど、強力な人工筋肉をつけることができるので、強力な機体ほど重くなのだ、動力が無くなれば、この重さを生身で受けとめなければいけないので、自分で支えられる重量が目安となっている。

 社長のスーツは今まで見た中でもかなりの大きさで、かなり重い。


 地面に下ろして動力を入れると、折りたたまれたパワードスーツが展開する。

 真黒に塗装されたフレームが開き、搭乗者を向かい入れる。


「そのまま、乗ってみろ。 サイズは自動で合わせてくれる」


 脚をいれ、腕を通すと、自分の骨格に合うように調節される。

 機体が大きいので、いつもより目線が高くなる。

 社長が動いてみろと促す。

 頷き返し、一歩目を踏み出す。



 …………動かない。

 初めて乗るが、パワードスーツの基本的な操作は工業用ロボットと同じのはずだ。

 さらに力を込めてみるが、びくともしない。

 

 どうしてなのか分からないまま時間が過ぎてしまった。


第五話は予約失敗してそのまま投稿してしっまたようです。


主人公にはこの世界での目的を持ってもらいたいですね。

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