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第一話



 頬に冷たい感覚が広がる。

 だんだんと、意識が戻ってきたみたいだ。

 体の感覚が戻るにつれて、急激に意識が覚醒してくる。


「……戻ってきたのか?」


 周りを見渡すと遠くに入口の明かりが小さな点として見えており、薄暗い洞窟にいることがわかる。

 しばらくして暗闇に慣れてくると、奥の方に苔で覆われている祭壇が見える。ところどころ崩れ年代を感じるそれは、明らかに別の場所であることを示している。

 昔、幼いころに迷い込んだ森の洞窟。どのような場所であったか、すでに記憶にはない。

 しかし、転送の成功にふつふつと嬉しさが湧き上がってくる。

 このために、今までやってきたのだから。


「とりあえず、現状を確認しよう」


 つい、誰もいない空間ながら独り言をこぼしてしまう。思っている以上に興奮しているようだ。

 口元が自然とにやけるのを止められない。


 視線を下ろして、体の確認をおこなう。

 万が一転送に失敗していて、体に欠損が出ていないか心配になる。

 特に実験をしたわけでもなく、一発勝負だったのだ。

 冷静に考えると一時の感情に任せて、とんでもないことを実行したように思える。

 とりあえず、深刻なダメージがなかった事を幸運と思っておく。


 ただ、1つ問題があるとすれば、体が縮んでいることぐらいか……。


「ふう……」


 ため息が出て、にやけた顔も元に戻る。

 装備品が体に合わず、ぶかぶかになっている。

 着ていた服はかなり大きく重く感じる。

 気合いを入れて作った皮製であるため直せばまだまだ使えそうだ。


 ただ鎧などは転生の影響か周囲に散乱している。

 思っていたより影響が大きく鎧に止めを刺してしまったようだ。

 もともとボロボロだったが、金具が壊れて散らばっている様を見ると、向こうでさんざん倒した『彷徨う鎧』と呼んでいた魔物の姿を思い出す。

 乱獲して集めた鎧を鍛冶屋に売り捌いた記憶が懐かしくなってくる。


 散らばっている装備を回収して、魔法が使えるかどうかを確かめる。

 体内を流れる魔力を感じるので、もしかしたらこの世界でも使えるのかとわくわくしてくる。

 いろいろと魔法はあると便利なのは間違いないし、ロマンもある。

 体の年齢に引きずられているのか、精神年齢も若くなっているようだ。

 いい大人が、『魔法を使えたらどうしよう』なんて考えているのは絶対そのせいに決まっている。



 落ち着こう。

 ただ、いざ魔法を使おうと思うと躊躇ってしまう。

 まだ転移してから、一度も魔法は使っていないのだ。

 つまり、この世界では魔法が使えない可能性も十分あるわけだ。

 ここまで期待させておいて使えませんでしたでは、がっかりもいいところだ。

 先ほどまで魔法を使ってどんな事をしようと夢を膨らませていただけに、緊張する。


 煩悩を祓って、意識を集中する。

 体内の魔力を感じ、糸を紡ぐように力を加える。


 冷静になれ、つい先ほどまで魔王相手にがんがん魔法をぶっぱなしていたんだ、出来ないはずがない。己を信じろ!


 紡いだ糸をさらにねじり合わせ、より太く、より太く力を大きくしていく。

 限界まで力をため、一気に放出させる。


「っっっライト!!!!」


 洞窟内が明るくなり、大きな空間が姿を現し、祭壇が半分土に埋まっているのがわかる。

 魔力を消費したことで、倦怠感をわずかに感じる。

 魔法がこの世界で使えることが証明されたのである。


「いっよっしゃあああああ!!!!」


 興奮のあまり、こぶしを振り上げて咆哮をあげる。


「ライト! ライト!! ライト!!! ライトおおおおお!!!!!」


 洞窟内に明かりが無数に飛び出し周りを照らす。

 下手に火や水を出すと後が大変なので、そこは冷静に、光を打ち出しまくる。

 テンションが高すぎて、かなり肉体年齢に引きずられてしまったようだ。

 魔力消費による疲れによって冷静になるまで、あほみたいに興奮していた。

 後先考えずに、ぶっぱなさなかった自分を褒めてやりたい。



 とりあえず、周りに散乱している装備を回収し、アイテムボックスから適当な布を取り出して服を縫いながら考える。


 ちなみに裁縫は冒険者必須の技術だ、いつどこで服が破けるか分かったものではない。

 森を歩けば枝に引っかかり、戦闘があれば切り裂かれ、そのたびに買い替えて消耗品と割り切るにはお金がかかりすぎるのだ。

 一か月も山に入ってそのまま出てきたら、ボロボロ過ぎて町にも入れてもらえないなんて事があった。

 裁縫技術が上がるまでは、みんなひどい格好で一目で初心者だとわかり、裁縫が上手くなって服装が整ってくると自然と一端の冒険者になっている。

 ある種のバロメーターにもなっていた。

 ただ、冒険者として成功してお金が入りこむようになると、だんだん裁縫技術が低下するのは、しょうがないと思う。


「いよっし、できた。 とりあえずはこれでいいか」


 間違って手を縫いつつ、回復しつつ完成した。

 服装は皮シャツ、皮パン、皮ジャン、皮靴、皮グローブの5点セットだ。

 初めこそ布で作っていたが、完成品のあまりの防御力のなさに拒否反応がでてしまったのだ。そのせいで手はボロボロになってしまった。

 今までの習慣であまりに弱い装備だと不安でしょうがない。

 これも異世界転生のリスクとして受け入れるしかない。

 一応、恰好はついたが、この世界では毛むくじゃらの原住民と間違えられそうだ。

 とりあえず家に帰るまでこれで我慢する。

 一時凌ぎとしてなら十分機能する。


 そろそろ、家に帰る算段を付けないといけない。

 この森に来たのは、たしか学校の遠足で道を逸れたのが原因だったはず。

 だとすると……今からでも布の服を作った方がいいかもしれないな。

 毛むくじゃらとか、なんて説明すればいいか、頭が痛くなる。

 とりあえず合流してから考えよう。

 現状、山で遭難しているのと変わらないのだから。



 外に出ると新鮮な空気が鼻を通る。

 もはや昔のことなど覚えてはいないが、なんだか懐かしいにおいのような気がする。

 殺気のこもった殺伐とした空気ではなく、平穏な穏やかな空気を感じる。

 さっきまでの悩みなんか飛んでいってしまいそうだ。


 近くに誰か人がいないかを探る。

 こんな時に魔法は便利で助かる。

 興奮して乱発してしまったが、少し回復して簡単な魔法を使う魔力はある。

 魔力の総量は想像以上に低下していて、ポーションがあれば欲しいところだ。

 使いきって無くなってしまったので自然回復にまかせているが、この世界で完全回復するには時間がかかりそうだ。



 子どもが一人遭難しており、索隊が出ていてもおかしくない、子供の足で道から逸れたとしても大した距離を移動していないはず。

 探査範囲を広げていき反応がないか調べると、500m先に4つ反応が集まっており、そこから少し離れたところにもう1つ反応が移動しているのがわかる。

 やはりそれ程離れてはいなかったようで休憩所か山道がありそうだ。

 まずはそこに向かって進むことにする。

 恰好については気にしないことにしよう。



 反応のあった付近へと近づいたところで、道に迷っていることを装う。


「だ、だれか……いませんか」


 思ったより声が出ない。

 前の世界ではさんざん慣れていたが、この体で山の中を歩くのは想像以上に疲れる。

 まるで、遭難者のようだ。山を舐めていたかもしれない。

 魔法で周囲を探査したため残り魔力も少なし、この体では威力も弱い。

 元の体のつもりでいたので、近くに人がいなければ危なかったかもしれない。



 反応がある近くまで来たが、反応がない。聞こえなかったのだろうか。

 移動してしまったとしても、道かなにかあるはず。

 歩きながら、もう一度声を出そうとすると反応があった。


「動くな、両手を上げて地面に伏せろ」


 姿は見えないが索敵する。

 十二時の方角に二人、岩の陰に隠れている。

 さらに三時の方角に一人、六時の方角に一人。

 完全に囲まれている。

 

 油断しかしていなかった。

 だが、ここは有名なハイキングコースのはず。こんな事は想定外だ。

 考えたくはないが、まさか……。


「うぐっ」


 混乱していたせいか、後ろから来るのに気付かなく反応が遅れる。

 乱暴に地面に組み敷かれ、肺から空気が押し出される。

 反応できたとしても、この体ではどうする事も出来なかったろうが。

 背中の上から腕の関節を決められると、激痛が身を走る。


「やめろ、放してやれ。 だが声はだすなよ」


 気づくと前方から来た一人が、助けてくれた。

 組み伏された状態から立つことはできたが、まだ両腕は後ろで確保されたままで、口に何かを突っ込まれしゃべることはできない。

 ただ確保するだけで、痛みはないのでたすかる。


「恰好はおかしいですが、武器は所持していないです」

「周囲に敵はいません、警戒を続けます」


 組み伏された一瞬で、調べられたようだ。

 残りの二人は警戒して、周りを偵察している。

 四人の恰好は、全身を軍服のような服装に覆われている、たぶん間違いなく軍服だが。

 顔まで隠れていて、全くわからない。

 趣味でやっているとは到底思えない。


「しかし、なぜこんな所に子供がいたのでしょうか」

「何も持っていないところをみると、地雷原でも歩かされていたのかもしれん。 確証は無いからわからんが、ここで尋問するわけにもいかん。 帰還するぞ、本部へ連絡しろ」

「了解しました。 この子供はどうしますか」

「眠らせておけ」

「本部へ子供を回収した応援を願う。 座標はCの…………」


 首筋に衝撃を受け、意識が遠くなる。

 またかよ……。

 本日二回目の意識消失に愚痴が頭をよぎるが、声に出す間もなく眠ってしまった。



推敲って終わりがないですね。

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