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プロローグ


「これで…… 終わりだ!!!!」


 ついに……ついに……終わった。

 一体、何年かかったのか思い出すのも一苦労だ。

 やっと魔王を倒すことができたのだ。言葉がでないとは、この事だろうと思う。

 いままでの疲れがどっとのしかかってきて、体は動かないし、頭も働いていない。


 ただ、このすべてを全うした者だけが感じることができる、やりきったという充足感に浸り、疲れ切った体だが心地よい。

 近くにいる仲間たちも何も言わず、同じように感慨に耽っているようだ。


 昔、森に迷い雨をやり過ごすために入った洞窟をでた瞬間から始まったこの世界。


 右も左もわからず、初めての町で言葉も通じず衛兵に追いかけまわされた記憶。

 詰め所で通訳の魔法を掛けてくれた魔法使いに魔法を教えてくれと頼み倒し、文句を言いながらも教えてくれた師匠。

 ギルドで若いからと喧嘩を吹っ掛けてきた今では頼りになる壁剣士。騙されて奴隷に落とされてしまったところを助けてくれた、しっかり者のシスター。

 みんなには感謝の気持ちでいっぱいだ。


「やっと終わったな、これでお前に魔法を教えた甲斐があったというものだ。 それにしても、疲れたわい」

「まったくだ。 この大盾も鎧もボロボロだ、もう修理する必要もないのは助かるぜ。金は装備にすべて使っちまったし、明日から無一文かよ」

「なにを言っているのよ! 凱旋よ、が・い・せ・ん! 私たちは英雄なったの、これから私の栄光の時代が来るのよ!」


 一人だけテンションがおかしい。何時ものことだから置いておくが英雄になるのは間違いないだろう。

 この世界異変の元凶である魔王を倒すことで、世界に蔓延っていた魔物の全てを駆逐することができたのだから。

 今まで数多くの勇者と呼ばれる存在が挑んで敗れてきた。

 その長きにわたる人族と魔族の闘争に終止符を打ったのだ。

 王都へ帰還すれば、報酬は思いのまま、地位も手に入るだろう。

 勇者とはいえ少数で魔王城へ突撃させる王都の人間には疑問を抱くが気にしないことにする。

 俺は今日、元の世界に帰るのだから。


「みんな世話になったよ。 俺の個人的な目的のために、ここまで来てくれて本当にありがとう。」

「気にするでない。 お前の世界は気になるがもう年だ、隠居して余生を暮らそうと思っておる。 達者でな」

「隠居とか何言ってんだよ爺さん、まだまだ現役じゃないか。今度は俺に魔『才能がない、無理じゃ。大人しく壁になっておれ』……。 ごほん……まあ頑張れよ、向こうに行ってもトラブルには事欠かないだろうからな!」

「そうね。 平和な国って話だけど……。 でも心配しないで、あなたの報酬は私がしっかりと頂きますから、安心してちょうだい」

「「な、なにをいってんだ(いっておるのだ)、こいつは……」」


 この掛け合いもこれで最後だと思うと少し寂しく思う。

 三人にも一緒に来てもらいたい気持ちもあるが、彼らには彼らの生活がこの世界にあるのだ。連れて行くわけにはいかない。

 それに世界移動するのは一人が限界という制限がある。もし、魔王が4体いれば必要なものは揃うが、とても後3回も同じことをやれと言われて出来る気がしない。

 一体で良かったと本気で思う。


「報酬に関しては三人で決めてよ、必要はないからね。……じゃあ、そろそろ行くよ」

「もう少し、一緒におってもよいのだぞ」

「そうだ、そうだ。急ぐ必要はないはずだ、時間はたっぷりある」

「本当に、行ってしまうのね……」


 みんなが引きとめてくれるのはとてもうれしい。

 今までの事を考えれば、家族よりも同じ時間を過ごしてきた仲間だ。

 苦しいときも、悲しいときも、辛いときも一緒に乗り越えてきた。

 俺がいなくなったとしても、全く心配することはない。三人がいれば解決できると思う。

 俺もこれから帰る場所は平和な国なのだ、一人で大丈夫だ。


「今行かないと、きっと帰れなくなるから、……みんな元気で」


 名残惜しいが三人の視線を振り切り、奥の祭壇へと向かう。

 今までの殺伐とした生活が終わり、平和な時が過ぎれば俺は帰る決断ができなくなる。

 寒いから春が来てから帰る。

 春祭りが終わったら帰る。

 夏祭りがあるからと、きっと際限なく帰還を伸ばしてしまうだろう……。

 

 未練を断ち切るように魔王の核を中心に押し込み、幾層にも重なった魔法陣を展開させる。

 祭壇を丸ごと覆い尽くしたところで、核の膨大な魔力を流し込む。


「これで、終わりだ!!!!」


 まぶしい光が世界を包み、意識が遠のいていく。

 視界の隅に三人の心配そうな眼差しが見えたような気がする。

 泣いているじゃないか。

 初めてみんなの泣き顔を拝むことができたな。

 そのまま、落ちていくように、意識が消えていった。


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