act5. カクテル
「ごめん。」
マスターと瑠依に断り、電話に出る。
『もしもし。』
『何時頃、帰ってくる?』
『…九時頃。』
『わかった。』
そして、電話を切る。あ…今日家に来るって言ってたんだっけ?いいや、どうせ別れようって思ってたところだし。でも、帰らなきゃ後で説明するのも面倒だー…。早めに帰るか。
「早めに帰ってあげれば?」
瑠依が遠慮がちに言う。
「俺が好きで付いてきたんだし、大丈夫だよ。瑠依が気にすることないからさ。」
「そう?」
「うん。」
気にすんな…?瑠依から誘ったのか?でも付いてきたのは、俺の意志だよな…。
「もう五時になるし、準備するよ。」
「うん。」
何かをしはじめた。メニュー表を変えている。
「何か手伝いましょうか?」
「君はお客さんだから。」
「じゃぁ、何の準備をしているんですか?」
俺はごそごそと何かをしている、マスターに問いかける。マスターは手を動かしながらも、答えてくれた。
「6時からはナイトタイムにするんだよ。家をたまり場にしないで、来て飲むような店にしたいんだ。もちろん持ち込み有りでね。」
「利益が無いんじゃ?」
「いいんだ。お客さんの喜ぶ顔が見たいだけにはじめたようなものだし。」
すげぇいい人だと思った。自分の方に利点が無くても、こうやって場所を提供するんだから。こんな良い店…ないよ。
「マスター、カクテル作れんすか?」
「少しならね。でも、オリジナルは作れないんだ。才能が無くて…。」
「俺、やりましょうか?」
「作れるのかい?」
「はい!」
一応経験はあるんだよね。兄ちゃんが作れって。自分が店作ったからって、俺に頼まれても素人なのにさ…と思いながら作りましたよ!そしたら、お客さんが“美味しい”って言ってくれたのが…今の彼女だっけ…。で、半年ぐらい作ってたんだよね。
「今日、試しに作ってみない?6時になったら、常連の子来るしね。」
「マスターが良いなら作りますよ。」
ってか、実は作りたいカクテルがあるから聞きました、なんて言えないよ。でもそれは内緒にしておこう。