act2. 名前
「あんま持ち合わせてないですし…」
「あの店、父がやっているの。あたしの奢りです。」
「でも、悪いですよ…」
ただ海に来ただけだしさ…もう帰ろうと思ってたし。
「コーヒーだけでも…ってあたし、散歩しに来たんだ!どうしよ…。」
笑顔になったと思えば、いきなり悲しそうな顔して…。おもしろい女…。
「いいよ。俺、先行ってるからさ。後から来てよ。」
「はい!」
また笑顔になってる。やっぱおもしろい女だわ。一緒にいたら、飽きないだろうな。
でも、こいつの犬は俺から離れようとしない…。俺、ここから動けないじゃん。どうしよう…。あ、いいこと思いついた!
「どうしよう…。」
女がつぶやく。俺はさっき思いついた事を話してみることにした。
「あのさ、俺も一緒に犬の散歩していいかな?離れてくれないし。」
「本当にすみません。良い案だと思いますよ!」
俺と女と犬で、この砂浜を海を見ながら散歩をすることになった。犬と女に合わせるために、ゆっくりと歩く。こんなにゆっくりと歩いたのは久しぶりだ。
「名前は?」
俺がいきなり聞いたから、女はビックリした後にゆっくりと口を開いた。
「菫って言います。」
「へぇー、君の名前菫って言うんだ。」
「え?あ、私の名前は違います。菫は、犬の名前なんですよ…。ごめんなさい。」
俺も明らかに悪いよな…。いきなり『名前は?』なんて聞いちゃったし。さっきから謝らせてばっかりだしさ。きちんと 聞かなきゃいけないよな。
「君の名前は?」
よし、きちんと聞けた。って、なんでこんな事で喜んでるんだ?まあ、いっか。君って呼ぶより、名前で呼びたいしね。
「瑠依って言います。」
瑠依…顔と合ってるじゃん。これでやっと名前で呼べると思ったら、スッキリするね。