序章 存在確立の自己解説
自らの在り方についての疑問
永久無限連鎖世界。
ありとあらゆる可能性を内包する世界。
その本質は無限に連なる鎖、彼の者を縛るもの。
その中の一つの世界ここに小さな学園が在る。
世界を殺す悪性、世界を救う定型、まだそのどちらでもない非定型が集う。
その学び舎を、クレイドルと彼らは呼ぶ。
今日は学園の入学式、その前説での一幕
「私の前に居る、まだ顔も名前もない。君等に、その在り方を問う」
黒曜石を想起させる漆黒の髪に、大理石の様な白の肌、そして唇には燃えるルージュ。
街を歩けば誰もが振り返るだうし、異性どころか同性さえも恋に落ちるだろう。
彼女はメアリー・スー、此処とは別の世界の絶対者で、この1-Aクラスの担任だ。
見た目は23位の黒髪の美女なのだが、そもそも全能である彼女の見た目を気にしてもしょうがない。
恐らく、生徒受けの良い見た目を装っているのだろう。中身は這いよる混沌とかでもおかしくない。
生徒の一人が立ち上がるのが分かった。いや姿は見えない、我々にはまだ設定が無いのだ
無貌の彼が、徐々に姿を現していく。漆黒の髪に蒼の指定服、彼の中で自分の設定が固まってきたのだろう。
「出席番号1番!無等鏡夜志望は主人公!能力は常時全能、因果逆転、無限遍在、時間超越、を習得しようと思っています!!」
教室に電撃走る、小学生だ、小学生が現れた!いや今時、小学生でもこんな設定は考えまい。
バカだ。すごいバカが出てきた。それ主人公の能力にしたらいろいろと不味いだろう。相手のラスボスさんが。
会った瞬間一睨みで存在そのものが消滅するラスボスって……節子、それラスボスやない、ランポスや……
「この戯けがァァ!!!全能系を専攻するなら他の科目は習得不可だ!全能の他に能力在ったらおかしいだろうが……パンフ見たか?」
「いやですね、世界設定的に無限遍在は無いと困るかなぁ……なんて! ダメカナ?」
ダメダヨ
「よぉく分かった……お前は常時全能、因果逆転、無限遍在、時間超越に加えて時間無視も習得していい……ただし。モブ科だ良かったな。全知全能史上最強究極のモブだ」
「モ……ブ?!」
「ああ、モブだ」
『モブ科』余りに行き過ぎた能力で作品世界を恐怖のズンドコに叩きこむ学生を更生させる為の特別科。帰ってきた者たちは口を揃えてこう言う。
背景で死ぬモブの有り難さがよく分かった……と、ご愁傷様です、合掌、安らかに眠れ。
「まあ、なんだ、その妄想を衆目の前で堂々とぶち撒ける精神は評価しよう」
「本当ですか!有難うございます!!これは秘密の設定なのですが……僕は不滅《滅ぼし得ぬもの》という二つ名を……」
「はい次」
「私の番ですわね!」
少し甲高い、なんというかキンキンした声が聞こえてきた。
出席番号二番の席から炎が迸る。あっつ!めっちゃあっつ!!本気で熱い、勘弁して欲しい。
瞬き一つする内に炎掻き消え、金の少女が像を成していた
「出席番号2番!フレイア・ヴァナディースですわ!希望技能は……」
「なんだお前、騒がしいな、渾名をつけてやろう。お蝶夫人とゲルマンビッチ。貴方の渾名はどっち!」
どっちの料理SHOWみたいな乗りで酷い渾名つけるこの女教師、……何時か締めるとクラスの誰もが思った
「?!……お蝶……婦人……ゲルマン……ビッチ……」
まるで酸欠で呼吸困難な金魚みたいに口をパクパクさせている、メディックー!メディックはまだかーーー!!
「ッッ!!ック……!」
あっ持ち直した。
「希望技能は……」
「ボソッ……クレイジーサイコビッチ」
ゴトォォォ!
こうして、SAN値の無くなった彼女は机を頭で叩き割り床に顔をめり込ませた。
何という、何という豆腐メンタル。その割にすごい石頭だな、と皆が思った。
「では、次」
瞬間、世界が凍りつく、寒い、寒い、絶対零度を超えてコキュートスへ存在さえ凍結する。地獄の具現。
刹那、銀の麗人が教室に君臨した。いや、起立した。
「兎神有須志望科はボス科、修習希望技能は絶対零度、無限加速。以上です」
凛、とした雰囲気に教室が呑まれかかる。要点を押さえた必要最小限な自己紹介に誰とも慣れ合わないという。孤高の在り方
なるほど、ボス科志望というのも頷ける。こんなのが俺の話に出てきたら詰みだ。
そうして、後は特に変わった事もなく最後に俺の番がきた。
「31番斎庭神威主人公科志望。修習希望技能は神魔召喚、後はテキトーッす」
「ボソッ……地味」
何か聞こえたが気にしない。気にしちゃ負けだ。気にするな俺。
全員が自己紹介が終わり、入学式の始まりを告げる放送が入る。
講堂までのその道中、誰もが小声で話しあう。気に入った人、気になる人、そんな他愛もない話。
その内、皆が思い思いの奴とグループを作り始める。……まあ『俺たち』4人はあぶれた訳だが。
「ウゥ……イカした自己紹介で一躍クラスの人気者に成るはずが……」
「モブ……ゴミ屑の様に殺される……モブ……」
「友達出来なくても平気。友達出来なくても平気。友達出来なくても平気。友達……」
「何故だか俺もこのグループ入ってるし……」
斯くして、始まりました、このお話し。
一人は在り方さえ不確かな、灼熱の陽炎
一人は温もりを求めるコキュートス
そして俺はまだ何も呼べない召喚士で
あいつは不滅のモブ《主人公》で
「何してんだよ、お前ら、友達出来なくても、人気者に成れなくても、主人公に成れなくても。」
大きく息を吸い透明な空にも、響き渡るように。
「誰かの一番には成れるじゃねぇか、まずは講堂に……」
「僕が?」
「私が?」
「私が!」
振り向き此方を見つめる6つの瞳。
ある者は疑問有りげな顔で、
ある者はそんな事はあり得ないと自嘲気味に、
ある者は目を輝かせながら、
「一番に着いて、俺たちスゲェって所見せてやろうぜ!」
4人が4人の顔を伺う
ククク……ハハハハハハ!
全員が笑い出す
そうだ、『俺たち』は凄い、それを証明しなきゃな。
そうして俺達は走りだす。
黒の少年は駆け足で。
金の少女は堂々と大股で。
銀の少女は早足で。
白の俺は小さくスキップをしながら。
……誰が一番だったかはご想像にお任せする。
ただ、一つ言えるのは俺たちは全員負けず嫌いだったって事だけ。
負けず嫌いだから、バッドエンド《負けて終わり》なんて認めない。
だから、安心してくれ。このお話しはハッピーエンド《勝って終わり》だ。
講堂のドアに手をかける。同時に入学式の開始を告げるチャイム、
此処が全ての始まり、全ての起点。
なあ、皆に得難い出会い、得難い経験が有らん事を
此れは3つの四季が終わるまでの物語。
(´・ω・`)最後まで目を通してくださって有難うございます
(´・ω・`)続きも頑張ります