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次へと進むためには、何かを捨てなければいけないらしい。

作者: めぐ

 

カラーバーが液晶を占拠している。

口に含んだビールには苦みしか残っていなくて、舌や喉の奥にべったりとはりついているようだった。

じんわりとシャツを濡らす汗と相まって、嫌な感じしかしない。

赤や黄や緑のラインを見て、何をするでもない。ただ見ているだけ。

それでも、頭は動いているのだ。考えていることはいろいろだけど、どの中心にもいるのは君で。

要するに俺は、君のことを考えているのだ。ずっと。





元々性格は正反対。それでも、似ているところがあった。

例えるならば、数字の6と9のような。

形は似ているけれど、向いている方向は間逆。ほんとにそんな感じ。

どうして一緒にいるのか、自分たちでもよくわからなかった。

それでも楽しかったし、悲しかったし、嬉しかった。

結婚しなくてもずっと隣にいられればいいと思っていたし、それ以外に求めるものなんて何もなかった。


だから、好きという気持ちだけでどうにかなると思っていた俺。

好きという気持ちだけではどうにもならないと分かっていた君。


今になって、俺が浅はかだったんだなぁと思う。

君に話したことはすべて、青くて、薄くて、実行するにはあまりにも障害が多いこと。

君は全部わかっていたけれど、何も言わずに笑って相槌をうっていてくれていた。

衝突した時に、折れるのはいつでも君だった。

君は、全てが俺よりも大人だったのだ。





原色を目に入れ続けていることに疲れていることを知覚して、立ち上がる。

ふと顔を上げ視界に入った写真。何度も破ろうと思った俺と、君。


じいっと別の世界を見つめて、また手に取る。

いつ撮ったものか忘れたけれど、二人してバカみたいに笑っていて少しおかしくなった。

君の笑顔は相変わらずキレイで、左胸のあたりに痛みとも苦しみとも言い難い何かが、じんわりと広がる。何度見ても、二人の笑顔が滲む。


二人の笑顔が滲まなくなる日は、来るのだろうか?


そんなことをぼんやりと思いつつ部屋を見渡すと、テーブルの上に置いてある白い封筒が目に留まった。

すっかり忘れていたなんてことはない。だって君からの手紙だから。

最後の、君からの。


便せんではなくいつも使っているルーズリーフ4枚に、びっしりと書かれた丁寧な文字。

もとい、君の気持ち。


もう一度目を通して、大方どうにもならないのだと再認識する。

それと同時に、わずかな希望を抱いてしまうのだ、再び。

優しく緩く、俺を縛ろうとする君の言葉。

君の気持ちが色濃くにじみ出ている、たった一行の言葉。


最後まで目を通すと胸からつま先まで痛みが広がって、堪えきれずに手紙を置いた。

ほんの百グラム程度のそれは、俺の手の上では測りきれないほどの重さになるのだ。


子供だったのは俺のほうだけど、気持ちが重かったのは君のほうだった。

そんな君が俺と離れようとしている。それならば俺も、離れなければならないのだろう。





君が今までにくれた手紙をクローゼットの中から取り出して、ひとつずつ紙飛行機へと変えていく。

ちらりと見える文字は、やっぱりどれも丁寧だった。

作っては外へと飛ばし、見届けた。

夏のぬるい風が俺を撫で、紙飛行機を遠くへ飛ばした。


ひとつだけ出てきた淡いクリーム色の封筒。目に留まって、ああこれは、と手を伸ばす。

初めて俺にくれた手紙。

思いが綴られた、手紙。

封筒から取り出して中身を開く。目を通し、こんなときもあったなぁと思い返すと、胸の中だけが季節を逆さに進んでいくような気がした。


立ち上がり、何度も見た写真に目をやる。

そうだ、俺たちが付き合い始めた時に撮った写真だ、と思い出した。

手に取って再び眺める。どんなシチュエーションでどんな気持ちで撮ったかを思い出した今、写真をどうにかすることなんて、できるはずがなかった。


乾いた目が熱を持つ。

残った君からの最初と最後の手紙と、一枚の写真。

俺の決心を揺るがし崩すには、充分すぎるくらいだった。


髪の毛をぐしゃりと抑え、フローリングに膝をつく。

ため息混じりにつぶやく君の名前。


手に持つ写真をもう一度見る。

やっぱり破れず、君はキレイだ。





(この恋を捨てるくらいならずっとこのままで。進めなくても、いい。)






by.確かに恋だった

image song. キレイだ/スキマスイッチ


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― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして。 すとむみずみと申します。 雰囲気が凄く伝わってきて、共感できました。そしてイメージソングの選曲がすばらしいですね。泣けてきます。 一点だけ。小説本文では、各パラグラフで、行…
[良い点] とても雰囲気にこだわってらっしゃるのが伝わってきました。面白かったです。
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