貴女は入店禁止です!
創作にしました。
ゲームに嵌ってしまい、徹夜が続いていた。
見てくれの事などどうでも良くなっていたら、鏡に自身を映すことも忘れていた。
久しぶりに見た自分はクマが凄くて毛むくじゃらだった、全身が。
「うーわーヒゲすごっ」
顔に生えてくる毛は全てが『ヒゲ』だ。
流石に顔を熱い中いつまでもマスクで隠して歩きたくはなかった。でも自力で剃ると結構な確率でカミソリ負けして、しかも滑って流血する。
しかし、流石に今の自分の顔面は、見苦しすぎて空気以外の地球のぜんぶが避けて通りそうな感じになってしまっている。
このまま生やしておくと誰かにモフモフされてしまうかもしれない。友達の誰かは私のヒゲを確実に引っ張ってくる。
あれは痛いのだ。早く剃らねばならぬ。
……考えてみれば月曜は明日だった。
一限の古代哲学の授業で会うのは、よりにもよって、モフラーの佐々木ちゃんだ。
彼女はしつこいのだ。
やられる、確実にヒゲを触ってくるぞ、彼女は。
「あー、しかも顔パンパンじゃん、これはあのコースだわ」
私はスマートフォンを取りに居間に戻る。
開く画面は美容系の予約サイト『もっとピーティーきゃわわ』だ。
「……、あ、あれ? いつもの床屋さん、予約埋まっちゃってるなぁ」
ヒゲを剃るなら理容店。
バーバーのひげ剃り技術は伊達じゃない。
私は小さい頃から床屋さん派だ。
「ん〜〜、しかたないなぁ別のとこ……あ、ココ近いぞ!」
女子女子したサロンを見付けた。
レディースシェービングの専門店。
店主の自分語りがなんだかフワワっ☆と可愛らしい。悪い口コミもパッと見、みあたらない。
「ヒゲ剃りとー、あ、むくみ取りの……えすて? マッサージ! もあるじゃーん、これは良いかもだー」
顔はパンパンである。
顔筋マッサージは有り難いのだ。
「えーっと、寝不足で眼精疲労、クマがひどいです、剃って綺麗になりたいです、っと!」
クセで詳細要望欄には必ずその時の自分の状態を細かく書き込んでしまう。
「あー、あと、いちおうコレも書いとこうかなぁ」
正直に自分の個性も書き出し『とにかくほんとに静かにすごしたいです』、というボタンを押す。
このボタンと対になるのは『めちゃくちゃ楽しくお喋りしたいです!!』、だ。
ヒゲ剃りは静かにとり行う儀式と昔から決まっているので、私はその時が来たら完全に凪いで目と口を閉じたい派なのである。
「空いてて良かった〜、よ~し、午後はヒゲ剃りだー、アレ気持ちいいんだよねぇぇ……」
私はワクワク仮眠をとった。
ムーッムーッ〜ムーッ〜
私のスマホがいきなり五月蝿く鳴きだした。
「にゃんだぉお、あと1時間はよゆーあるじゃん、タイマー間違えたぁ……?」
モソモソと五月蝿いスマートフォンを手に取る。
「んぇ? 着信? あー、予約したサイトの〜〜、なんだろぉ??」
半身を居間のソファーから起こして、対応に出る。
「はい、漆原です」
「お忙しい中恐れ入ります、シェービング・オン☆スポットの木之下で御座います」
「あ、はい、本日はこれからお世話になりま……」
「お客様、お取り頂いたご予約をキャンセル処理させて頂きました。何卒ご理解のほどを」
「……え?」
私は暫く固まった。
ん? え? キャンセル? 向こうが? なんで?
「あ、あのー、まだ予約を踏み倒したとかじゃないですし、何かの間違い、で……」
「お客様。お客様の詳細要望欄を拝見いたしまして、当方では扱いが難しい、という判断になりましたこと、何卒ご理解、ご了承くださいませ」
「……は? いや、だから、なんで……」
「当方は賑やかに朗らかに、を心がけております店舗となります。お客様のようにお静かにお過ごしになりたい方には合わないかと……」
いや、いやいやいや、待って待って。
「ホームページに静かで控えめな御声がけを心がけております、って書いてありますよね?! あと、わたし、1時間ぐらいなら賑やかでも我慢ぐらい出来ま……」
「わたくしどもではお客様は受け入れかねます」
予約していたレディースシェービング専門店の受付の声音が急に冷たく固まった。
察しろよ、おい、的な圧を鈍い私でも感じられるぐらいの、急速な冷凍具合だった。
「え、だから……えと、なんで?」
「お客様の詳細要望欄に書かれていることが当店とは合いません」
「……それは、具体的にはどの辺りが……」
「お客様の個性の面です。当方では、キャンセル処理となりましたので。それでは、貴重なお時間をお裂き頂きまして有り難う御座いました、失礼致します」
プッ、と通話は切れた。
「……、……???」
訳がわからない。
え、何がだめだったんだろ。
新規顧客獲得のCHANCEなのに、なんでなんだろ?
「わかんない……」
私は、仕方なく、ヒゲを放置した。
生えてきたヒゲは、佐々木ちゃんに何本か抜かれて痛かった。
「また毛むくじゃらになっとぉやん」
鏡に映る私はむさ苦しくて小汚かった。
「……、ハマる……、ゲームを……リリースする……公式……め……」
完全に明後日の方角に責任をなすりつけながら、ゴワゴワパンパンの自分のヒゲとクマをグリグリとする。
「剃……ってくれ、姐さん……」
私はやっぱり居間にスマホを取りに行く。
「……姐さん……、埋まってらぁ……」
いつも私のヒゲを剃ってくれる、理容店に勤める国家資格持ちの南條の姐さんは、本当に腕が良かった。
クマもむくみもスッキリとする仕上がりを必ず出してくれる、有り難い寡黙な姉様なのだ。
しかし、如何せん、最近の彼女はその腕前がネットで広まってしまったためか、スケジュールに空きが中々見つからないのだ。
「どっか……別の……とこ……」
探しても、存外少ないのが女体のヒゲ剃りの実体だった。
「クマとか寝不足とか書かないなら、ヘーキだよねぇ? えーっと、あー、空いてる、っていうかココしか空いてないやん」
むさ苦しく、私は前回キャンセル喰らってしまったあの店舗に予約を入れた。
ムーッムーッムー!!
凄く早くスマホが鳴いた。
おどおどしながら、私は着信に応える。
「あ、のー……」
「これからお客様から予約を頂戴いたしましても、全て即時キャンセル処置とさせて頂きますので」
「あー……、あ、のー……、それは、なんででしょう……?」
「急に動かれたりしたら危ないからです、お客様が」
「危ない? え、危ないって、どういう」
「シェービングは剃刀を使いますので! お客様に万が一の事など御座いましたら危ないでしょう!?」
「……いや、危ない、ってことは無いと思いますが……???」
なんだろ、急に動く、っていうのは。
私って急に動くの?
剃刀が生きてて動いたりとか、するの……?
「危ないですので! 当方でなく他店でお願いします!! 多動とか、本当に困りますから!!」
「……、んぇ……?」
「書かれた詳細欄にASDとあるでしょう?! 私、実際に多動の方をやらされたことあるんですよ、困るんですよ、急に動かれたりしたら!!」
ーーいいですね、貴女の来店はお断りさせて頂きますから、もう予約入れないでくださいねーー
通話が、切れた。
私は、なんにも解らなかった。
「健常者専用サロンなのかな……?」
それじゃあ、私は悪いことしたのかもなぁ、と思いつつ。
伸びたヒゲをモグモグ触りながら。
「ASDは多動じゃなくて、過集中なんだけどなぁ……??」
疑問に思う、胸が、ぽやーんとして、カラカラ風車が私の頭に浮かんで見えた。
笑い話だよ~ん(当事者)




