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魔法学校の人気者……じゃないほうに恋しました!

掲載日:2026/05/28


ここは聖ピノノア魔法学校――12歳から18歳までの少年少女が通う、優秀な魔法使いになる為の学び舎(まなびや)

おおよそ500人の生徒たちが、今日も互いに切磋琢磨しながら勉学に励んでいた。



その中のひとり、クリスタ・リシャーナ。

今年で17歳になるクリスタは魔法学校の第5学生で、将来の夢のために日々研鑽を積んでいる。

そんなクリスタは今、とある人物を探して学校中を走り回っていた。


「リシャーナ!ドレイン様なら奥庭のベンチらへんにいたぞー!」

「え、本当!?ありがとうー!」


クリスタはすれ違った男子生徒の言葉を聞き、ぎゅいんっと方向転換。ここから奥庭までは少し遠いところにある。急がなければ、自由気ままなあの人はすぐにどこかへきえてしまう……!


「あ!リシャーナ嬢、ちょっといいかな」

「ジークイン様!今とーーーーっても忙しいのが目に入りませんか!?」

「ドレインにさ」

「はい!喜んで!」

「あはは、まだ何も言ってないよ。これを渡しておいて欲しいんだ」

「これは……タンガライト魔石!?」


急ぐクリスタに声をかけてきたのは、ナトリオ・ジークイン。そこらへんの道を歩けば100人中99人が振り返る程の、絵に書いたような美丈夫だ。ちなみに振り向かない方の1人はクリスタである。


「さっき魔の森で手に入れたんだ。ドレインが欲しがっていたから、渡してもらえると助かるな」

「喜んでー!それでは、失礼します!」


ジークインから受け取ったのは、紫のような、緑のような、不思議な色をした石だった。魔物を倒すことで手に入るその石は魔石と呼ばれ、色や形、使い道は様々だ。しかし、今回預かったタンガライト魔石……それは下手すれば立派な馬車ひとつ買えてしまうくらい、貴重な石だった。

クリスタは喉から手が出るくらいにその魔石が欲しかったが、ドレインのために預かった大切なものだ。しっかりと鞄にしまって、再び走り出した。


そして辿り着いた奥庭には。


「見つけました!ドレイン様!」

「……はぁ」

「ため息をつく姿も素敵……!」


ベンチに寝転がる男子生徒。

この人物こそが、クリスタの探していたドレインその人だった。


「あ、そうそう……このタンガライト魔石、ジークイン様から預かってきたんです!」

「……どーも」


のそりと起き上がったドレインは魔石を受け取ると、そのままポケットにしまい込む。

フードを深く被っているため表情が見えず感情が読み取りづらいが、クリスタには分かる。

今のドレインは、そこまで機嫌が悪くない――つまり!

少しだけ絡んでもある程度は許されるということ!


「隣、座ってもいいですか?」

「……聞く前から座ってだろ」

「細かいことは気にしないで!少しお話しませんか!?」

「……」

「私、将来はドレイン様と結婚したいんですけど、どんな女の子が理想ですか?」

「…………」

「私の好みはもちろん!ドレイン様ですけどねっ!」

「………………」


返事がないのは通常運転。

隣に座って話しているだけでも、クリスタの心は羽のようにふわふわと浮き上がるのだ。


「……お前さ」


さぁ次は何を話そう。

息を吸い込んだクリスタを遮るように、驚くほど静かな声が響いた。


「……俺のことなんも知らねぇのに、何がそんなにいいわけ?」


あ、口元、歪んでる。

フードの奥は、いったいどんな表情をしているのだろうか。

周りの女子生徒はドレインのことを不気味がって近づきたがらないが、クリスタにとっては理想の王子様そのもの。



――そもそもクリスタとドレインは、出会ってまだ3ヶ月ほどしか経っていない。



というのも、目の前にいるルタ・ドレインと、先程魔石を渡してきたナトリオ・ジークインは、本来ピノノア魔法学校の生徒ではないのだ。

2人は元々、隣国にあるリスタール魔法学園という別の学校の生徒であった。

だが、ピノノアとリスタールでは毎年、半年間の交換留学をしており、今回選ばれたのがドレインとジークインの2人なのである。

どちらの学校も第6学生の中で優秀な生徒が2人選ばれるのだが、つまりあの2人は、トップレベルの才能を持ち合わせているのだ。


交換留学生として紹介された2人を……いや、ジークインを見て、女子生徒たちはかなり大盛り上がりだった……異性よりも魔法が大好きなクリスタは、その時のことをあまり覚えていないが。


「私は確かにドレイン様のことを、ほんの少ししか知りませんよ!でも、魔法は何度も見ました……繊細で、緻密、ドレイン様の愛がたくさん詰まってるなー!って感じ!」


クリスタがドレインと出会ってから3ヶ月……来る日も来る日も溢れんばかりの愛を伝えてきたが、なかなか思いは届かないらしい。

今だって、聞いてきたのはドレインの方だというのに、興味がないと言わんばかりに魔法で風を起こして遊んでいるではないか。 


「私、ドレイン様の魔法を見た時、ビビッときたんです!第六感?ていうのかな、私の運命の人はこの人だ!って」

「……俺じゃなくて、魔法、ね」

「でも、そんな繊細な魔法を扱えるドレイン様って、ぶっきらぼうに見えても、実はとても優しいじゃないですか」


1に魔法、2に魔法、3、4に魔法で、5に魔法……それほど魔法が大好きなクリスタにとって、重要なのはその人がどんな魔法を使うのか。

体の中にある魔力を、呪文を介して魔法として出力する。

どれくらいの魔力を、どんなふうに、どれくらいの出力で、なんも魔法として変換するのか……それは魔法使いによって様々で、魔法によってその人がどんな人かだいたい分かってしまうのだ。


ドレインの魔法は、すべて美しい。

緻密で繊細、しかし時には大胆に。

そんなドレインの魔法に、クリスタは一目惚れしてしまったのだ。


「つまり私は、ドレイン様の魔法からなにから全てまで、愛してるわけですよ」

「……あっそ」

「あ!ドレイン様、どこに行くんですか?」

「帰る」


本当に風のような人だ。

決して掴むことはできず、ひらりするりと手のひらから逃げていく。

少しうるさくしすぎてしまったか、と反省。

初対面よりは話せるようになってきたが、ドレインからしてみればうざったい存在なのかもしれない。



真っ青な空を見上げてため息ひとつ。

今まで魔法に対して一直線に突き進んできたクリスタにとっては、「好き」という感情がイマイチよく分からなかった。

しかし。


あの人の魔法をもっと見てみたい。

どんな表情で、何を考えているのかが知りたい。


……それだけじゃ、ダメなのかな?



「……はぁ、恋愛って、むずかし」




――――――――――――――――



週末、クリスタは街に出かけていた。

新しい魔法を試すために、魔石を探しているのだが、なかなか値の張るものが多い。


「……うーん……ちょっと厳しいな」

「クリスタおじょーちゃん、これなんかどうだい?昨日仕入れたばっかりのディナルタ魔石さ!この輝き……美しいだろォ?」

「ディナルタ魔石!?初めて見たー!すごい、本当に綺麗……!んー……でも、ちょっとお金足りない……残念だけど今日は帰ろうかな」

「そうかい……そんじゃこっちの魔石、小さくて捨てちまうやつだからな、おじょーちゃんにやるよ」


クリスタ行きつけの魔石屋の店主が、クルミ程の大きさの魔石を投げてよこす。


「え、これ、まさか!」

「そう、タンガライト魔石の欠片よォ」

「嬉しい!ありがとう、ビビッダおじさん!」

「おーう、気をつけて帰れよォ!」


魔石は通常、魔道具に入れ込み、エネルギー源として使うことが多い。

しかし、小さいものはエネルギー量が不十分で、魔道具に入れてもすぐ使えなくなってしまう。

そのため値がつかず、捨てられてしまうことが多いのだ。


そんな小さな魔石をなにかに加工できないかと日々研究をしているクリスタは、予想外にいいものが手に入ってしまい、天にも登る気分であった。

図らずして、ドレインとお揃いの魔石が手に入ってしまったのだ。

お揃いとして部屋に飾ろうか、それとも研究に役立てようか……クリスタの頭の中は魔石のことでいっぱいだった。

その時。

早速帰って研究しようかと歩くクリスタの肩に、体格の良い男が思いっきりぶつかってきた。


「いたっ」

「邪魔だよガキ!」

「おい!そいつ捕まえてくれ!!」


いきなりの事でバランスが取れず尻もちをついたクリスタが追いかけようと立ち上がったが、その時にはもう男は走り去った後だった。

すぐに男女がクリスタに近づき事情を軽く説明する。


「大丈夫かい?」

「いきなりごめんね、あいつにあたしの鞄取られちゃって」

「巻き込んでしまってすまないね、じゃあ私たちは、あいつを追いかけるから」

「あなたも気をつけてね」


どうやら、さっきの男は盗人らしい。

クリスタにも何か出来ることがあればいいのだが……あいにく、魔法学生の市街地での魔法使用は、校則で禁止されている。

近くの警備団に知らせていこうとして――手のひらに何も無いことに気づいた。


大切なタンガライト魔石の欠片が消えている!


周りを見ても落ちていないし、先程までは確実にあった。

つまり、ぶつかったあの男にスられた、ということだ。

売っても値が付かないような欠片を、なぜ――。


(……ドレイン様とお揃いの……せっかくおじさんがくれたのに――取り返さなくちゃ!)


盗人を追いかけた男女を追いかけるように、クリスタも走り出した。

もうだいぶ距離が空いてしまっている、が、あの男女がどうやら「盗人だ!」「つかまえて!」「あの男だ!」口々に叫んでいるようで、賑わしい所に向かって走っているうちに、騒ぎの中心へと近づいていく。


そしてクリスタの息が切れ、筋肉が悲鳴をあげ始めた頃……やっと盗人に追いついた。


(……仕方ない、ほんとは魔法、使っちゃダメだけど……!)


バレてしまえば、良くて反省文30枚、悪ければ1週間の謹慎。

しかし、盗られてしまったのは珍しいタンガライト魔石の欠片だ、クリスタは危険を犯してでも、どうしても取り返したかった。


口の中でこっそりと呪文を呟く。

狙うは盗人の足元。

少しでも足止めできればそれでいい……クリスタは小さな水の玉を作り、盗人の足元に勢い置く投げつけた。

予想通り、水の玉に足を取られた盗人はそのまま体勢を崩し、派手に転ぶ。


「くっそ……!誰だ!何しやがった!」


盗人が転んだ隙に体格のいい男たちが次々と飛びかかり、盗人を抑え込む。

1対多数……勝負はすぐかたがついたかと思われた……が。

一瞬、盗人の手元がキラリと光ったのを、クリスタは見逃さなかった。


「あぶない!伏せて!!」


盗人が地面に魔石の欠片を叩きつけたのだ。

魔石は少なからずエネルギーが入っている。だから捨てる時には適切な処理が必要で、それをあんなふうに叩きつけてしまったら……!


クリスタが地面に伏せたと同時に、小さな爆発音が響く。

魔石に含まれたエネルギーが、衝撃によって破裂してしまったのだ。

その隙をついて、盗人は再び逃走を始めた。


(……タンガライト魔石の、欠片が……)


視界の中には粉々に砕け散った、魔石の欠片。


「許さなさい……!」


クリスタは、自身の体に強化魔法を付与し、すぐに盗人を追いかけ始める。

せめて、盗まれてしまった鞄だけでも取り返して、あの男を牢屋にぶち込んでやるのだ。

魔法を使えない人間と、使える人間、どちらが有利かは明白で、クリスタはすぐに盗人に追いついた。

そこはしんと静まり返った路地裏で、他の人はまだ追いついてきていないようだ。

ケリを付けるなら、ここしかない。

市民に対して攻撃魔法を使うことは法令で禁止されているため、クリスタは敵わないと分かっていながらも、盗人に飛びかかった。

盗人も必死に鞄を守り、遠慮なくクリスタに殴りかかってくる。


(あ、だめだ、やっぱり……)


攻撃魔法を使えないクリスタは、男からの攻撃を避けきれず殴られそうになったところで――



「おい、何してる」



静かな声が、響いた。


盗人の拳を掴んでいるのは、ルタ・ドレイン。

そのまま盗人の腕を捻りあげたかと思えば、簡単に拘束を始めてしまう。

あっという間だった、驚くほどに。


(……私は、何の役にも、立たなかった……)


魔法まで使って追いかけて、決死の覚悟で、敵いもしない相手に殴りかかって、結局何もできなかった。

盗人の拘束が終わることには街の人々が続々と集まってきており、騒ぎを聞きつけて警備団もやってきた。


鞄の持ち主からお礼を言われているドレインを見て、酷い焦燥感に苛まれる。


(ドレイン様は、やっぱりすごい……私なんか)


騒ぎに紛れて、この場から離れよう。

そう思い振り返ったクリスタの腕は、誰かに引き止められてしまった。


「……来い」

「ドレイン様……」


騒ぎから離れるように、ドレインはどんどん進んでいく。

通常であれば大喜びでついて行くであろうが、こんな状況だ。

クリスタは足元を見つめるばかりで、何も話すことができなかった。


「……なんであんな危ないことをした」

「……」

「魔法も使っただろ」

「……」

「お前が適うわけないだろ」

「……」

「おい」

「……」

「……おい、聞いてンのか!」

「っ!」


ひとっこ1人いない薄暗い路地裏。

喧騒から離れたここは、耳が痛いくらい静かだった。

そんな中、初めて聞くドレインの大きな声が響き渡った瞬間、クリスタは枷を切ったように話し出す。


「……た、大切なものを壊されてしまって、私、許せなくて、夢のために使えるかもって、でも壊れされちゃって、もう使えなくて、あの人たちの鞄もきっと大切なもので、だから、わたし、取り返さないとって、大切なもの、壊されたら、悲しいから、だから」


何を言いたいのかが分からない、頭がぐちゃぐちゃだ。

話しているうちに視界が歪み、息も上手くできなくなってきた。

それでも止めることが出来ずに、クリスタの口は壊れたように言葉を吐き出し続ける。

ドレインに失態を見せてしまった。

きっと呆れている。

ただ、大切なものを守りたかっただけなのに。


ぽろぽろと涙を流し、なお話し続けるクリスタに、ドレインは困惑して何も言えなくなってしまった。

いつも見ているのは、元気で うるさいくらいのクリスタだ。

ここまで弱っているところを初めて見てしまい、元々人付き合いが不慣れなドレインは途方に暮れる。


「……わかった、わかったから」


ドレインに宥められ、クリスタは話すのを辞める。

それでも涙は止まってくれずに、視界を邪魔し続けた。

クリスタは腕を引かれたまま、大人しく歩く。

先程よりもゆっくりになったドレインのペースに気づいて、余計に涙が溢れてしまうのを隠しながら。




――あのあと。


クリスタはドレインに連れられ、そのまま学園まで戻ったが、学園に着いた途端ドレインはふらりとどこかへ消えてしまった。

魔法を使っているところは誰にも見られてはおらず、またドレインもその事を言わずにいてくれたので、クリスタの魔法使用が学園側に気づかれることはない。


しかし、クリスタは自分の不甲斐なさに落ち込み、いつもの元気を取り出せず周りを心配させてしまっていた。



「クリスタ、今日は研究室、いくの?」

「……うーん、やめとこうかな、寮に帰って自習する」

「わかった、何かあったら相談してね……?」

「うん、ありがとう」


事件が起こってから5日。

クリスタは授業が終わったあとはひたすら自室に閉じこもる、そんな生活が続いていた。


(怒りに我を忘れて魔法つかっちゃうなんて……魔法使い失格だよ……)


クリスタを心配する友達に別れを告げ、そのまま寮へ足を向けた、その時。


「おい、クリスタ・リシャーナ」

「……ドレイン様」


いつものように、フードを目深に被ったドレインが声をかけてきた。

話すのは実に5日ぶりで、とんでもない失態を犯したクリスタは上手くドレインを見れないでいた。


「……お前、研究室借りてんだろ。連れてけ」

「え、私の研究室、ですか?」


どういう心境の変化か、まさか別人がなりすましているのではないかと疑ったが、クリスタはひとまず研究室に案内することにした。


「……えと、私は寮の近くの古い家を借りて、研究室にしてまして、そんなに面白いものでないんですが……」

「別に面白さは求めてない」


クリスタが研究室を借りたのは1年前……第4学生のときだ。

小さな小屋のような家ではあるが、とても古い家であることと、元々住んでいた若い夫婦の親切心により、格安で借りることが出来たのだ。

本来、学生の魔法の使用や研究は、学校内でしか認められていない。

しかし成績や魔法の技術が認められている場合、家を借りてそれを学校に研究室として申請し、受理されれば魔法を扱った研究が学校外でもできるという仕組みである。


「……ここ、です、古くて申し訳ありません」

「別に。……こういう雰囲気は嫌いじゃない」


学校から歩いて5分、寮からは3分、ちょうど間の位置にある小さな家……これが研究室……クリスタのお城だった。

鍵を開けて、ドレインを招き入れる。


「……私は、ここで、魔石の研究をしています。魔石の欠片……本来捨てられて欠片の、エネルギーと魔法を上手く組み合わせて、実用化できないかと……」

「魔石の欠片を……実用化?」

「はい!魔石がどれだけ小さくても、必ずエネルギーは蓄えているので、捨てる時には適切な処理をしなければなりません。ですが、そのエネルギーを……例えば『危険が迫った時に風魔法を展開する』などと魔法で条件を付ければ、護身用のアクセサリーとして使えると思うんです!」

「……なるほどな」


本来、アクセサリーで使用されるのは宝石の類だが、魔石だったその美しさは負けていない。

しかし少なからずエネルギーを蓄えている魔石は、アクセサリーとして加工しにくいのだ。


「私、魔法が好きです……魔石も同じくらい好き。キラキラしてて、綺麗だから。小さくて捨てられちゃう魔石を、少しでも有効活用できないかなーって……それが、私の夢なんです」


この研究室には、クリスタが好きな物がぎゅっと詰まっている。

数々の魔法の書、いろんな宝石、アクセサリー加工の道具、そして、色とりどりの美しい魔石。


「……でも、なかなかむずかしくて。もともとエネルギーのある魔石に魔法を付与すると、壊れてしまうんです。どうにか調整できないかと試行錯誤しているんですが」


ふと、魔石を手に取って見ていたドレインがこちらを見つめていることに気づく。

しまった!と思ったときにはもう遅い、だいぶ語りすぎてしまったことに、クリスタの頬に熱が集まってきた。


「あああ!すみません、ちょっと話しすぎちゃいました!そろそろ帰りましょうか!」

「……その研究、面白そうだな」

「え?」

「魔石に魔法を付与するんじゃなくて、周りの飾り部分に魔法を付与したらどうだ?」

「それも考えたんですが、魔法が上手く作用しないんです、もっと魔法式を変えればできると思うのですが……私の実力では難しくて……」


気づけばクリスタとドレインは、膝を突き合わせてああでもないこうでもないと話し込んでしまっていた。

ドレインが優秀な生徒だとは分かっていたが、まさかここまでとは。


「すごい……全部試して見たい……!」

「……帰るまであと3ヶ月、またここに来てもいいか?」


ドレインの言葉に目を見張る。

つまりそれは、クリスタと共に研究をしたいということで、3ヶ月間、あのドレインと共に過ごせるということで……。

クリスタは喜びを隠しきれず、その場で思わず飛び跳ねた。


「もちろん!大歓迎です!!」


ドレインの、わずかに弧を描いた口元を、クリスタは一生忘れないだろう。





――――――――――――――――――





3ヶ月後。

今日が、ドレインとナトリオが自国に戻る日だ。

クリスタとドレインの距離は、最初より近づいたとはいえ、クリスタの告白に頷いてくれることはついぞなかった。

と言っても最後のほうは研究に力が入りすぎていたため、告白どころではなかったが。


2人が乗る馬車が到着しているものの、まだ時間には余裕があるようで、ナトリオは友人たちと最後のひと時を楽しんでいるようだ。

最後までほぼ人と関わっていなかったドレインは、もう馬車に乗り込んでしまったのか、姿が見えない。

一目見ようとここまで来たクリスタだったが、いないものは仕方がない、と踵を返したその時。


「……遅い」


気づけばクリスタは、物陰に引き摺り込まれていた。


「ドレイン様……!?」


そこには、いつもの重いフードを取り払い、正装をしたドレインがいた。

クリスタが正装を見たのはドレインとナトリオが来た時の歓迎会以来なので、久々に見る想いびとの素顔に心臓がうるさくなる。


「目、閉じてろ」

「え?は、はい!」


言われた通りに目を瞑ると、すぐさま首筋にひんやりとしたものが触れる。


「……いいぞ」


ドレインの言葉を合図に、恐る恐る目を開ける。

目の前にはなにやら満足そうなドレインがいて、思わずもう一度目を閉じた。眩しい。


「……おい、なにしてる」

「ちょっと、あの、刺激が」

「いいから、はやく見ろ」


肩を掴まれ、後ろを向かされる。

ちょうど真後ろには窓があり、クリスタとドレインの姿がよく見えた。

しかし、クリスタの首元に見覚えのないネックレスがひとつ。


「え……これ、もしかして」

「試作品。……お前にやる。まぁ、もうエネルギーのないただの魔石だけど」

「……!!」


紫と緑が入り混じった、不思議な輝きを宿す石。

それは、かつてクリスタがナトリオに頼まれ、ドレインに渡したタンガライト魔石の欠片だった。

その美しい欠片は繊細な金の装飾に包まれ、まるで宝石だと言わんばかりにクリスタの首元を彩っている。

ドレインは、余ってしまったタンガライト魔石の欠片を、クリスタとの研究の試作に使っていたようだ。


「……きれい……ドレイン様、ありがとうございます!」


クリスタはドレインに向き直り、満面の笑みを浮かべてお礼を言う。

誰がなんと言おうと、たとえそれが価値のない石だとしても、クリスタにとっては値がつけられない程の、価値のあるものだった。


「……お前、研究……続けるんだろ?」

「はい!ドレイン様に手伝っていただけたことで、もっと試したいことが増えたのです!」

「ふーん……そ」


ドレインの口元が僅かに上がる。


「卒業したら……戻ってくる」

「……え?」

「お前の隣、だれにもやんなよ……クリスタ」


ドレインが静かに手を伸ばし、ネックレスを持ち上げる。

そして、キスをひとつ。

クリスタの首にほんの一瞬、ドレインの指が触れ、まるでそこだけが火傷したかのように熱い。

魔法でもかけられてしまったのかと思うほど、クリスタは一ミリも動くことができなかった。


「……返事は」

「は、はいっ!」

「ふっ……」


もはや条件反射。

裏返った声で返事をしたクリスタに、片方の唇を上げ満足そうに笑った男は、そのままナトリオの元へ向かってしまった。

そして2人は馬車へ乗り込み、生徒たちの賑やかな声に見送られ、学園から去っていく。

やがて馬車が見えなくなっても……クリスタの首に残る熱は、なかなか冷めなかった。


「……や、やばい……」





――――――――――――――――――――





「ドレイン、何かいいことあった?」

「……さぁな」

「ふぅん?」


ガタゴトの揺れる馬車の中。

入学した時からのライバルであり、親友である2人は静かに言葉を交わす。


「あれ、そんな指輪してたっけ?まるでタンガライト魔石みたいな色だけど……なんの宝石だい?」

「その魔石」

「へぇ、魔石……なかなか綺麗じゃないか。相変わらず手先が器用だ。僕にも作っておくれよ」

「やだね」


ドレインの即答に、思わず目を見張る。

そこには、ナトリオですら滅多に見ることのできない、笑みを浮かべたドレインがいた。

何かを聞きたそうに見てくるナトリオに、敢えて窓の外を眺めてなにも言わないドレイン。


そっと、口の中だけで呟く。



――誰にもやんねぇよ。なぁ、クリスタ。

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