地味な君でも我慢して結婚してやるから勘弁してくれないか?という屑美男に婚約解消宣言しました
レティシア・ハデル伯爵令嬢は、凄く気弱で自分に自信がない。
茶の髪に地味な顔立ちの冴えない容姿だ。
フォルディシア・レイベルク公爵令嬢の取り巻きをしていた。
フォルディシアは自分の派閥のトップの令嬢だ。
それはもう、凛としていて金の髪に青い瞳の美しい令嬢でバラド王太子殿下の婚約者になっており、いずれは王太子妃になる予定の令嬢だ。
イリーナ・ヘンデ伯爵令嬢という同じく取り巻きの令嬢がいる。
派手な顔立ちの金髪美人だ。
レティシアの友人なのだが、その令嬢の事がレティシアは大嫌いだ。
付き合いを絶ちたいのだが、同じ派閥で顔を良く合わせるので付き合わざるを得ない。
共に貴族の令嬢で17歳。王立学園に通う同じクラスでもあるのだ。
気の弱いレティシアだが、婚約者がいた。
ジュテス・グラド伯爵令息である。
政略で2年前に結ばれたこの婚約。
金の髪に青い瞳のこの令息はそれはもう美しかった。
あまりの美しさに婚約者であるレティシアがいるのにも関わらず、色々な令嬢がジュテスに声をかけてきた。
婚約者がいないイリーナ・ヘンデ伯爵令嬢だって例外ではない。
彼女は堂々とジュテスに近づいた。
「ジュテス様。わたくしイリーナ・ヘンデと申します。レティシアの友人なのよ。どうかわたくしともお友達になって下さらない?」
「レティシアの友人か?喜んで」
近づいてくる令嬢なら何でも受け入れるジュテス。
にこにこして、色々な令嬢と話をしたり、仲良くしたり。
特にイリーナとはべたべたとして、顔を近づけて話をしたりしている。
レティシアは傷ついた。
貴方はわたくしの婚約者ではないの?それなのに、何でイリーナと仲良くしているの?
はっきりと二人に言ってやりたかった。あまりにも不誠実ではないかと。
しかし、イリーナは、
「貴方は冴えない茶の髪なのに、わたくしは明るい金髪で凄い美人だわ。だから、わたくしが美男のジュテス様と仲良くしてあげるって言うの。貴方は黙っていればいいわ」
家と家との婚約をどう思っているのだろう。
ジュテス様もジュテス様よ。
そういえば、婚約を二年前に結ばれたけれども婚約者らしいことをしてもらったことがないわね。
一緒に出かけたりしたけれども、あの人、すぐに店の人と仲良くなって話し込んだり、わたくしは放っておかれることが多かった。
人に好かれるのはいいことだけれども、わたくしはとても寂しいのよ。
ジュテスは人に好かれる。
だから色々な人が彼によってくるのだ。
それが、地味で目立たない自分に自信のないレティシアにとってはとても寂しかった。
わたくしは貴方の婚約者なのよ。
例え、政略でも特別扱いしてほしいの。
レティシアはプレゼントを貰ったことがない。
でも、ジュテスは、イリーナにプレゼントを強請られれば、
「いいよ。君は綺麗だから、何か買ってあげるよ。あまり高いものを買ってあげられないけれども」
「嬉しいわ」
二人でアクセサリーショップへ出かけたと聞いた時は、嫉妬で胸が焼け焦げそうだった。
左手の薬指にはまったエメラルドの指輪をイリーナに見せつけられた。
「ジュテス様に買ってもらったの。貴方は何か買って貰っているの?」
頭に来た。我慢できなくなって。
「わ、わたくしの婚約者なのです。ジュテス様は。なのに何でイリーナは仲良くしているの?」
イリーナは薬指の指輪を弄りながら、
「だって、わたくしはまだ婚約者はいないのよ。わたくしの方が美人だし、婚約者を変わってもいいと思わない?貴方は指輪も買って貰っていないのでしょう?わたくしは買って貰ったわ」
涙がこぼれる。
何でジュテス様はわたくしを大事にしてくれないの?
我慢できない。
ジュテスに聞いてみようと思った。
でも、言えない。
気が小さくて、自分の意見もはっきり言えなくて。
こんな気が小さくて貴族の伯爵家の夫人としてやっていけるの?
いずれ、ジュテスの家、グラド伯爵家に嫁に行くことになっている。
それなのに?
家庭教師をつけて家でも勉強をしているが、
家庭教師からも、
「もっとレティシア様は自分の意見をしっかり言えるようにならないと、伯爵夫人になれませんよ」
と、厳しくいつも言われていた。
だって、わたくし、怖いんですもの。幼い頃、何かやるとお祖母様によく怒られた。
レティシアは、駄目な子ね。本当に何をやっても駄目な子ね。顔も綺麗ではないし、誰に似たのかしら。
と、お母様もよくお祖母様に虐められていた。
ああ、お母様も自分に似て気弱で。
ああ、これからどうしたらいいの?
悩んでいたら、派閥のトップで、王太子殿下の婚約者フォルディシア・レイベルク公爵令嬢に話しかけられた。
恐れ多い。
いつも周りを囲む大勢の取り巻きの一人である自分にフォルディシアが声をかけてきたのだ。
「貴方、婚約者であるグラド伯爵令息にはっきり言った方がいいわ。確かに広く人と付き合う事はとても大事よ。でも、家と家の政略をどう思っているのか。貴方の事をないがしろにして、他の令嬢と仲良くするって人としてどうなの?って言いなさい」
同じく取り巻きのイリーナ・ヘンデ伯爵令嬢に向かって、
「貴方は最低ね。人の婚約者に手を出して。知っているかしら?伯爵家同士の婚約を壊した有責に貴方が関わっていた場合、レティシアから貴方は慰謝料を請求されることになるわ。貴方は将来、きちっとした結婚も無理になるわね」
イリーナは真っ赤な顔をして、
「し、しかしフォルディシア様。わたくしがジュテス様と結婚すればいいと思いますわ。わたくしの方が美しいし、わたくし指輪も買って貰いましたの」
フォルディシアは扇を手にせせら笑って、
「それじゃジュテス・グラド伯爵令息を呼んで聞いてみましょうか」
ジュテスは、バラド王太子殿下の側近をしていた。いずれは伯爵家を継ぐ身とは言え、王太子に近づいておいて損はないからだ。
ジュテスが呼ばれた。
バラド王太子殿下も何故か一緒に来た。
「愛しのフォルディシアが、ジュテスを呼んでいると聞いてね。焼きもちを妬いてしまったよ」
「あら、王太子殿下。貴方の事は呼んではいないのに、仕方のない方。邪魔をしない程度ならそこに居てもよくてよ」
フォルディシアに背を押されて、レティシアはジュテスに向かってはっきりと、
「わたくしは貴方の婚約者です。それなのに、イリーナに指輪を買ってあげたと聞きました。貴方の婚約者はわたくしよ。そこの所はどうなのかしら?」
ジュテスは眉を寄せて、
「欲しいと言われたから買ってあげたんだ。だってイリーナは美人だろう?それに比べて、君はそれ程、美しくない。だからイリーナに指輪を買ってあげた。エメラルドの指輪、イリーナに似合いそうだから」
「貴方はわたくしとの婚約に不満と言う訳ですね。でも、家と家の婚約。解消する訳にはいきません」
フォルディシアが助け舟を出してくれた。
「それとも、婚約を解消したいのかしら?婚約破棄?貴方有責で」
ジュテスは顔をしかめて、
「レイベルク公爵令嬢。それはありません。いかにおとなしくて地味な女性でも、妻に貰うしか、家と家の婚約ですから仕方なく」
酷い言い方をされて、レティシアは泣きたくなった。
仕方なく?わたくしはそれでないがしろにされていたというの?
もしかして、わざと?一緒に出かけても他の人に声をかけて仲良くなったのは。
わたくしと話したくなかったの?
イリーナがジュテスの腕に腕を絡めて、
「それなら、わたくしと婚約しましょう。わたくしの方が綺麗じゃない?」
「それはないな。君のヘンデ伯爵家は事業が上手く行かず借金が多いって聞いた。やはりいかに顔が地味で、冴えないレティシアでも、レティシアの家、ハデル伯爵家は事業も手広くやっていて順調だからね。縁続きになっても悪くないって。その為に、レティシアを我慢して嫁に迎えるんだ。イリーナを受け入れて借金を抱えるなんて考えられないよ」
イリーナは目を見開いて、
「酷いわ。わたくし、貴方に純潔を捧げてしまったのに」
ジュテスは慌てたように、
「何を言う。指輪を買ってやっただけだ」
フォルディシアが扇を手に、
「虚言は罪に問われるわ。覚悟はあっての事かしら。お二人とも」
イリーナは真っ青になって、
「嘘。嘘を言いました。わたくし、ジュテス様と結婚したかったのよ。誰もわたくしの家と婚約を結んでくれないんですもの」
レティシアは、
「かといって人の婚約者に言い寄っていいって事は無いわ。貴方とは友達付き合いもしたくない」
イリーナに絶交宣言をした。
ただ同じレイベルク公爵家の取り巻きである。
顔は合わせることはあるだろう。
しかし、フォルディシアは、
「わたくし、嘘つきの取り巻きはいらないわ。わたくしの傍に寄る事を禁じます。貴方の名前、よく覚えておくわ」
イリーナは真っ青になった。
未来の王妃に嫌われたのだ。
レティシアは、イリーナの事を気の毒にも思ったが、ジュテスとの事を考えると、すっきりとした気持ちにもなった。
ジュテスはレティシアに謝って来た。
「申し訳なかった。イリーナの事。つい美人だから指輪をあげてしまった。でも、私の婚約者は君だ。地味な君でも我慢して結婚してやるから勘弁してくれないか?」
さすがに、上から目線すぎて、嫌だとレティシアは思った。
ずっと我慢してきた。
ないがしろにされて我慢してきたのだ。
だから言ってやった。
「婚約を解消するように、お父様に言います。貴方にふさわしい美しい人とどうぞご結婚なさって下さいませ」
「え?君の家が必要なんだ。父上に怒られてしまう」
「わたくしは嫌なのです。貴方と結婚すること自体が。さようなら。ジュテス様。二度と話をしたくないわ」
ずっと黙ってフォルディシアの傍で様子を見ていたバラド王太子殿下が、ジュテスに向かって、
「グラド伯爵令息は無能だという事が良く分かった。今回の事で。女性は尊重するものだ。決して容姿を貶めたりするものではない」
フォルディシアがレティシアを抱き締めてくれた。
「女性はね。磨けば光るわ。わたくしが貴方を光らせてあげる。もっと自信を持って。そして将来、わたくしを支えて頂戴」
レティシアはフォルディシアの優しさが有難かった。
そして、ジュテスに感じていた恋心。エメラルドの指輪をイリーナに贈った時から砕けていた恋心を地に打ち捨てた。
ジュテス・グラド伯爵令息との婚約は解消された。
しかし、ジュテスの件があってから、レティシアの心の傷は深くなった。
祖母に蔑まれて来た自分。美しくない自分。何をやっても駄目な自分。
その上、ジュテスからも地味な顔立ちのレティシアを我慢して結婚してやると言われたのだ。
ああ、わたくしは駄目な人間なんだわ。まったく綺麗じゃないし。
これから先、どうしたらいいの?
そんな中、フォルディシアは取り巻きの令嬢達を集めて、貴族の女性はどうあるべきか、色々と教えてくれるようになった。
放課後、皆でフォルディシアに教えを乞う。
フォルディシアは、髪型から美しく見える仕草、話し方、自分に自信が持てるようになる気構え等を、令嬢達に教えてくれたのだ。
レティシアは明るくなった。
嫌いだった茶の髪も、フォルディシアのアドバイスの元、綺麗に巻いて結った。地味な顔立ちも、化粧を少しして派手に見えるように努力をした。
仕草も家で習う以上にフォルディシアに習って、洗練されていった。
レティシアの家では今日も、祖母が嫌味を母に言っている。
「本当にお前は出来損ないの嫁なのだから、わたくしは苦労するわ」
父は母を庇わない。
だからレティシアは言ってやった。
「お祖母様。お母様は立派に伯爵夫人として仕事をしていますわ。どこが駄目なのですか?わたくしだって、フォルディシア様から、色々と教わっている最中です。いずれ、我が伯爵家に役立つ所に嫁いでみせますわ」
父であるハデル伯爵は自分の母に向かって、
「おとなしかったレティシアが随分と成長したものだ。母上、そう思いませんか?」
ハデル伯爵夫人も頷いて、
「レティシア。わたくしを庇ってくれて有難う。貴方にふさわしい家を探さないとね」
祖母である前ハデル伯爵夫人は、
「まったく、生意気になって。はいはい。年寄りはもう口出ししませんよ。本当に」
フォルディシア様のお陰できっぱりと母を庇う事が出来た。
数日後、レティシアに縁談が持ち込まれた。
レイベルク公爵家の次男のアレス・レイベルク公爵令息である。
フォルディシアと双子のアレスは今まで留学して王立学園には来ていなかった。
ハデル伯爵夫妻である両親とともに、レティシアがレイベルク公爵家を訪ねれば、
レイベルク公爵夫妻とフォルディシアとアレスが対応してくれて。
レイベルク公爵は、
「アレスにはいずれ伯爵位を与えようと思っている。アレスの妻にレティシア嬢がどうかとフォルディシアから言われてな。そちらのハデル伯爵家の事業に我が公爵家は興味がある。この結婚、両家にとって良い話だとは思わぬか?」
ハデル伯爵である父は、
「有難うございます。この結婚、まずは婚約ですかな。喜んで受けさせて頂きたいと思います」
「アレス・レイベルクです。よろしくお願いします」
フォルディシアと良く似た顔のアレスがにこやかに自己紹介をしてきた。
「レティシア・ハデルです。よろしくお願い致します」
素敵な人。金の髪に青い瞳の美男で、フォルディシア様に似ているけれども、前の婚約者ジュテス様にも似ている美男だ。
この人と結婚するだなんて。
レティシアはドキドキした。
アレスはとても優しくて、レティシアを尊重してくれる。
レティシアに寄り添って、楽しく話をしてくれる。
レティシアはアレスの事が大好きになった。
アレスと共に王立学園に通う。
皆、羨望の眼差しでレティシアを見ている。
アレスが美男だからだ。
アレスと共に歩いていると、前の婚約者ジュテスが声をかけてきた。
「レティシアみたいな地味な女、連れ歩くなんて貴方の恥になりませんか?アレス様」
アレスはジュテスの問いに、
「ならないよ。レティシアは努力家だし、女性は磨けば光る。伯爵夫人として立派にやっていけると私は思っているよ」
イリーナが近づいて来て、
「わたくしの方が美人よ。わたくしと婚約して下さいませんか?アレス様っ」
アレスはイリーナをちらりと見て、
「君は誰だ?失礼な女だな。私はレティシア・ハデル伯爵令嬢と婚約を結んでいる。なんで知らない女と婚約をしないとならないんだ?」
「わたくしの方が美人だからです。ジュテス様だってわたくしに指輪をくれたわ」
傍にいたジュテスが、
「そりゃ、指輪はやったさ。でも、君とは結婚出来ないって言っただろう?あれから両親に怒られたんだ。レティシアと婚約解消になったのは私のせいだって。私のどこが悪い?美人と結婚は男のロマンだろう?」
「だったら、わたくしと婚約を」
「君の家は借金だらけじゃないか」
レティシアは醜い二人の争いが嫌になった。
だから、はっきり言ってやった。
「わたくしはもう、お二人とも関係ありませんわ。それからアレス様に付き纏うのはやめて下さる?アレス様はわたくしの婚約者よ。イリーナ。二人とも二度と、わたくし達の前に姿を見せないで下さいませ」
翌日、二人の姿が王立学園から消えた。
レイベルク公爵家から抗議をしたとの事。
公爵家の怒りを恐れた両家が、二人を退学させたのだ。
アレスはとても優しい。
レティシアは幸せだ。
フォルディシアがレティシアを可愛がってくれて。
色々と教えてくれる。
「女性は磨けば美しくなるのよ。貴方は努力家でとても優秀。わたくし、期待しているわ」
「有難うございます。フォルディシア様」
アレスに背後から抱きしめられた。
「姉上には感謝している。素敵な女性を紹介して貰えた。レティシア。君はとても綺麗だよ。
世辞じゃない。努力をする女性は輝くものだ。これからもっと輝いておくれ。私が伯爵家の爵位を継いだら一緒にレイベルク伯爵家を盛り立てていこう」
アレスともうすぐ結婚を控えている。
今、とても幸せだ。
風の噂で、イリーナのヘンデ伯爵家が事業が上手く行かず爵位を売ったと聞いた。
彼女はどうなったのか?借金返済の為、娼館に売られた。
イリーナは自分で言う通り、美しいので、客も沢山ついて借金も数年で返済できるだろう。
ジュテスは廃嫡された。
未来の国王夫妻に睨まれていて、無能なので、弟がグラド伯爵家を継ぐことになった。
金髪美男のジュテスは、弟の下で働くのが嫌で家を飛び出した。
飛び出したところで馬車に押し込まれさらわれた。
屑の美男をさらって教育するのが大好きな変…辺境騎士団の男達がさらっていった。
確実に。
今頃、じっくりむっちりと教育されているだろう。
ジュテスもイリーナももう、過去の人。
今日は夜会で初のデビュタント。
愛しいアレスに手を引かれて、豪華な緑のドレスでレティシアは夜会に臨む。
さぁ、美しく輝くのよ。わたくしは、自信の無かった令嬢ではない。
これからはアレス様の傍で、輝いてみせる。
夜会が始まった。
レティシアは輝かしい未来に向かって、アレスと共に一歩踏み出した。
とある変…辺境騎士団
「情報部。よくやった。屑の金髪美男ゲットだ」
「若くて生きがいい。教育しがいがあるぞ」
「触手でウネウネ」
「三日三晩で教育だ」