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突然の訪問者

 何度体力作りを懇願しても駄目駄目言われ、これ以上は言っても無駄だと判断し不貞寝する事にした。寝る子は育つらしいし。

 何故かリケルドも私のベッドに入ってきたが、今更動じる事もない。逞し過ぎるリケルドの身体に抱き締められながら、私は目を閉じた。


「なぁ」

「ん〜?」


 今から寝るというのに、何で話し掛けるんだと思いながらも優しい私は返事を返す。


「お前が消えたあの日、俺は初めて泣いたんだぞ」

「え?」


 何の話?リケルドの顔を見ようとしたけど、強く抱き締められて身動き出来ない。


「俺だけじゃない。皇帝だって大公だって、涙なんて流した事が無いような奴等が皆、ガキみたいに泣いたんだ。お前が、居なくなったりするから」

「……それ、聖女様の話でしょう」

「ああ、そうだ。最後の最後まで、自分は聖女なんかじゃないって言い張ってた、お前の話」

「…………」


 また始まったと溜め息を吐く。数十年も聖女様に恋患っている事は同情するが、無関係な私に執着するのはやめてほしい。


「ちょっと散歩するだけだって、言ったくせに」

「……………」

「何で今更体力作りなんてしようと思った?また俺達から逃げる為か?」


 もう知らん。私は目を瞑り、ぐーすか眠ったフリをした。


「な〜。聞いてんのかぁ〜?」


 空気が読めない脳筋は、私の美しい頬をぷにぷに触ってくる。


「それ以上触ったらお金取りますよ」

「お前馬鹿だなぁ〜。そんな事大公達に言ったら、大変な事になるぞ~」


 確かに。お金さえ払えば触りたい放題だなんて思われたら大変だ。

 なんだか眠気もやって来ないのでリケルドの脚を蹴って離れてもらう。腕は動かせなかったから。足癖が悪いわけではない。

 起き上がり何しようかと部屋を見渡していると、何だか廊下が騒がしい。

 ズダダダダ!!という人が走る音がしている。でもその音は私の部屋の前で止まり、部屋の扉が勢い良く開け放たれた。


「ご無事ですか!!聖女様!!!」

「うげ」


 完璧美少女が出してはいけない声が出た。まぁ、それくらい会いたくなかった相手が今目の前に居るのだ。


「せめてノックはしろよ」

「私と聖女様を隔てる物など存在しません」

「お前とお嬢様の間には越えられない壁があるって前お嬢様が言ってたぞ」

「越える必要なんてありません。壊せばいいのですから」

「壊せなかったら?」

「存在しない物に煩わされたくありません。私は聖女様の事だけ考えたいのです」

「それもそうだな」


 にこにこ笑う侵入者に苦笑いが浮かぶ。いや、引き釣り笑いしか出ない。彼はこの国の聖女様を崇め祭る神殿のサーチェル大神官であり私の8番目の男さんだ。


「大神官様、私に御用ですか?」

「はい。チェイニー殿からご連絡頂き、急いで参りました。聖女様がカトラリーと靴をご所望だと伺いましたが、一体何故ですか?」


 そういえば、大神官を呼ぶとか言う話を義兄と養父がしてたっけ。本気だったとはドン引きだ。


「ただ、私も皆と同じ様にしたいだけです」

「そうでしたか。ですが聖女様。人は人、聖女様は聖女様なのです。他の者がしているからといって、それを聖女様がされる必要はないのです。我々は皆聖女様の下僕。どうぞ聖女様の手足として使ってくださいませ」


 この人とは話にならない。大神官は聖女様至上主義者筆頭。聖女様関連で一番頭がおかしくなる人だ。関わりたくない。


「そんな事言わないでください、大神官様。私、楽しみなんです。歩く事も、カトラリーを使って自分で食事する事も」

「………………そう、ですか」


 長い長い間を置いて、大神官は絞り出す様に声を出した。

 なんか、目が死んでる。嫌な予感しかしない。


「では、失礼します」


 突然手を握ってきた大神官は、手をふわりと光らせた。その瞬間、私の身体から力が抜けリケルドに支えてもらいながら、ゆっくりと身体を横たえた。


「お嬢様はホント馬鹿だなぁ〜」

「な、何が…」


 身体がピクリとも動かせない。辛うじて話す事と瞬きだけは出来るが、それ以外は何も出来ない。


「申し訳ありません聖女様。ですが、聖女様の安全が第一なのです。聖女様のお世話は我々が全ていたしますので、どうぞご安心ください」


 そんな事を満面の笑みを浮かべ宣う大神官に殺意が湧いた。

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