体力作り
ゆっくりと息を吐き心を落ち着かせる。無意味な会話は心身に悪影響だ。毎度律儀に否定していたがもう止めよう。聖女様並みに美しい容姿と心の持ち主なのは事実だから。
「もう皆お仕事のお時間でしょう?早く行かれてはどうですか」
暗に、はよどっか行けと伝えると皆時計を確認して椅子から立ち上がる。
「それじゃあ、またお昼に」
ヒラヒラと手を振り皆を見送った後、私はチェイニーに抱えられ部屋へと戻った。
「お嬢様、では私も仕事に行ってまいります。もう直ぐリケルドが来ますのでお待ち下さいね〜」
「はい、いってらっしゃい。お仕事頑張ってくださいねチェイニー」
「は~い」
颯爽と部屋を出て行くチェイニーを見送り、ベッドの上でゴロゴロ転がる。
取り敢えず体力作りの為少しでも動かなければ。
数回ゴロゴロしただけで息が上がりゼーゼーと息を乱していると、部屋の扉がノックされた。
「よっ!待たせたな〜!」
爽やかに登場したのはリケルド。一応私の護衛騎士だ。まぁ、私の9番目の男さんでもある。
「リケルド、お疲れ様〜」
「お〜」
リケルドは騎士なので朝早くから訓練し、チェイニーが仕事に行く時間に私の護衛の為部屋に来てくれる。
「ねぇリケルド。体力作りで一番オススメなのは何ですか?」
「体力作りで?う〜ん…強い奴と戦うとか?」
「それは体力作りなんですか…?」
「そりゃあ、強い奴と戦ってると負けたくないが為に限界以上の力を使うからな〜」
脳筋って理解出来ない。怖。
「私にも出来る体力作りってありますか?」
「無いですね」
おいこら脳筋。即答するんじゃない。さっきまでの気安い感じ何処行った。
「も〜。お父様が私に靴を買ってくれるんです。だから歩ける様体力付けないと」
「大公が?へ〜。でもどうせ買って履かせて終わりだろ。あの人がお前の逃げ道作る訳ないしな〜」
言い返したいのに言い返せない。なんかそんな気がするから。カトラリーもテーブルに並べるだけで使わせてはもらえなさそうだ。
「ただ歩くだけですよ。逃げるって何ですか。私のお家はここなのに」
「お前には前科があるからなぁ」
「そんな前科ありませんよ!」
過去に戻った今は皆の更生が出来なかったら逃げる気満々だが、15歳になる前の私はこの家から出る気なんてさらさら無かった。養父達に一生養って貰う覚悟すらあった。
「ま、体力なんて付ける必要はないだろ。生きるのに必要な最低限の筋力は維持されてんだから」
「最低限じゃ困るから体力を付けたいんです!」
酷い話だが、大神官によって私の身体は管理されている。魔法とは便利なモノで、寝た切りにならない程度の筋力を大神官が私の身体に付けてくれているらしい。たまに大神官は『寝た切りになったとしても、誠心誠意一生お仕えしますのでご安心ください』と満面の笑みを浮かべて言っていたが、そんなの絶対お断りだ。