私は聖女様じゃありません
「ごめんね。冗談だったのに、本気にされちゃって悲しかったんだ…」
本当に冗談だったかはさて置き、態度だけは反省している養父を、叔父達も渋々赦してくれた。
「まぁ、今回は赦してやる。あんな事を言われたら、浮き立つ気持ちもわかる」
叔父は深く溜め息を吐いた後、非難する様な目で私を見てきた。
まるで私が悪いとでも言いた気なその視線にムッとする気持ちを隠し、コテンと小首を傾げてやった。
「皆が仲良くしてくれて嬉しいです!聖女様、ありがとうございます!」
両手を組み祈る様に目を閉じる。なんて健気で可愛い私、と目頭が熱くなる。ぶっちゃけ私は聖女様に会った事がないし、聖女様と瓜二つというだけで15歳になった私は大変な目に遭ったのだ。信仰心も15歳のあの日に消し飛んだ。何ならもう自分自身を信仰したい。
「いつ見ても、おかしな光景だよね」
ソランジェの言葉に目を開けると、手を口に当て笑うのを堪えた様な表情をしていた。
「おかしいですか?」
「うん。すっごくおかしい」
何が?と首を傾げるとクスクス笑われた。
「だって俺は自分自身に祈ったりしないから」
「えっ」
一瞬自分自身を信仰したいと思った事がバレたのかと焦ったが、これはあれだ。今まで何度も言われた事がある、あれ。
「ソランジェお兄様、私は聖女様じゃありませんよ」
「それは君が知らないだけだろ?」
「聖女様は数十年も前から居る方でしょう。私は今11歳です。ソランジェお兄様は私が何十歳も年齢を詐称してると言いたいのですか?」
「そうじゃない。赤ん坊だった君を育ててきたのは俺達だよ?疑いようがないじゃない」
「じゃあ、生まれ変わりとでも言いたいんですか?」
「彼女は死んでなんていないよ?」
「………………」
頭が痛い。この話に終わりはないのだ。
盲目的に、狂信的に、彼等は信じて疑わない。数十年前にこの国を救った聖女が私だと。