世界で一番
いや、でもどうして15歳なのだろう。私の初潮は13歳で来たのに。因みにこの世界の成人年齢は20歳。寿命は個人差があるらしく、魔力量が多ければ多い程寿命が長いと聞いた。この世界の最長年齢は852歳だ。まぁ、ここまで長い人は稀だけど。
暫く考えて答えが浮かぶ。この世界の人達は異様に成長か早い。前世で過ごした日本の6歳児がこの世界では2歳児程の大きさだ。そしてだいたい皆15歳で成長が止まる。元日本人としては違和感しかないが、魔法を使うには身体が資本らしくこの世界の人達は男女共にかなり身長が高い。
それに比べて私は元日本人の誇りを忘れなかったのか、前世と大して変わらない大きさだった。前世でも小柄だった私は、この世界ではかなり小柄扱いされる。だからもしかしたら、私が完全に成長するまで待っていてくれたのかもしれない。まぁ結局、そんなに成長しなかったけど。そもそもそんな気遣いする暇があったなら、倫理観だか道徳心の勉強をしてほしかった。
「まぁ取り敢えず、カトラリーと靴の準備だけはしておくよ」
養父と叔父が何か話し合っていたが、最終的にカトラリーと靴は貰える様だ。よかったよかった。
「父上、念の為大神官を呼び寄せましょう」
「そうだねぇ」
頭のおかしい私の家族は、カトラリーと靴が私を襲うとでも思っているのだろうか。私は幼児ではない。カトラリーや靴で怪我をする確率なんてゼロだ。こんな事でフラグは立たない。
「話が終わったなら食事の続きだ。ほら、早く食べろ」
私は雛鳥私は雛鳥と自分に暗示をかけ、無心で口元に運ばれる料理を食べ尽くす。
「そう言えば、明日は皇帝陛下と皇太子殿下に会いに行くんだよね?話はしっかり聞いて、おかしな事を言われたらハッキリ嫌だと言うんだよ?」
「はい、わかりましたお父様」
大公である養父は皇帝陛下と仲が良く、従兄弟でもあるので私も幼少期から皇城に行く事が多かった。次第に私だけ何度も呼び出される様になり、3日に一度は皇帝陛下と皇太子殿下とお茶する仲になった。ただの茶飲み友達だと呑気に考え、美味しいお菓子を皇帝陛下に食べさせてもらいながら、合間合間に皇太子殿下が飲ませてくれる茶を啜っていた。
だがもうお茶飲み倶楽部も解散だ。皇帝陛下も皇太子殿下も私の男さんに立候補して来た頭のおかしな人達なのだから。
「お父様、もう随分皇帝陛下や皇太子殿下に甘えその貴重なお時間を戴いてきましたが、私も自分の立場を理解しどれ程自分が恥知らずだったか理解しました。だからもうそろそろお城に行くのは止め、勉学に励みたいと思います」
尤もらしい事をつらつら語る私の演技力は自画自賛出来るレベルだ。自分の事は元々好きだったけど、ナルシストに加えエゴイストにもなろうと思う。
「勉学って?もう言葉も話せるし文字も読めるのに、他に何を習うんだい?俺が教えられる事はもう無いけど…」
「ソランジェお兄様、私お金の価値だって他国の名前だって、まだまだ知らない事が沢山あります。字だって自分で書いてみたいです。いつか父と母にお手紙を書くのが私の夢です」
この世界の私の本当の家族。
私の魔力が特殊過ぎて、仕方なく私を手放さざるを得なかったらしい。出来る事なら会ってみたい。もし頭のおかしなこの人達を更生させる事に失敗したら、匿ってくれないだろうか。
「君の父親は僕なのに?もしも字を書ける様になったら、一番最初は僕に手紙をくれるべきじゃないの?」
おっと。養父がデザート用のスプーンを握り締め机に思いっ切り押し付けている。
演技派女優の私は流れる冷や汗を涙に変え、養父から視線を逸らす。
「でも…お父様に渡すお手紙なら、ちゃんと綺麗な字を書ける様になってからが良いんです…だって、世界で一番大好きなお父様に、初めて贈るお手紙だから…」
健気さ全開で目を伏せる。勿論目尻に指を当て、涙を拭う素振りも見せておく。
思えば養父は昔から私の一番にやたら執心していた気がする。血は繋がっていないとはいえ、長年育てた娘の処女を奪うくらいだ。ヤバイなんて言葉じゃ足りない。
「世界で、一番?僕が好き?」
「はい!勿論です!」
嘘も方便という便利な言葉を私は知っている。元ではあるが、私は大和の魂を異世界に持ち込む程の大和撫子だ。将来的に限界ヤンデレに成り変わる養父のご機嫌を取るくらい朝飯前だ。まぁもう朝食は食べ終わったけど。