やっぱりバレた
「どうして皇太子殿下はこんな所で倒れているんですか?」
地面にうつ伏せで倒れている皇太子は、さっきからピクリとも動いていない。朝皇太子が倒れたと聞いてはいたけど、まさかずっとそのまま放置してるの?
「何度か聖石を取りに行かせたからな。魔力と体力切れで倒れたみたいだ」
「せいせき?」
聞き慣れない言葉に首を傾げると、叔父は皇太子の近くにある白い石を指差した。
「あれだ。聖石で屋敷を作れば、外からの侵入者を防ぐことが出来るんだ。それに、皇帝や皇太子が屋敷を壊そうとしても、聖石は魔力を通さないから壊される心配もない」
「へー…凄い石なんですね」
「ああ。大量の聖石を手に入れるのは困難だが、今回は皇太子が手伝いを申し出てくれたから何とかなった」
成る程。きっと物凄く皇太子をこき使ったんだろうな。
その後補足で聖石は魔力を通さないから転移魔法で運べない事や、聖石がある場所はドラゴンの姿でも片道4時間はかかる場所にある事を教えてもらった。さっき兄がドラゴンの姿で街の上を飛んでいたのも、聖石を運んでいたからだそうだ。皇太子は聖石運びで魔力と体力が切れてしまい、今は死んだように眠っているらしい。まぁ、完成していた屋敷を壊したのは皇太子だし、自業自得か。
「まだ少し聖石が足りないから、皇太子が目覚めたら早々に取りに行かせる。城での生活は不便だろうが、もう少しだけ我慢してくれ」
「え?あ、はい」
危ない危ない。お城での生活になんの不便もなく、寧ろ快適だなんて言ったら速攻お城から連れ出されてしまう。新しいお家は楽しみだけど、お城から出たらまた養父たちから1分1秒たりとも離れられない生活が始まってしまう。しかもジュロンたちも私と一緒に住むつもりみたいだし、なんだか大変な未来しか見えない。やっぱりお城に住もうかな?
「急がなくていいですからね。じっくりゆっくり考えて、安心安全なお家を作ってください」
「うん、任せて。僕がルゥナにピッタリな部屋を作ってあげるからね」
「あ、はい…」
にっこり笑う養父に嫌な予感しかしない。
「ちなみにどんなお部屋が私にピッタリなんでしょう…?」
本当は聞きたくない。でも、聞かなきゃいけない。だってまだ家は完成してないから、軌道修正出来る今知る必要がある。
「そりゃあ勿論、窓が無くて、大きなベッドが一つある、そんな部屋かなぁ」
「な、成る程…」
前住んでた部屋はまだ窓があったのに。なんで態々窓をなくすの?ヤンデレだから?
「もう外は十分見たもんね?だから、もう外を見る必要ないでしょ?」
「え?」
養父は言葉と共に私の両眼を手で覆ってしまう。
「今度は何してくれるんだろうね?楽しみだなぁ」
「お、お父様…?」
楽しげな養父が、怒っているように感じるのは何故だろうか。怒らせるような事したっけ?
「あっ」
少し離れた所から、ロシーの焦った声が聞こえたが、その理由はわからない。
「あー…」
ジュロンもまた、気まずそうな声を出す。視界が真っ暗な私は、心臓が異常な程ドキドキ鳴っているのを聞きながら、震える声でもう一度養父を呼ぶ。
「お父様、どうしたんですか?」
「靴の裏汚れてるよ」
「はい?」
何言ってんの?靴の裏なんて汚れて当たり前、と思った瞬間、それが私にとっては当たり前じゃない事に気付く。靴。そうだ。私今靴履いてる。ついさっき買ってもらったばかりの靴。私が履いていたら不味いもの。
「今度はキスだけじゃ赦さないからな」
叔父の底冷えするような声に、私は全身を震わせながら必死に言い訳を考える。上手く誤魔化せたと思ったのに、やっぱり私は詰めが甘い。
「も、もしかしたらこの靴を買う前に誰かが試着していて、その時に汚れたのかもしれませんね」
「へぇ。…ねぇ、なんで靴なんて履いてるの?僕、靴履いていいよって言ったっけ?」
「い、以前お父様私に靴履かせてくれましたよね?だからてっきりいいのかなって…」
「ふーん、そっか。僕が勘違いさせちゃったんだね。ごめんね?これからは二度と靴なんて履いちゃ駄目だよ?わかった?」
「は、はい…」
ドッキンドッキンと鼓動する心臓が痛過ぎる。どんな言い訳をしても無意味なんだろうけど、ここで抗うことを放棄したら15歳を待たずに大人の階段を登らされる。それだけは絶対に阻止したい。大事な家族を、子供に手を出す変態にするわけにはいかないし。
「本当に、ごめんなさ」
「ちょっと待て。今度はってなんだ?お前等まさか、もうこいつに手ぇ出したのか?15になるまでは手を出すなって言ったのはお前等だよな?」
私の言葉を遮り、ジュロンが気付いてほしくなかった事を口にする。
「何言ってんの?お前たちと僕が同じなわけないだろ。ね?ルゥナ?僕はいいもんね?」
「は?お前、俺よりこんな束縛野郎の方がいいのか?違うよな?」
圧が凄い。養父からもジュロンからも凄い圧を感じる。どうすんのこれ。漫画やアニメでよくある男性キャラクターたちから取り合われるヒロインに憧れた事なんてないから只管困る。養父かジュロン、どっちがいいかと言えるなら僅差でジュロンだ。街に連れて行ってくれたし、束縛もヤンデレ度も養父よりはマシだから。でもそれを言ったら終わっちゃう。束縛もヤンデレ度も限界突破しちゃってる養父の地雷が大爆発しちゃう。ただでさえ地雷を踏んでこんなに過去が変わってしまったのに、これ以上変わったら私どうなっちゃうの?想像するのも怖い。だからといって、養父を選んだ場合、束縛もヤンデレ度も養父よりはマシってだけのジュロンの地雷を踏む事になるだろう。15歳の私は、その事を身を持って知っている。つまり、今の私が出来る事は、救世主を待つか、余計な事を言わないように固く口を結ぶ事だけだ。
「あれ?答えられないの?おかしいな?僕と彼じゃ天と地以上の差がある筈なのに…ルゥナってもしかして、傷付けられるのが好きなの?うーん…それだと僕が不利になっちゃうな。どうしよう…?…僕、ルゥナの事傷付けられるかなぁ…?…ルゥナの手、ナイフで切った方がいいの…?」
「私Мじゃないです!!私は自分に誰よりも優しくしてあげたい人間なんで!かすり傷一つ付けたくありませんし、人にも鬼の様に優しく大事にしてほしいです!」
どうしてそんな恐ろしい発想になるの?怖過ぎるんですけど。
「暴力を振るう人は大嫌いなんで、絶対にやめてください!」
「よかった。僕は君を傷付けたりなんて絶対にしないよ。ほら、やっぱり。僕と彼とじゃ天と地以上の差がある。ねぇ?聞いただろ?ルゥナはお前の事、大嫌いだってさ」
心底楽しそうな顔でジュロンを見る養父につられて私もジュロンを見ると、ジュロンは泣きそうな、傷付いた顔を隠す様に強く目を瞑り俯いてしまった。
「ジュロン様…?だ、大丈夫ですか?」
「ほっときなよ。大嫌いでしょ?こんな奴」
養父がジュロンを嫌う理由は聖女様関連だろうけど、私は関係ないしジュロンの事も別に嫌いじゃない。
「お父様、あんまりジュロン様を苛めないでください。私はジュロン様に何もされてないんですから」
「何も?…ああ、そうだね。君からしたらあれは未来の出来事なんだよね。でも、僕からしたらあれは過去の出来事なんだ。だから彼を赦す事は出来ない」
「はぁ…」
そう言えば、皇帝や皇太子も聖女様を傷付けたって自分を責めていたっけ。国の為って言ってたし、ジュロンも自分の国の為に聖女様を傷付けてしまったんだろうか。




