カトラリーと靴
過去に戻る前は気付かなかったけど、どうやら義兄達はもう既に頭がおかしかった様だ。寧ろ何で気付かなかった。私の頭もおかしいのかな?
「カトラリーが欲しいのか?本当に?」
養父の弟であり養父の補佐官をしているリスベルが、思案顔を浮かべ私の顔をジッと見つめてくる。
「はい、叔父様。私も立派なレディーですし、自分の事は自分でしたいお年頃なのです」
「そうだな。君ももう直ぐ12歳だし、なんだって自分で出来ると思う年頃か」
「はい!」
衝撃の事実に怯む事無く、私は笑顔で頷いた。
10歳前後だと思ってはいたけど、12歳になる年だったとは。私、12歳の時こんなに断崖絶壁だったっけ。過去が美化され過ぎていたようだ。
そんな事より大変だ。15歳までもう3年程しか無いなんて。
「そっかそっか。我が娘の成長を嬉しく思うよ。カトラリーは昼食までには用意させよう。他に何か望むものはあるかいレディー?」
養父のキーリスはにこやかに笑いながら頬杖をつく。
優し気なその笑みに騙されてはいけない。この養父こそ、父親だからと言い張って皇帝陛下すら押し退け私の純潔を真っ先に奪った初めての男さんだから。アイタタタ、過去の古傷が痛む気がする。初体験の痛みを思い出し頬が引き攣る。3年後に起こる事だけど、私からしたら過去だ。厨ニ病になったわけではない。
「他に?そうですね…では私も自分の足で歩きたいです」
「そっかそっか〜。なら靴を用意しないとね。靴も昼食までには用意させるよ。いや〜、娘の成長って、こんなにも喜ばしいんだねぇ」
まさかこんなにアッサリ承諾されるとは。何でも言ってみるものだ。ただ、何故か心から喜べない。
キーリスは右手で頬杖をつき、左手に持ったフォークをギリギリとお皿に突き立てながら『お祝いしなきゃねぇ』と笑っていた。言葉と行動が違い過ぎて怖いんですけど。
「だが、カトラリーを使うには勉強が必要だぞ兄上。最低でも3年は学ばせなければ人前で恥をかくのはルゥナだ。歩くのだって筋力を付けない事には不可能だ。3年は足を動かす練習だけさせよう」
リスベルの魂胆が見え見えで寒気がしてきた。カトラリーの勉強に3年も必要ない。足だって、3年動かす練習だけって虚しすぎるわ。
まさかこの時から15歳になった私にあんな事やこんな事をするつもりだったのだろうか。
ロリコ…いや、地球なら犯罪だけど、この世界は地球とは色々異なり貴族は5歳とかで婚約者を作り、女の子の初潮が始まればさっさと子作りし世継ぎを産むのだ。子供が子供を産んでも出産のリスクは無い。なにせこの世界には魔法があるから。だからわざわざ鼻からスイカを出す様な痛みを味わわなくてもいい。魔法でチャチャっと赤ちゃんを母胎から取り出して終わりだ。養父も14歳で義兄達の父親になったらしいし。