逢瀬
メイドさんと話すのは実に有意義だった。お陰で、私がいかに無知であったかを知る事が出来た。
例えばこの国の名前がジャクリオルって名前だとか、ジュロン達の国がロージェレフトって事とか…次言う機会があっても絶対思い出せないような名前だから、まぁ知っても意味はないけど。でも、私に言葉や文字を教えてくれていたソランジェが、必要最低限しか私に物事を教えてくれていなかった事がよくわかった。
「すみません、大神官様を呼んできてもらえませんか?出来るだけ内密に」
「サーチェル大神官様を、ですか?…かしこまりました」
さっきのやり取りを見ていたからか、少し躊躇いがちに部屋を出て行くメイドさんを見送り、暫し瞑想する。こんなに心が穏やかなのは久し振りだ。普通の異世界転生って冒険したり人々を救ったり、色々あるじゃん?でも私の異世界転生何にもない。無さ過ぎる。思えば家と城、もしくは神殿しか知らないのだ。つまり外に出掛けた事がない。街とかさ、ファンタジーしてるか見てみたいのに。買い物とか旅行とか、出来ないものか。まぁ、これを言葉にしたら養父達の地雷踏んじゃうだろうから言えないけど、こんな代わり映えしない生活も飽きてきた。いや、まぁ、家が壊れたり色々あったはあったけど、私が求めてるものはそんなんじゃない。ぐーたら生活は過去に戻る前に満喫したし、今回は思いっ切り異世界生活を満喫したい。その為にも必要な人材がいる。そう、大神官だ。
「聖女様、お呼びとお聞きしましたが…」
ものの数分でやって来た大神官は、及び腰で部屋に入って来た。
「大神官様!お待ちしてました!すっごく会いたかったです!」
「え?」
さっきの連帯責任云々はなかったかのように振る舞う私に戸惑っている大神官へ、天使のような微笑みを浮かべる。
「いつもお父様達がいるから、大神官様と二人きりでお話出来なくて悲しかったんです…だから今の内に大神官様と…ううん、サーチェル様といっぱいお喋りしたいんです!…迷惑でしたか…?」
「えっ!!?」
ボフンと全身真っ赤に染まり狼狽える大神官を、涙目で見上げ首をコテンと傾げる。作られたぶりっ子は疎まれているが、私からしたらぶりっ子なんて化粧と同じだ。自分を可愛くする為なら、他人の目なんて気にしない。目的さえ達成出来れば、ぶりっ子だろうと悪女だろうと喜んで演じてやる。
「めっ、迷惑だなんて、とんでもございません!!是非二人きりでお話しましょう!!あ、皆さん、部屋の外で待機していてください。邪魔者が来ないように、見張りもお願いしますね」
部屋に数人待機してくれていたメイドさんを外に追い出した大神官は、動かない私の手をそっと握ってきた。
「聖女様はあまり変わりませんね」
「何がですか?」
愛しそうに私の手を撫でたり握ったりしている大神官の言葉の意味がわからず聞き返すと、クスクスと笑いながら私の手にキスしてきた。大変変態です。
「サーチェル様?」
「ああ、申し訳ございません。私が聖女様と初めてお会いした時、聖女様は15歳だと仰っていたのですが、今とあまり…」
言いにくそうに口籠る大神官が何を言いたかったのか理解した私は、フッと笑みを深めた。残念だけど私は成長する。15歳の私は断崖絶壁ではない。Bあるから。せっかく成長期の頃に戻った事だし、もっと上を目指してみようか。肩凝りに悩む人生も悪くないだろう。




