6話 森の奥
ようやくフラクは館へとたどり着いた。まず彼を出迎えたのは大きな鉄柵の門である。あたりには草が生い茂り、ツタが柵に絡まっていた。次に広々とした庭にでる。あまり手入れが行き届いていないのかもしれない。枯れた噴水や、苔の生えたベンチが並んでいた。
——なぜだろうか。フラクはこの館にどこか懐かしさを覚えた。もちろん一度も訪れたことはない。ただ、この館から溢れる雰囲気が、何かを呼び覚ましているようだった。
そして正面玄関へ。両開きの重厚な扉をシェナが鍵を開け、全身で押し開く。ギギギ、と鈍い音を立てながら開いていく。彼女は中へ入るよう手で促した。
「どうぞ」
「いや、俺は帰る」
フラクはすぐさま断りを入れた。
「え!? もう陽が沈むよ!?」
「俺は護衛人だ。依頼は果たした。ついでにあいつらの件もギルドに報告しておく」
「そ、そう……?」
フラクは踵を返して、立ち去っていく。シェナも門の手前までついてきていた。
「そうだ、言いそびれてたんだけど今回はありがとう。あなたがいなかったら私
……」
ふとシェナがお礼の言葉を口にする。
「……気にするな。それが依頼だったからな」
本来ならもっと楽に終わるはずだったのだが。少々愚痴をこぼしたい気持にもなったが、過ぎたことをいまさらどうこう言っても仕方がない。
「じゃあな」
フラクは夕陽を背に妙にカッコつけて去っていった。
シェナはしばらくその背中を見送っていた——が。
——数分後。
「……ん?」
館の横から何者かが歩いてくる。フラクだった。
「お、また会ったな」
「え……あ、うん」
「じゃあな」
「じゃあ……」
フラクはそのまま横を通り過ぎていく。
それからさらに数分後……。
「……え?」
「ああ、またお前か。今日はよく会うな。じゃあな」
「???」
今度は反対側からフラクがやってきたかと思うと再び通り過ぎていく。
さらにさらに数分後……。
「……は?」
沈みゆく夕陽の中から一人の男が姿を現す。
「………」
「………」
フラクだった。二人は互いに無言で見つめあう。
「一つ、聞いていいか?」
沈黙を破ったのはフラクだった。
「この館ってのは……いくつもあるのか?」
「そんなわけねぇぇぇぇぇぇ!!」
シェナの絶叫が、森にこだました。。