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5話 強者


 辺りに血の匂いが充満する中、フラクは腕についた肉片を軽く払った。


「うぇっ……」


 シェナは必死に吐き気をこらえる。目の前の光景は現実味がなく、頭がついていかない。


「大丈夫か?」


 フラクが片手を差し出した。シェナは一瞬ためらったが、その手を掴むしかなかった。


「……あ、ありがとう……ございます」


 引き上げられると、思った以上に力強く、けれど優しい手だった。


「ふー……しかし、面倒ごとに巻き込まれたな。お前、怪我ないか?」

「な、ないです……でも、あの……」


 シェナは思わず聞いてしまう。


「あなたは一体……?」

「俺か? 俺は旅人だ。こうやって冒険者業もやってるんだ」

「いや、そういうことが聞きたいんじゃなくて!」


 バーバルカトゥスを拳一つで粉砕する力、尋常ではない。だが、これ以上深く踏み込むのは危険な気がした。先ほどキースを問い詰めて、命を狙われそうになったばかりだ。


 もう一度彼をよく見てみる。全身血まみれ砂埃まみれでひどい有様だった。とても間抜けな表情をしている。ウルが砂遊びをした時に少し似ていた。


「……ぷっ、あははは!」


 その様子がおかしくて、シェナは吹き出してしまう。


「なんで笑うんだ……?」

「ごめんなさい、でも……ぷっ……」


 ひとしきり笑った後、フラクが話しかけてくる。


「さて、そろそろ行くか」

「え?」

「依頼だよ。帰るんだろ、家に」

「あ、うん」


 あの出来事の跡である。正直あれ以外のことは頭からすっかり抜け落ちてしまっていた。


「そういやキーモたちはどこ行った? あいつら俺を土に埋めやがって……!」

「つ、土? よくわからないけど私たち以外は全員……あとキース」


 結局彼らは何がしたかったのだろうか。毒を盛っていたことからもおそらくフラクを殺そうとしていたのだろう。人の依頼で余計なことをしないでほしいものだ。しかし、計画に移すよりも前に前にバーバルカトゥスにやられてしまったようだが。ある意味彼らは幸せだったのかもしれない。なぜなら目の前の男は深森の凶獣よりもずっと恐ろしいのだから。


「……依頼中に人が死んだらどうなるんだ?」


 フラクがポツリと呟く。


「えっと、とりあえずギルドには報告しなきゃいけないかな。バーバルカトゥスのこともあるし……」


  思えば、あんな魔物がこの場所にいること自体おかしい。偶然と片づけていいものなのか。胸の奥に不安が残った。


 シェナとフラクは森の中を進んでいった。

 最初はフラクが先導する形で移動していたが、最初はフラクが先導していたが、完全に方向を誤ったため、仕方なくシェナが前に出ることになった。


 いつバーバルカトゥスのような魔物が現れるかもと気を張り詰めていたが、森はしんと静まり返っており、魔物一匹さえ遭遇しなかった。


 やがて視界が開けていき、奥から建物の陰が顔をのぞかせていた。


「あれか?」

「そう。あれが私の家、黎明の館」


 二人を出迎えたのは森の中にひっそり佇む、厳かな雰囲気の館であった。


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