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3話 森へ

 時刻は正午。

 フラクが広場に向かうとすでにほかの者たちは集合しているようだった。


「お、来たね」


 フラクもその集まりの中へ向かうと、朝出会った男から呼びかけられた。


「自己紹介がまだだったな。俺はキース。んで後は俺と同じギルドの仲間だ」

「フラクだ」

 

 フラクたちは互いに名を名乗り、握手を交わす。そして依頼についての打ち合わせを再確認の意味も込めて行った。


 移動には馬車を使う。荷物用の簡素な馬車だった。。この中にフラクを含めた護衛の四人、そして依頼主の計五人が乗り込む。


(ということは……こいつが依頼人か)


 フラクはもう一人の人物に目を向ける。ローブを深く被った少女だった。肩には小さな白いキツネのような生物が乗っかっている。あまり見たことのない種類の生物だった。


「あ、あの……」

「ん? あぁ、すまん」


 フラクの視線に気づいたのか、少女が気恥ずかしそうにもじもじとしている。


「フラクだ」

「シェナ……です。よろしくお願いします」


 依頼人の少女はシェナと名乗り、ぺこりと小さくお辞儀をした。


 馬車に乗り込み、揺られること半時間が経過したころ。ようやく目的地の森へと到着した。


「ここからは徒歩だ。馬車で入るには道が悪い」


 一同は馬車から降りる。森の中へと続く道は狭く奥は薄暗い。悪路も多く馬車で入るには一苦労しそうである。


「列を組んで行こうか、依頼人をなるべく守る態勢で」


 キースは馴れたように指揮を執り、依頼人を真ん中に配置する形で一列に並ぶ。キースが先頭、そしてフラクがそのあとに続き、真ん中にシェナ。最後に残りの二人が後方を守る形で陣形を組む。


 キースの先導は的確で、特に問題もない。着々と目的地まで進んでゆく。やはりこの依頼を受けて正解だった、とフラクは思わず笑みをこぼす。楽な依頼だとは思っていたがこのままであれば目的地まで歩くだけで報酬を得てしまうだろう。

 しかし、依頼人はこのような鬱蒼とした森の奥によく一人で住んでいるなと感心してしまう。守護獣がいるとはいえ、少女一人でというのはなかなかに肝が据わっている。


 森を進むうちに陽の差す開けた場所へと出た。


「折り返しといったところかな。少し休憩しようか」


 キースは背負っていたリュックから水筒を取り出し、各々に配っていく。特に喉は乾いてなかったが、フラクもそれを受け取り口へと運んでいく。


「………!」


 気のせいだろうか。フラクが水を飲むと、キースはわずかに目を開いた。


(……何だ?)


 だがすぐに目を逸らし、仲間とひそひそと話し込むとフラクへ声をかけた。


「フラクさん、少しお願いがあるんだが周囲の見回りをしてくれないか」

「それは構わないが」

「助かるよ。俺は出発の準備もあるから警備まで手が回らなくて……」


 少し引っかかるものの、フラクは特に疑いもせず周囲の警戒に当たる。キースの仲間二人も彼に同行した。


 歩く途中でフラクの足がピタリと止まる。

 何か、嫌な予感を肌で感じていた。


「……どうしたんだ、フラクさん?」


 仲間の一人が後ろから呼びかける。


「いやー、長年の勘って言うのか? ちと嫌な気配を感じてな」

「長年……? あぁそうだフラクさん、あっちの方向に気になるものがあったんだ。一緒に見に行ってくれないか?」 

「気になるもの?」


 フラクが感じ取った嫌な予感とはそれのことかもしれない。


「見に行ってみるか」


 彼らが指さす方向へフラクも同行する。あたりを見渡すが、特に気になるようなものはない。


「特に何もないように見えるが……」

「……土よ揺らめけ―ソイルウェイブ!」

「え?」


 突如背後から魔法発動の詠唱が聞こえてくる。魔物にでも出くわしたのか。振り返ろうとした時だった。フラクの足場が波打つかのようにうねり始める。


「じゃあな! 哀れな冒険者さんよ!」


 キースの仲間の一人がフラクを見据えてにやりと笑っていた。見回りをすることも気になるものがあるなどということも全て嘘だったのだ。彼ら狙いは最初からフラクだった。フラクはふとゴレスの言葉を思い出す。


「なるほど……な」


 足元がぐわりと大きく沈んでいく。

 次の瞬間、フラクは用意されていたのであろう落とし穴へと飲み込まれていくのであった。


***


「やったな」


 フラクが落ちていったことを確認して男が安堵の息をつく。


「まだ安心するな、証拠もなるべく消しておくぞ」


 もう一人が手に炎の塊を生成し、それを穴へと投げ込んでいく。穴はかなり深くまで続いている。10メートルほどはあるだろうか。ほどなくして、煙が立ち上ってきた。土の魔法も用いて念入りにその穴を塞いでいく。


「しかし、麻痺毒が聞かなかったときは少し焦ったぞ」

「そうだな。けどこれで終わりだ。あとは不幸な事故だったことにでもしとけばいい。証拠がなけれりゃギルドも俺たちに手を出せないだろうよ」


 うまく計画が進み、二人は笑いをこらえるようにしてその場を立ち去ろうとした。


「……!」


 先頭の男が足を止める。突然のことで後ろにいた者が躓きそうになる。


「おっとっと、どうした」

「あれ……見ろ……!」


 先頭に立つ男の顔は引きつっていた。まるで恐怖におびえるかのように。


「なんだって何が……、なっ!」


 木陰から巨大な影が姿を現す。

 灰色の毛並み、鋭い瞳孔――


「バーバルカトゥス……!」


 その存在だけで三つ星級の難易度を誇る凶暴な魔物。体格は熊よりも大きく、個体によっては四つ星にもなりうる。本来このような人里近くにはいるはずのない魔物。


「な、なんであんな化け物がここに……?」


 男の一人が後ずさる。枝がパキリと折れる音がした。先ほどの魔法のせいで周囲の木々が揺れ、枝や落ち葉があたりに大量に落ちていたのだ。


 魔物の耳がぴくりと動く。次の瞬間、バーバルカトゥスは一直線に飛びかかり――


「ひっ……!」


 鋭い爪が唸りを上げた。

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