2話 依頼
ある晴れた日の朝、フラクは冒険者ギルドの大扉を押し開けた。
中は今日も賑やかであった。酒をあおる者、仲間と談笑する者、依頼の報酬をめぐって口論する者……。
そんな喧噪の中、フラクは一人で掲示板に向かう。残り少ない路銀を稼ぐためだ。
「どれどれ……何か良さそうなのは……」
依頼には星がつけられており、全五段階評価でその以来の難易度を表している。当然星の数が増えれば報酬もより良いものになるのだが、フラクが狙うのは星二つ以下の依頼であった。理由は単純で、面倒だからである。大金を稼ぐ意味も名声を挙げる理由もフラクには無い。大きなリスクを背負う必要も無い。
「これは良さそうだ」
目に留まったのは畑を荒らす野鳥の討伐依頼。手を伸ばしかけたその時――
「お兄さん、ちょっといいかな?」
不意に声をかけられ、フラクは振り返った。
そこにいたのは、見慣れない男。革鎧を着た冒険者風で、にこやかに笑っている。
「なんだ?」
「今、人手を探していて声をかけて回っているんだ。ちょっとした護衛の依頼なんだけどさ」
聞けば、街から少し離れた館まで依頼人を送り届ける仕事らしい。この提案、悪くないと考えた。この町の周囲は比較的安全で魔物の噂もない。道に迷いやすい自分にとって、同行者がいるのも都合がいい。
「悪くないな。受けよう」
報酬も悪くない。フラクはこくりと頷き、提案を受け入れる。
「おお、助かる! じゃあ集合は正午、街道の広場で!」
男は安堵の笑みを浮かべると、紙を渡して走り去った。
フラクは紙を眺め、口笛を吹く。
「いやぁ、向こうから楽な仕事が来るとはな。今日は運がいい」
足取りも軽くギルドを出ていくフラク。
だがその背後で、陰から覗く者たちがいた。
「あいつ、受けたか?」
「ああ、これで計画通り……あとは森で始末するだけだ」
フラクはまだ知らない。
陽気な朝の光の裏で、自分を狙う罠が着々と張り巡らされていることを――。