似た香り、知らない誰か
放課後。
教室で少しだけ言葉を交わしたあと、カナメと約束していた図書館に向かう。
「先に行ってるねー」
つかさはそう言って、一足先に校舎の隅にある図書館へと足を運んだ。
午後の陽が差し込む静かな空間。
本を開くけれど、文字は全然頭に入ってこない。
(……遅いな……ほんとに来るのかな)
そんなふうに思っていたとき──
本棚の向こうから、ふわりと誰かが現れる。
「ここ、空いてる?」
声をかけてきたのは、見覚えのない一年生の女の子。
セミロングの髪と、少しゆるんだリボン。柔らかい雰囲気の子だった。
「あ、うん。大丈夫だよ」
気まずくて少し横にずれたとき、ふと、香りが鼻をかすめる。
(……えっ)
それは、今朝カナメの制服から香ったのと同じ、甘くて爽やかな花の香りだった。
何気なくその子の顔を見る。柔らかな笑みで、ページをめくっていた。
つかさはその横顔から目を逸らすことができなかった。
そして──
「ごめん、遅れた」
カナメの声。
「つかさ……」
つかさは反射的に立ち上がっていた。
「……あ、ごめん。ちょっと、用事思い出した」
「え?」
「ごめん、また今度ね」
そう言って、本を閉じる間も惜しむように、図書館を出て行った。
理由なんて、うまく言えなかった。
ただ、同じ香りがする女の子がいたこと。
それだけで、胸の奥がきゅっと締めつけられた気がした。
(……なんで、こんなに気になるんだろ)
廊下を歩きながら、つかさは自分の胸に問いかけていた。