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気になる香りの秘密
朝の教室。隣の窓際の席に座るカナメは、今日も静かに本をめくっていた。
──ほんと、飽きないよね。
つかさはぼんやりと、その横顔を見つめている。風で少し乱れた髪を指でそっと直したくなる衝動にかられた。
カナメがページをめくる指先が妙にきれいで、つかさは慌てて目をそらす。
(……ってなに見てるの、私)
「……つかさ?」
「っ、な、なによ!」
「なんか……睨まれてる気がしたから」
「に、睨んでないし!」
「そうか、よかった」
カナメはそう言って、また本に目を戻す。
その時、チャイムが鳴り響き、朝のHRが始まる。つかさは教科書を机に入れながら、ちらりとカナメを見た。
……なんだか、カナメからほんのりいい匂いがした気がした。
「……つかさ」
「な、なに?」
「今日、放課後。図書館行くけど、一緒に来る?」
「え、うん。いいよ」
「じゃあ、あとでな」
カナメはまた静かに本のページに視線を戻した。
つかさはその横顔を見つめながら、心の中で小さくつぶやいた。
(……図書館……行くだけ、だよね?)