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朝の風と、花の香り

 まだ少し肌寒さの残る朝の通学路。

 カナメは手に文庫本を持ちながら、ゆるやかな坂道を歩いていた。

 通い慣れたこの道の途中には、小さな花屋がある。季節ごとに変わる花たちが、店先を静かに彩っていた。


 その日は、いつもと少しだけ違っていた。

 花屋の前に、少女が立っている。制服姿だから、同じ学校の生徒らしい。ホースを持ったまま、困った顔をしていた。


「うーん……出ないなあ……」


 少女はホースの先を見つめ、首をかしげている。蛇口は開いているのに、水は出てこないようだった。


 カナメは少し立ち止まり、静かにその様子を見た。


(……水道の圧力? いや、ホースの先が詰まってるだけか……)


 しゃがみ込み、ホースの先をそっと外してみる。中に詰まっていた小さな葉や土を指で取り除くと、ほどなくして──


 しゃっ、と勢いよく水が噴き出した。


「わっ!」


 少女は嬉しそうに笑いながらホースを持ち直す。

 店の奥からも人の気配がして、花屋の店主らしい女性が顔を出した。


「まぁまぁ、お兄さんが直してくれたのね。ありがとう。助かったわ」


 カナメは軽く会釈しただけで、「いえ」と一言だけ返す。


 それでも店主はほほえみながら、小さな布袋を取り出して差し出した。


「これ、お礼に。うちで作ったポプリなの。鞄に入れておくと、ほんのり香るわよ」


「……ありがとうございます」


 カナメは布袋を受け取ると、ふわりと香る甘い花の香りに、少しだけ表情を緩めた。


 ポプリを制服のポケットにしまい、再び学校へと歩き出す。


 春の花と、朝の風と──

 その中に、ほんのりと甘く爽やかな香りが混じっていた。

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