第5話
第5話
私の名前はホタル。
このそこそこ大きな村の長の娘だ。
人々は私の笑顔が好きだと言う。
子供たちも、大人たちも、見知らぬ旅人も。
でも、私は知っている。
この笑顔が本物だった日が
とっくに過ぎ去ったことを。
朝になると、家は静まり返る。
父は最近、村を留守にすることが多い。
戦争と関係した協議が続いているのだという。
母は……戦争のさなかに姿を消した。
最後に見たという人の話では、
見るも無惨な死に方だったそうだ。
兄弟たちもいた。
だが皆、戦争で惨殺されたか、
病に倒れてこの世を去った。
残されたのは、私ひとりだけ。
父は私を大切にしてくれる。
だけど、
その優しさだけでは、
この胸の空虚さを埋めることはできない。
だから私は、
いつ死ぬかもしれないという感覚を抱えて
一日一日を、大切に生きている。
笑顔で。
沈黙の中で。
好きなものは、おにぎり。
一週間食べ続けても飽きない。
他の子たちも、私が作ったそれを喜んでくれる。
それだけは、少しうれしい。
身支度を済ませて、今日の一日を始める。
やはり家には私しかいない。
でも、
昨日見かけたあの子のことが頭から離れない。
あの子――
ぼさぼさの髪、口元の血。
あの老婆と一緒にいた気がするけれど……
よくは見えなかった。
でも、確かに、何かが違っていた。
外から来た子?
でも、どこか懐かしさを感じた。
そのとき、扉がノックされた。
「ホタル〜!出てきて!」
村の子供たちが遊びに誘いに来た。
私はいつものように微笑みながら、
今日もまた引っ張り出された。
「今日は何して遊ぶ?」
「昨日みたいに、崖のほう行く?」
私は聞いてみた。
「ねえ、あのぼさぼさの子、最近見た?」
「ん?あの子?祭りの日に見たっきりだよ。
最近は全然だな。」
「そっか……いや、なんでもない。」
そのとき、隣の子がからかうように言った。
「え〜、まさかホタル、その子のこと気になってるの?」
「なに?告白された数えきれない男たちを振ったホタルが?」
顔がかっと熱くなる。
「ち、違うよ!そんなんじゃないから!」
空気を変えるために、おにぎりを取り出した。
「これ、食べよ。」
「わ〜い、ホタルのおにぎりだ!」
「やっぱ最高だよ。どうしてこんなに美味しいの?」
子供たちは笑って、食べていた。
私も一緒に笑った。
――少しだけ、本当の笑顔だったかもしれない。
夜になると、本を開く。
死ぬのは怖いけれど、
それでも、私は目標を持っている。
母のように――
立派な存在になること。
記憶はほとんど残っていない。
でも、そのぬくもりと、
圧倒的な存在感だけは
かすかに、胸の奥に残っている。
だから私は、学ぶ。
少しずつ、毎日。
遅くてもいい。
ゆっくりでもいい。
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数日後、台風が来るという噂が村中を駆け回った。
村は騒がしくなった。
もちろん、私も手伝った。
手に小さな傷ができたけれど、気にしなかった。
「ホタル、ちょっと休みなさい。」
「大丈夫です。まだ手伝えますから。」
「なんていい子なの。
こんなに綺麗で、今どきの男の子たちより頼もしいんだから。」
私は笑った。
そのとき、
また、あの子のことが思い浮かんだ。
きっと、
今も一人きりなんだろう。
こんな天気の中、
何の準備もしていなかったら……
危ないかもしれない。