第4話
第4話
少年と男の間に、風を裂いて一人の人物が飛び込んできた。
少女だった。
荒い息を整えながら、少年の前に立ち塞がった。
「この子が何をしたのかは分かりませんが……!」
少女は迷うことなく、
少年の頭に両手を添えてゆっくりと下げさせた。
そして、自らも深く頭を下げた。
「お詫び申し上げます。どうか、お慈悲を……お願いいたします。」
男はしばらく沈黙のままその光景を見下ろしていたが、
鼻先で笑った。
「……数日前に見かけた小娘だな。村長の娘か。」
なにかを思い出したかのように顎に手をやり、呟いた。
「ちっ、今は交渉中だってのに、こんな騒ぎがあっちゃ困る。
あの方に知られたら面倒なことになる。」
最後に面倒くさそうに視線を逸らし、吐き捨てるように言った。
「今後は気をつけるんだな。お前も、あの小僧も。」
そう言って、部下たちを連れてその場を立ち去った。
彼の背は路地の先へと消えていった。
残された少女は、無言で少年の手を取った。
「こっちへ。人のいないところへ行こう。」
少年は何の抵抗もせず、その手に従った。
二人は声の届かぬ裏手の倉庫の影へと向かった。
少女は小さく息をつき、
自分の懐から布を取り出した。
少年の口元にこびりついた血を丁寧に拭い取る。
「……どこか、怪我はしてない?」
少年は無表情のまま、こくりと頷いた。
短い沈黙が流れる。
やがて少年は微かに唇を開き、かすれた声で問うた。
「……あなたは……どこかで……」
だが、言葉は続かなかった。
少女はしばらく少年を見つめ、静かに首を横に振った。
「話は……あとでいいよ。」
少年は軽くうつむき、
小さな声で言った。
「……ありがとう。ぼく、帰る。」
少女は何も言わなかった。
ただ、遠ざかる少年の背をじっと見つめていた。
少年は夜の村を歩いて、
自分の家へと戻った。
閉ざされた窓。
乾いた風が埃をわずかに揺らしていた。
彼はそっと扉を閉め、
整えた部屋の中を静かに見渡した。
すべては、静かだった。
彼は再び、泉へ向かった。
夜はすでに深かったが、
泉の水は変わらず、冷たさを保っていた。
少年はゆっくりとその中へ入る。
水面が身体を包み、
夜空が水に映り込む。
月は高く、
星々は冴えていた。
少年は静かに天を仰ぎ、
ゆっくりと目を閉じた。
そして、
ぽつりと呟いた。
「……不愉快な月と空だ。」