第3話
第3話
少年は、泉のそばにある浅い水たまりで目を覚ました。
光は静かで澄んでいた。
朝の日差しが水面に広がり、
その下の小石たちがゆっくりと目覚めるように見えた。
服は湿っており、
裾は冷たい露で濡れていた。
けれど、少年は動じなかった。
ただ、地面を見つめていた。
そして、静かに息をした。
今日は――
違う。
少年は立ち上がった。
泉の縁の石を支えにして、ゆっくりと身体を起こした。
家は、変わっていなかった。
老婆がいないことを除けば、すべては以前のままだった。
だが、
少年はそこに留まれなかった。
理由は、自分でもわからなかった。
ただ、今は――
ひとりでいることが妙に嫌だった。
ふと思い出した記憶があった。
かつて老婆が言っていた言葉。
「外はね……広いんだよ。
あんたもいつか、誰かと馴染める日が来るさ。」
少年は、その言葉を理解できずに、
黙って老婆を見つめていた。
老婆は微笑んで、
少年の乱れた前髪をそっとかき上げながら言った。
「とびきりの美少年だね……きっと人気も出るよ。」
そしてその瞬間、
老婆自身も驚いたように目を見開いた。
少年の顔に、
予想もしなかったはっきりとした光を見て。
少年は静かに身支度をした。
整えられた部屋には、長く留まらなかった。
彼は扉を開けた。
村の中心へと向かう道の上で、空を見上げた。
風は穏やかだった。
人々がいた。
その視線も。
少年は乱れた服のまま歩き、
道の上をきょろきょろと見回した。
簡単な仕事を探していた。
この村では、
子供でも時に手伝いを任されることがあるという。
だが、彼の姿は――
あまりにもぼろぼろで、
年も、あまりに幼かった。
何度も断られた。
言葉は丁寧だったが、
その目線には迷惑そうな色があった。
少年は思った。
「やっぱり、あっちの方が正しいのかもしれない。」
その時、
頭が痛んだ。
目の奥がうずき、
言葉にならない感情が胸を回った。
少年は無意識のうちに歩いていた。
そして、
何者かの肩とぶつかった。
黒い衣。
腰には金の装飾が入った鞘が下がっていた。
「おい、小僧。目はついてるのか?」
男は鼻で笑った。
少年が黙って見つめると、
男は少年の胸を足で蹴り飛ばした。
「どこの浮浪児だ?俺が誰か知らねぇのか?」
人々が一人、また一人と集まり始めた。
少年は倒れたが、
ただその男を見ていた。
怒りも、狼狽もない――
まるで、ただ“見ているだけ”のようだった。
「さっきぶつかったの、あの男の方じゃないか?」
「……そう見えたよな。」
ひそひそ声が周囲ににじんだ。
男は剣を抜いた。
数人が息を飲んだ。
少年はその刃先を見つめ、
口を開こうとした。
だが、声は出なかった。
「……は?聞こえねぇな?」
男の怒気は増した。
「いいぜ。お前、ここで死ぬか……
それとも、あいつらみたいに奴隷になって働けよ。」
少年は何か言おうとした。
だが、
頭が鳴り、
唇が震えた。
鼻腔に熱が集まる。
そして――
彼は、血を吐いた。
その場が静まり返った。
「おい……大丈夫か?おい!」
男も一歩後ずさった。
「なんだよ……疫病か?ふざけんな、近寄るな!」
少年はよろよろと立っていた。
すべての視線が彼に注がれていた。
そのとき――
風を切って、誰かが駆け寄った。
「やめてください!」
少年と群衆の間に、
ひとりの人物が飛び込んだ。