表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/23

第17話

第17話


――また、あの記憶が。

ホタルの脳裏に、過去の惨劇がゆっくりと、しかし確実に姿を現し始めていた。


けれど彼女は、なんとか理性を保ち、冷静に考える。

もし、まだ犠牲になった子がいるとしたら——


「……カラス。カラスが、また集まってるかもしれない……」


その可能性に気づいた彼女は、森の中で丘のように高く盛り上がった場所を探し出し、登りきると、思いきり叫んだ。


「この……くそったれな山がぁぁああああっっ!!」


その叫びに、森全体が震えるような錯覚すら覚えた。

案の定、森の一角からカァカァという声が一斉に響き渡る。


黒い影の群れが夜空に舞い上がるのを見たホタルは、その方向へ一切の躊躇もなく走り出した。


途中、胸騒ぎに足が止まり、彼女は息を潜めて慎重に近づいた。


やがて、そこに辿り着いたとき——月明かりが一面を照らしていた。


「ふふ……ははは……あははははは!!」


ホタルは狂ったように笑い始めた。

それは、もはや正気のものではなかった。


目の前に横たわっていたのは、すでに原形を留めていないほどに損壊された遺体だった。

服の切れ端と、かすかな匂いで、ようやく誰かを識別できるほどに。


彼女の頭の中で、何かが崩れた。


「……いやだ……返してよ……あたしの家族を……弟たち……お姉ちゃん……大切な友達……!」


かつての悪夢が、まるで昨日の出来事のように鮮明に蘇る。

彼女が失ってきた者たち、そしてその時に感じた無力感。


「もう……もう、いや……いっそ、あたしも……」


血まみれの過去の自分と、目の前の遺体が重なり、ホタルはその場にひざまずいて祈り始めた。

その目は、すでに生気を失い、空虚そのものだった。


「……残ってるのは、あと一人……」


そのときだった。

近くの木の切り株に空いた穴の中から、微かな音が聞こえた。


「……ザリ……」


すでに恐怖も絶望も通り越していたホタルは、まるで導かれるように、ためらいもなくその穴へと近づいていった。


穴は思ったよりも大きかった。

ホタルは顔を寄せ、慎重に中を覗き込む。


「……ほ、ホタルちゃん……? ホタルちゃん、なの……?」


掠れた、小さな声。


その瞬間、ホタルの胸は張り裂けるような衝撃に包まれた。

ぽろぽろと、再び涙が頬を伝って落ちた。


数秒後、ボロボロの身体をした少女が、穴の中からゆっくりと這い出てきた。


「よかった……ほんとうに……よかったぁ……」


震える手足で立ち上がったその子は、地面に横たわる変わり果てた友の遺体を見て、悲鳴をあげた。


「いやあああああっっっ!!!」


泣き崩れるその子を前にして、ホタルは静かに尋ねた。


「……どうして、ここに? 何があったの?」


震える声で、その子は答えた。


「……わかんない……何かに追われてたの……何だったのかも……わからない。あの子が……私に『隠れて』って言って……自分は囮になるって……それからは……ずっと、ここにいたの……」


彼女の身体は、無数の擦り傷と切り傷で覆われていた。

ホタルは目を潤ませながら言った。


「……もう行こう。ここは危ない……」


その子はよろめきながらも立ち上がり、ホタルに訊いた。


「……他のみんなは?」


ホタルは、何も言えなかった。


全てを悟ったかのように、その子はうつむいたまま歩き始めた。


再び、森の中に静寂が戻る。

月明かりは木々の影に隠れ、闇が二人を包み込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ