第17話
第17話
――また、あの記憶が。
ホタルの脳裏に、過去の惨劇がゆっくりと、しかし確実に姿を現し始めていた。
けれど彼女は、なんとか理性を保ち、冷静に考える。
もし、まだ犠牲になった子がいるとしたら——
「……カラス。カラスが、また集まってるかもしれない……」
その可能性に気づいた彼女は、森の中で丘のように高く盛り上がった場所を探し出し、登りきると、思いきり叫んだ。
「この……くそったれな山がぁぁああああっっ!!」
その叫びに、森全体が震えるような錯覚すら覚えた。
案の定、森の一角からカァカァという声が一斉に響き渡る。
黒い影の群れが夜空に舞い上がるのを見たホタルは、その方向へ一切の躊躇もなく走り出した。
途中、胸騒ぎに足が止まり、彼女は息を潜めて慎重に近づいた。
やがて、そこに辿り着いたとき——月明かりが一面を照らしていた。
「ふふ……ははは……あははははは!!」
ホタルは狂ったように笑い始めた。
それは、もはや正気のものではなかった。
目の前に横たわっていたのは、すでに原形を留めていないほどに損壊された遺体だった。
服の切れ端と、かすかな匂いで、ようやく誰かを識別できるほどに。
彼女の頭の中で、何かが崩れた。
「……いやだ……返してよ……あたしの家族を……弟たち……お姉ちゃん……大切な友達……!」
かつての悪夢が、まるで昨日の出来事のように鮮明に蘇る。
彼女が失ってきた者たち、そしてその時に感じた無力感。
「もう……もう、いや……いっそ、あたしも……」
血まみれの過去の自分と、目の前の遺体が重なり、ホタルはその場にひざまずいて祈り始めた。
その目は、すでに生気を失い、空虚そのものだった。
「……残ってるのは、あと一人……」
そのときだった。
近くの木の切り株に空いた穴の中から、微かな音が聞こえた。
「……ザリ……」
すでに恐怖も絶望も通り越していたホタルは、まるで導かれるように、ためらいもなくその穴へと近づいていった。
穴は思ったよりも大きかった。
ホタルは顔を寄せ、慎重に中を覗き込む。
「……ほ、ホタルちゃん……? ホタルちゃん、なの……?」
掠れた、小さな声。
その瞬間、ホタルの胸は張り裂けるような衝撃に包まれた。
ぽろぽろと、再び涙が頬を伝って落ちた。
数秒後、ボロボロの身体をした少女が、穴の中からゆっくりと這い出てきた。
「よかった……ほんとうに……よかったぁ……」
震える手足で立ち上がったその子は、地面に横たわる変わり果てた友の遺体を見て、悲鳴をあげた。
「いやあああああっっっ!!!」
泣き崩れるその子を前にして、ホタルは静かに尋ねた。
「……どうして、ここに? 何があったの?」
震える声で、その子は答えた。
「……わかんない……何かに追われてたの……何だったのかも……わからない。あの子が……私に『隠れて』って言って……自分は囮になるって……それからは……ずっと、ここにいたの……」
彼女の身体は、無数の擦り傷と切り傷で覆われていた。
ホタルは目を潤ませながら言った。
「……もう行こう。ここは危ない……」
その子はよろめきながらも立ち上がり、ホタルに訊いた。
「……他のみんなは?」
ホタルは、何も言えなかった。
全てを悟ったかのように、その子はうつむいたまま歩き始めた。
再び、森の中に静寂が戻る。
月明かりは木々の影に隠れ、闇が二人を包み込んだ。




