第15話
第15話
ホタルの指先から、感覚がすうっと消えていった。
手の中に握られていた友達の靴が、力なく地面に落ち、空虚な音を立てて森の静寂に響いた。
その目の前には、小さな手がひとつ、無残に転がっていた。
月明かりの下、その手は血にまみれ、蒼白い光を帯びながら冷たく輝いていた。
ぞくり、と全身が震えた。
ホタルの心臓は破裂しそうなほど激しく脈打ち、頭の中は真っ白に凍りつき、何ひとつ考えることができなかった。
ようやく足に力を込めて立ち上がったものの、彼女の身体は恐怖に支配され、硬直していた。
震える足取りで、ホタルはさきほどカラスの群れが飛び去った方へと、ゆっくり歩き出した。
その歩みは頼りなく、頬や背中を伝う冷や汗が夜の冷気と混ざり合い、さらに彼女を深い恐怖へと引きずり込んでいった。
「……は、はは……きっと、見間違いだよね……?」
かすれた声は震え、その言葉には信じたくない現実への必死の否定が込められていた。
だが、ホタルの足はすでに理性を手放し、あの禍々しい場所へと向かっていた。
カラスたちが止まっていた場所に近づくと、数羽のカラスがまだ地面の何かを熱心についばんでいた。
彼女の影が差し込むと、それに驚いたカラスたちは一斉に甲高い声を上げ、ばさばさと音を立てて空へ舞い上がった。
そしてその下に現れたもの——それは、あまりにもおぞましい光景だった。
ホタルは目を見開いたまま、その場に崩れ落ちた。
口からは、言葉にできないほどの絶望が悲鳴となってほとばしった。
「やだあああああああああああ!!!!!!」
彼女の視界に広がっていたのは、友達の遺体だった。
——それも、ただの遺体ではない。
血に塗れたその体は、上半身がまるごと、何かに引き裂かれたかのように失われていた。
まるで巨獣に喰われたかのように、身体の半分が存在していなかった。
そこから放たれる濃厚な血の臭いが、彼女の胃を直撃する。
ホタルは耐えきれず、激しい嘔吐に襲われた。
涙が止まらず、視界は歪み、呼吸すらうまくできなかった。
彼女は這うようにその場から立ち去り、無我夢中で森の奥へと駆け出した。
方向など分からない。ただ、逃げなければならなかった。
蔓や枝が容赦なく彼女の肌を切り裂き、血を滲ませた。転んでも、また立ち上がり、ホタルは狂ったように走り続けた。
「そんなの……そんなの、嘘だよ……ありえないっ!」
走りながら、ふと、かけがえのない友人たちとの思い出が脳裏に浮かんだ。
家族のように近しく感じていた、あの子たちの笑顔。——その記憶が、ホタルの心を締めつけた。
その瞬間、彼女は自らの胸を押さえ、かろうじて理性を取り戻す。
「……大丈夫。きっと他の子たちは無事に逃げてる……でも、もし、まだ逃げられてない子がいたら……!」
彼女は落ちていた大きな木の枝を拾い上げた。
冷たい空気と恐怖が肌を刺すが、それでも彼女の目には強い意志が宿り始めていた。




