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フロントガラス越しに見える女性はどこか知性が漂っていた。
啓太は立ち止まって不思議そうに見入った。
突然、車が停止したのに気づいた啓太ではあったが、構うことなく再び歩を進め高台へと向かった。
車を運転していた女性が何やら大声で叫んでいる。
啓太は気になりだして振り向き、女性の方へ近づいて声を掛けた。
『どうかしたのですか?』
『ごめんなさい。タイヤがパンクしたみたい。少し手伝ってくれないかな?』
『・・・僕、急いでいるんだけど』
啓太の困惑そうな返事に少しカチンときた女性だったが、ふとパンクの原因に気がついた。
『あっ、これ剣山じゃない。きっとこれがタイヤに刺さったんだわ』
『すいません。その剣山、見せてください』
『あらっ、急いでるんじゃないの?』
『すいません。手伝うから見せてください』
『これ、きみのもの?それともどうかしたの?』
『僕のじゃないけれど少し気になることがあって・・・』
『別にこんなもの持っていても仕方ないから構わないわよ。じゃあ、タイヤ交換、手伝ってね。君、名前はなんていうの?』
『僕は啓太。高木啓太』
『私・・・私は間宮良子』
『じゃあ、良子さんって呼ぶけどいいよね?』
『いいわよ、啓太くん』
啓太は良子からもらった剣山をポケットに入れた。
強い夏の照りつく陽射しがふたりを容赦なく襲った。