7
二階の部屋へと戻った啓太。
眠りたい気持ちをこらえて、剣山を手に取り、枕元に並べてみた。
かなり古びた剣山。
やがて啓太はぐっすり眠りだした。
そして朝が訪れた。
昨日の雨とは打って変わり嘘のような快晴。
陽光が啓太の頬をカーテン越しに照らす。
強い日差しは啓太の心を突き刺した。
『母さん、これから高台へ行ってくるよ』
庭先で花の手入れに夢中になっていた母は啓太の声には気づかなかった。
啓太は少し微笑みを浮かべ家を飛び出した。
眼の前の少し急な石段を一気に駆け上がった啓太の姿は家から見えなくなっていた。
全力疾走する啓太は、まるで何かに背中を押されるように走り続けた。
十五分くらい走り続けただろうか。
啓太は汗だくになりながら、剣山が散乱していた長い一本道まで辿り着いた。
両脇は見渡す限りの田園風景だった。
どこまでも地平線が雄大に続いていた。
車が往来するには少し狭い道幅だった。
啓太はTシャツを脱いで、両手で強くTシャツの汗を拭うために握り絞る。
そして道に寝転んだ。
澄み切った青空は啓太の心に爽快感を与えた。
爽快感が身体を包み込む。
太陽は勢いを加速させてアスファルトを焦げつくすような気温にまで上昇してゆく。
啓太は背中に伝わる熱さを感じながらも、しばらくはじっとしていた。
形を少しずつ変化させては移動していく雲。
それは時には友達の顔だったり、花や鳥のような形を作り出していた。
啓太は起き上がり高台へ向かう。
蜃気楼のように遠くには水たまりが浮かび上がっていた。
ぼんやりと遠くに一台の赤い車が姿を見せた。
少しづつ少しづつ啓太の立つ方向へと近づいてくる。