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『それ、どうするの?』
『分からない。それより母さん、ごめん。自転車の修理を頼んでおいて』
『分かったわ。それから田中くんから電話があったわよ』
『あとでかけておくよ』
啓太は二階へ続く階段を駆け上がった。
風に揺られて鳴り響く風鈴の音が蒸し暑さを少しはかき消した。
剣山を机のうえに置いて、しばらく眺めていた。
雨が激しく降り始めた。
『啓太〜、啓太〜、洗濯物いれるから手伝ってくれない?』
『今、行くよ〜』
母の呼ぶ声に啓太は急いで庭先へと向かった。
『酷い雨だね』
『早く入れてちょうだい』
さっきまでの空模様が一転し、暗さを増して雷まで鳴り出してきた。
『ありがとう、啓太』
『母さん、自転車屋さんに修理、頼んでおいてくれた?』
『えぇ。明日、取りに来てくれるそうよ』
啓太はずぶ濡れになった崩れたヘアースタイルを気にしながら自分の部屋へと戻った。
『こんな土砂降りだと明日、晴れても高台へ行くのは無理かもしれないなぁ』
啓太は以前、雨上がりの翌日に高台へ出かけ、足場が悪く転倒した経験があった。
幸い、急斜面ながらも骨折ひとつせず、無事にすんだ。
しばらく部屋でテレビを見ていたら、少し雨は優しくなった。
普段は帰宅の遅い自営業を営む父が、天候の影響もあり仕事を切り上げたのか、帰って来た。
めったに家族揃っての食事がなかったからか、父の提案で外食することになった。
大学三年生の姉の宏美が言った。
『こんなに雨が降ってるじゃん。私、気がすすまない』
啓太が言葉を返した。
『父さんと食事なんて久しぶりだよ。姉さん、行こうよ』
宏美は少し考えてから『それもそうだけどねぇ』と頷いた。
二人が話しをしていると母がやって来た。
『二人とも早く仕度しなさい。父さん、作業着のまま、行くらしいよ』
『えっ、着替えないの?』
宏美は聞いた。
『お父さん、どこに居るの?』
『もう車で待ってるわよ』
啓太は思わず吹き出した。
『父さんにはいつも調子狂わされるよ』
こうして四人は雨の中、ファミレスへと向かった。