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『僕に着いてきて、京子さん』
『うん、啓太くん』
二人は風に背中を押されるように大地に同調して、軽やかに高台を目指して自転車を走らせていく。
すぐ隣りに京子がいる。
その喜びは啓太の心を活気づけた。
突然、啓太が急ブレーキをかけて止まった。
『どうしたの?』
『ここなんだ。ここで拾ったんだ』
『何を拾ったの?』
『剣山・・・花を活ける時に使う剣山』
『どうしてこんな場所に?』
『きっとカトウサオリさんの大切なもの・・・』
『カトウサオリ?』
啓太の考え込む顔を見て明るい声を出す。
『私、早く高台からの景色が見たい』
啓太は我にかえった。
『急にごめん。変な話しをして』
二人はまた自転車を走らせた。
麓に到着した啓太と京子は、自転車を登り口脇の空き地に止めた。
『京子さん、頂上まで歩くことになるけど、ほんの少しの距離だから』
『あまり高くないんだね』
『うん。でも町が一望出来るんだ。僕の家も屋根だけは見えるんだ』
二人は頂上を目指して細い林道を歩き始めた。
吹き降ろしてくる風を受けながら、互いに無言のまま一歩ずつ足を進めた。
途中数か所に木造で作られた長方形の椅子がある。
休むことなく歩いていく。
まもなくして二人は頂上へと辿り着いた。
小走りで京子は祠の前へ近づいた。
それから三度の合掌をしてから、両手を大きく広げて深呼吸をした。
瞳を閉じて美味しそうに空気を身体いっぱいに吸い込む京子。
その素振りを見て啓太は、高校時代に彼女に恋をした時と同じ想いに包まれた。




