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啓太は京子の姿を空一面に描いていた。
風にあおられ揺れ落ちる木の葉。
啓太は最高の気分だった。
大声で叫んでみる。
『京子さぁ〜ん』
風に乗って町中に届くよう、まるでやまびこみたいに連呼された。
啓太は京子にも聞こえたかなと思いつつ、明日、この場所で過ごせる幸せを噛み締めていた。
いつもと同じ景色。
いつもと違うのは胸の高鳴りを抑えることが出来ないほど、京子との明日を待つ自分自身への存在の思いだった。
ふと誰かが近づいてくる足音に気づく。
やがて茶色の帽子をかぶる男性の姿が視野に入った。
次第に姿を現したのは、齢70歳は超えているであろう男性だった。
白髪に黒縁の眼鏡、右手に花を抱えていた老人は、7体の地蔵の前で立ち止まった。
啓太の存在などまったく意識せず、老人はただ一心に水を替え、花を添えては合掌し始める。
お経らしきことを唱えているようにも聞こえた。
時折、涙を流しては、すまなかったと言い続ける老人。
啓太は黙ってただ見つめていた。
そんな時、京子から連絡が入った。
『もしもし啓太くん、明日のことだけど待ち合わせ場所、決めてなかったよ』
『あっ、ごめん。うっかりしていたよ。じゃ、明日の朝九時に小学校のグラウンドで』
『うん、分かった。いいよ』
『今、高台に居るんだ』
『高台に?』
『そう明日、京子さんを案内する場所』
『楽しみ。景色が一望できるなんて素敵だわ。明日は晴れるといいな』
『大丈夫だよ。きっと晴れるよ。バザーも今日で最終日だし、頑張ってね、京子さん』
『ありがとう、じゃ明日ね』
京子の声を聞いて啓太の心は加速した。
電話に夢中になっているうちに、いつしか老人の姿はもう居なかった。




