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『場所はメールで知らせるよ』
『わかったわ』
『じゃあ、良子さん。待ってるから』
啓太は眠気覚ましに顔を冷水で洗った。
『母さん、俺、朝食はいらないから』
『せっかく用意したんだから少しでも食べていきなさい』
『ごめん、急いでいるんだ』
啓太は少しだけ母の顔を見て家を出た。
急いでいたのには理由があった。
ここ数日、高台へ足を運んでいない。
だから啓太はバザー二日目が始まるまでに一度、高台まで行く決意をしていた。
パンクを修理して以来の自転車で高台を目指す。
連日の暑さは上昇気流に乗って消えたかのように夏とは思えない涼しさだった。
数日ぶりの高台。
啓太の心は躍動していた。
一年ぶりに訪れたかのような錯覚にも似た気持ちでもあった。
高台から眼下に見える景色を眺めているうちに、次は京子と二人でこの場所に来たいと思った。
ふと良子が道に迷っていないか、心配になり、電話をかけてみた。
『良子さん、バザー会場の場所だけど大丈夫?』
『ありがとう、大丈夫よ。今、片山くんと向かっているわ』
啓太はしばらく周囲を見渡した。
そして高台を後にした。
バザー会場では開店を待つ大勢の人たちで溢れている。
昨日の大盛況が続きそうな予感に啓太は気持ちを引き締めた。
隆太に駆け寄り、声をかける。
『隆太さん、おはよう。今日も宜しくお願いします』
『おっす、啓太。頼りにしているからな』
『ところで啓太、昨日の三人も来れるんだろうな』
『ごめん、信二だけしか来れないみたい』
『そうか・・・人手が足りないが何とかするしかないか。そうそう紹介しておくよ。うちの従業員だ』
隆太が言うや否や、隣にいた女性が笑顔で挨拶を始めた。
『はじめまして。兼崎梨絵です。よろしく』
『はじめまして。高木啓太です』
啓太は不思議な顔で隆太を見つめた。