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ここに来るのが好きだった。
雨の日も風の日も雪深い日も足を運んでいた。
まるで義務教育の学生みたいに、この場所に来ることが日課となっていた。
高木啓太は十九歳の夏を迎えようとしていた。
普通の田舎町。
啓太の亡くなった祖母の話しによると、この田舎町が時代の波と共に変化をとげても、ここだけは当時のまま残されているということだった。
啓太は高校を二年の夏に中退している。
それ以来、毎日毎日、家で過ごしては本ばかり読んでいた。
二階の啓太の部屋から見える高台までは、自転車で移動していた。
頂上まで歩いて五百メートルほど。
そう高くもない。
頂上からは町が一望できて、もちろん啓太の暮らす家も屋根だけは見えた。