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『良子さん、汗が凄いよ』
良子は啓太が差し出した飲料水を飲み干した。
『有り難う、とても美味しいわ』
二人はようやくタイヤ交換を終えた。
少しだけ風が吹き、二人の暑さを和らげてくれている。
啓太と良子は暑さをほんの少しだけかき消すことが出来た。
『ありがとう、足止めさせたわね。お礼と言ったらなんだけど送るわよ』
啓太は黙って聞いていた。
『啓太くん、どこまで行くの?』
『良子さん、時間は平気なの?気にしないでいいさ』
『大丈夫よ。送るからさぁ、乗って』
こうして啓太は良子の車の助手席へと乗り込んだ。
ポケットから剣山を取り出して眺めている啓太に尋ねた。
『剣山を見た途端、顔色が変わったけど、どうかしたの?』
『うん。少し気になることがあって』
啓太は話しを続けた。
『僕も昨日、剣山を踏んでしまって自転車のタイヤがパンクしたんだ。その時は剣山を4つ見つけた。良子さんから貰ったのが5つ目だよ』
『ふ〜ん、何か気になるわね』
二人はすっきりしないまま、車を走らせた。
そして高台の手前の脇道で車を止めた。
良子の希望もあって、啓太は高台へと案内した。
いくつかの起伏の激しい丸太作りの階段を登って二人は頂上に到着した。