手遅れなんですその誓い!
世界観的にはなーろっぱというよりは理不尽なファンタジー世界系。でもゆるふわ設定なのは変わらないよ。
つがい、獣人。
そう聞いて何を想像するか。
そうだねウェブ小説でよく見かけるタイプのやつだね。
獣人の頂点に立つ種族がこれまた竜人となればもっとそう。
そして竜人の中でも更に力の強い個体は竜神と呼ばれるらしい。
竜ってだけでも既に人知を超えた存在っぽいけど、その竜人たちから見ても凄まじいとされるのが竜神。
まぁ、神ってついてるけどなんでもできるか、っていうと……神様は決して全能でも万能でもない。
ただ、力のない弱き者たちと比べてできる事は多いってだけ。
それは、人間同士であってもよくある話。
優秀な人もいれば不出来な人もいる。
同じ人間ですら差が生じるのだから、種族が異なればもっとそう。
さて、なんでこんな思考に至っているかというと。
「あぁメアリ、会いたかった! かつては力のない私の不甲斐なさのせいで結ばれず引き離されてしまったけれど、来世でやり直そうというきみの言葉を信じて待ち続けた甲斐があった」
わんわんと泣く男は、竜人――いや、竜神であるらしかったからだ。
この竜神、かつてはまだ力の弱いただの竜人であったらしく。
その時に出会った運命の相手――メアリと恋に落ち、結ばれるはずだったのだけれど。
当時は今程世情も安定してなくて、どこもかしこも争いに満ちていたらしい。
まぁ人間しかいない世界でも戦争って普通にあったし、戦争してないところでも虐めとかそういうのはあったからね。人間って争う生き物だし、人間以外も弱肉強食、大自然の掟に則って生きてるならそりゃ戦うよね。
で、こっちの世界って人間以外の種族もいて、そうなると軋轢が生じるのはある意味当然の話。
人間たちが森を切り開いて開拓しようとしたとして、それに反対するエルフ、とか普通にある構図だし。
獣人同士であってもお互いに譲れない部分があれば戦うのなんて日常茶飯事。
当時は種族による差別もバチバチにあって、だからこそ、メアリとこの竜人の恋はいくらつがいだと言っても祝福されるものではなかった。
まぁ、種族が異なるとそれだけ常識も異なってくるし、ましてや竜人の寿命は余裕で数百年って言われてるけどこっちの世界の人間の寿命って五十年前後らしいからねぇ……
寿命が延びて長寿大国、とか言われてた頃を思い出すと、えっそんな短いの!? って思えるけど、こっちの世界では昔から人間の寿命は大体五十年前後。長生きして七十とか八十いけば凄い長生きしてるって言われるレベル。
百歳になんてなろうものなら伝説扱いされるんじゃないかな。
まぁともあれ、人間て竜人目線で見ると弱いしすぐ死ぬしで、愛玩動物的な意味で愛でる程度ならまだしも、そんな相手と結婚とかいくらつがいって言っても正気かお前!? みたいな目でみられてたわけ。当時は。
ご長寿度合が人間とは比べ物にならない竜人からすれば、人間と結婚とか数日で終わるみたいな認識だったんじゃないかなぁ。
人間目線で言うならハムスターと結婚するとか言い出されるレベルなのかもしれない。
まぁ、反対するよね普通は。
私も友人がハムちゃんと結婚するとか言い出したら目を覚ませって言うわ。
ま、実際そんな事言い出す友人はいないけど。いても二次元のキャラと結婚したいって言う相手くらいかな。でもそれならまぁ、二次元のキャラは直接自分たちに何かしてくれるわけでもないから、生活の面倒は自分で見ないといけないし、二次元のキャラに寿命ってまずないから、原作で死んだ場合でも別の世界線――二次創作とか――では元気一杯生きてるからあとはもう妄想みたいなものだし。
偶像崇拝と言ってしまえばそう。
でもそこに現物、って言い方もどうかと思うけど、相手が物理的に存在しちゃってるとまた違うわけよ。
ただの絵に恋してるとかならまだそれはそれこれはこれ案件でごり押しもできたかもしれないけれど、そこに実在する存在、しかもすぐ死ぬ、とかを相手にとか言い出されるとまぁ止めるのは仕方ないと思う。
そうでなくとも当時は種族差別とかいっぱい横行してたらしいから。
人間と婚姻? やめとけやめとけ、と周囲も反対していたらしい。
それでも無理に結ばれようとしたものの、竜人の家族や友人たちがそれを阻止しようとしていたのだとか。
結果として、当時のこの竜神のつがいのメアリ、とやらは命を落とした。
まぁ竜人からすれば人間ちゃんの命あまりにも儚いってなってるからね。殺すつもりがなくても当たりどころ間違ったら簡単に死ぬのよな。
ただ、その死の間際、メアリは来世では結ばれましょうね、なんて言い残していったらしく。
まぁ常套句。お約束的展開。あるある。
メアリにとっては本気でそう思ってたんだろうね。
そして息を引き取ったメアリ。
助けられなかった己の無力さを嘆きつつも、彼女の言葉を信じ彼女が生まれ変わるのを待つことを決めた竜人。
彼は、もし次があったなら今度こそ守り抜くと決め、無力なままではよくないと様々な修行に励んだらしい。
結果、とんでもない力を得て竜神へと至ったのだとか。
本来つがいが死ぬともう片方も相当弱るのだけれど、彼はつがいの死の間際の言葉を胸に、いつか来る未来を信じ生きてきたのだとか。
それだけ聞けばまぁ、ロマンあふれる恋愛ストーリーみを感じられるんだけどさ。
「あの、私、メアリではないです」
「あぁわかっている。だが、その魂は間違いなくメアリだ。今のきみの名を聞いてもいいかな?」
「……サロメです」
「サロメか、素敵な名だ。さぁサロメ、早速だがかつての約束を果たそうじゃないか」
「無理ですね」
私は淡々と返すしかない。
「そんな、約束を違えるというのか!?」
「違えるも何も。遅すぎたのです」
そう、遅すぎた。何もかも。
「ついでに言うと私これから嫁入りするので邪魔しないでくださいね」
「なんだと!? どこのどいつだ!?」
待ちに待ち続けたつがいが別の相手に嫁ぐと知って、まぁそういう態度になっちゃうのはわかる。
ここで無理矢理連れ去られたとして、多分最終的に私の旦那様が奪い返してくれると思ってるから別に何とも思わないのだけど、強引に連れ去った後無理矢理既成事実を作ろうとかされたら面倒なのよな。
だから先に伝えておこう。
そしたら無茶な事はしないだろ。
「夜の王、アルフレート様です」
「は……?」
「いやどうも私の前世がそう約束してたので。アルフレート様優しいし好みの顔面してるし、前世の私と今の私を同一扱いはしないで今の私の事を配慮してくれてるので、あ、いい関係作れそうだなって思って」
そう。
さっきからウェブ小説だのこっちの世界だの言ってる時点でお察し案件なんだろうけど。
私には前世の記憶がある。
というか前々前世くらいの記憶まではある。全部を完全に憶えてるわけじゃないけれど、それでもざっくりとは憶えている。
私の前世はこの世界の生まれで、さっきの言葉通りアルフレート様と恋に落ちて、だがしかし病に身を蝕まれ若くして儚くなってしまった娘だった。死ぬまでの短い時間を彼と過ごし愛を育み、そうして死んだ。
死の間際に、来世でせめて結ばれたい、と言い残して。
天丼と言うか鉄板というかは個人の感想にお任せする。
でもまぁ、さっきのメアリのあれこれで、常套句だの言ったのはそういう事だ。
で、前の前、つまり前々世私はやっぱりこの世界の生まれでその時は平穏に過ごして死んでいる。
その時は確かエルフに生まれて、そこそこ長生きした。森の中で生きて、ちょっといいなと思っていた同族の青年と結婚して、幸せに、穏やかに。
もしかしたら、今でもその頃の私の子孫とかエルフの中にいるのかしら?
で、前々前世。
私はここじゃない世界に生まれた。日本という小さな島国だ。
そこでこの世界によく似た感じの物語をたくさん嗜んでたし、その他娯楽もたっぷりと。
だから、まぁ。
エルフ転生した時はこれが異世界転生か。そしてエルフとかうわぁ、マジかぁ、なんて思っていたりもしたのだ。
さて、ここまで言えばお分かりいただけるだろうか。
恐らく私がメアリだった頃、というのは、間違いなくそれ以前の前々前々世か、もっと前だという事になる。
この世界でエルフとして生きていたからそこそこの年月経過してるけど、竜神からすればそんなのは些細な年月だったのかもしれない。
でも、さぁ?
「生憎と私、前世の記憶はあるんです。そして前の私との約束を、アルフレート様は果たしてくれた。
貴方と約束していたらしいメアリも前の私らしいですけど。でも、メアリの言う来世って、とっくに終わってるんですよね。
なので約束を違えるのかと言われましても……見つけられなかったそちらの落ち度では?」
生まれ変わったメアリの次の私が彼の事を憶えていたかは知らない。
無責任かもしれないけど、そもそも前の人生の事を憶えて生まれてくる奴って、そもそも当たり前じゃないからね?
私は何か前世の事一杯憶えてるってだけで、普通は知らないし憶えてないのが当たり前なわけ。
メアリの次の私が憶えてたならきっと彼の事を探したかもしれないし、憶えてないなら探しようがない。
となると、彼が次のメアリと結ばれるためには、それこそ探しまわるしかなかったわけだ。
で、見つけられなかった。
そうしてメアリの言った次、二人は出会う事もなく終わってしまった。
ただ、それだけの話だと思う。
前のお前が言った事だろって言われてもさ、そもそも前世の事なんて普通は憶えてないんだから、それ言われて今の私に責任取れ、は違くない?
当時の私に言え。
死ぬ間際だろうとなんだろうとメアリがメアリでいた時に何らかのけじめというか決着をつけておくべきだった。
だって本来なら記憶にない前世の事とか持ち出して責任取れっていうのがまかり通っちゃうとさ、捏造し放題じゃん。
お前が前世で私にした借金、今世できっちり返してもらうぞ! とか言われて多額の金を請求されてもさ、普通の人は支払うわけなくない?
だって今の自分がした借金じゃないわけだし。
まだ死んだ身内の借金がどうこう言われた方が現実味あるわ。
前世だのなんだのを引き合いに出すのは長命種くらいなものなんだけど、人間って死んだ後生まれ変わっても普通は前世の事なんて憶えてないからさ。
メアリの次と出会えなかったらそれはもうご縁がなかったんだよ。
ついでに言うと。
別にこの世界、竜神が世界の頂点にいるというわけではない。
獣人という括りの中ではトップに立ってるけど、つがいだとかいうのに縛られない種族は他にたくさんいる。というか、つがいというものに振り回されてるの獣人くらいじゃないかな。
今の私の結婚相手でもある夜の王、というのは、精霊種だ。
場所によっては夜の精霊とか不吉の象徴みたいに言われて、死神とか呼ばれてるところもあるみたいなんだけど、アルフレート様はその長である。
竜神とどっちが上か、と言われると、神とついてるけど実際に神様ではない竜の子と、神の眷属とも言われてる精霊種となら……まぁ、うん。下手に逆らうと大変な事になる、っていうのは間違ってない。
下手すると神様に喧嘩売る流れになる可能性もあるからね、精霊種への敵対行動って。
精霊種もそこら辺弁えてるから、普段はあまり他の種族と率先して関わらないようにある程度一線引いてるんだけど、前世の私はそこを超えてアルフレート様と恋に落ちた、と。
相手が精霊種というのもあって、ここで私を無理に攫うというのはまずいと思う程度に彼に理性が残っていたらしく、私はさっさと彼とお別れしてきた。
もし、私の相手が彼にとって取るに足らない存在で、無理に攫ったとしたら。
その時は盛大に罵るつもりだった。
メアリの言う次に間に合わなかったくせに今更、とかこっちに一切の責任はないみたいに全部そっちが悪いみたいに罵ったと思う。
ヒトが、竜を相手に勝てるかとなると……今の私は戦う力なんて持ってないただそこらにいる村娘その1とかなので。
物理的に倒せるはずもないので。
そうなると精神を削るしかない。
任せろ、地球で暮らしていた時にブラック企業とかでパワハラモラハラあたりは体験してきたから、そういうノウハウは多少心得ている。
……まぁ、なんだ。
メアリの次の私、といつか結ばれることを心のよすがとしていた彼の事はちょっとだけ不憫に思えるので。
今回の私は諦めてもらうしかないけれど、次の私かその次の私あたりなら、もしかしたらうまくやっていけるかもしれない、という可能性はゼロではないので。
彼には強く生きていってほしいものである。
というか、そっちも一度天寿を全うして来世に賭けた方がいいのでは?
短命種の私は、気楽にそんな風に思う次第なのであった。
数え間違えてなければこの話かこの前か次あたりで短編200話とかになってるはず。
話のクオリティはさておき書こうと思えば書けるものなんだなぁ。
なお枯れ木も山の賑わいテイストで書き散らかしてるので読み手に一切配慮してないのは今後も標準装備だよ。
次回短編予告
婚約者の男性には、幼馴染にあたる運命の相手がいた。
そんな二人を引き裂くだなんてとんでもない! 応援するわ!
そんな感じの話。
恋愛ジャンルっぽいけどラブもロマンスもほぼ無い気がするのでその他ジャンルでの投稿予定です。