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第7話 争うくらいなら、これで遊ばない?

「今日の体育の授業は別のクラスとの合同になる」


 翌日の学校。

 突如として、午前中に行われる体育の授業は、別クラスとの合同で行うことになったのである。

 そのクラスというのが、幼馴染がいる八木彩芽(やぎ/あやめ)のクラスだった。


 今日もいつも通りの体育の授業だと思っていたのに、想定外の事態である。


「突然の事で申し訳ないんだが、別クラスを担当する先生が一身上の都合で午前中これなくなってな。どうせなら、一緒にやろうという事になったんだ」


 体育館には二クラスのクラスメイトらが学校指定のジャージを着て集まっている状況。


 その体育館の壇上前に佇む男性の体育教師はジャージ姿であり、周りにいる生徒らを見ながら事の経緯を説明していたのだ。


「そういうことだ。まあ、合同でやることになったんだし。普通にやるのもつまらないだろうしな。今日は自由にやるという方針で。なんかあったら、その時は先生に相談しに来なさい。以上」


 体育担当の男性教師は大きな声で話した後、体育館近くの事務所に向かって行く。


 体育館にいた人らが、バスケやバトミントンで遊び始めた頃合い、その後で体育教師は体育館に戻ってくる。

 A4サイズの用紙を挟んだバインダーを持ち、その先生は体育館の壁に寄りかかりながら佇み、周囲を見渡していたのだ。


 今日の先生はあくまで監視する程度、運動内容については干渉してくる事はないらしい。




 ある程度の人らが体育館内で運動し始めた頃合い、河合真幸(かわい/まさき)も動き始める。


「真幸、何する?」


 体育館から出ようとした時、学校指定のジャージに身を包んだ白石美蘭が近づいてくる。

 彼女がジャージを身につけていると、胸元部分がハッキリとしている事もあってか、その豊満な胸の大きさに驚いてしまうほどだ。


「ねえ、私と遊ぼうよ」


 もう一人は、幼馴染の彩芽だった。

 彼女はいつも通りといった感じのジャージの着こなし方で、普通のスタイルを維持している感じだ。

 彩芽は上目遣いで、真幸の事を見つめていたのである。


 今まさに真幸は二人の子から誘われていたのだ。


「あなたは、彩芽さんよね?」

「はい。私は真幸の幼馴染なんです。今は、真幸と一緒に遊んでもいいですよね?」


 彩芽はなぜか積極的に真幸の左手首を掴んできたのだ。


「私さ、今日は真幸と一緒に遊ぶつもりだったんだけど」


 美蘭も、真幸の右手首を掴んでくる。


 両者は動じることなく、視線を合わせていたのだ。


「でも、白石さんは、他の人と遊んだ方がよろしいのでは? さっき、別の子から誘われてましたよね?」

「ええ、けどね、今日の朝から真幸と体育の時間を一緒にするって決めてたんだけど。ね、そうだよね、真幸」


 美蘭の問いかけに、真幸は頷く。


 二人の勢力の拡大に、真幸の立場が薄っすらと侵略されているような気がした。


「じゃあ、どうするの、彩芽さん?」

「どうしましょうか?」


 なぜか、美蘭と彩芽は、真幸を奪い合う構図になっていた。


「というか、私は真幸と付き合ってるんだけど」

「そ、そのようね……私、昨日それを知って驚いて、今日はちょっと寝不足なんだけどね」

「では、少し保健室で休んだ方がいいんじゃない? 体には気を付けないとね」


 美蘭の口からは安静にした方がいいという言葉が出てきていた。


「で、でも! 私、そんな疲れは今吹き飛びましたから。問題ないわ」


 彩芽の方も対抗するように、強気な姿勢を見せ、横目で真幸の事を見つめてきたのだ。


「それは早いわね」


 なぜか、二人の間で喧嘩腰になりそうなオーラを放っているようだった。


 元々二人は、昨日のカラオケ店内で出会ったばかりであり、敵視する必要性もないのだが、真幸の事を中心として大事になりかけているのだ。


 元を辿れば、真幸が幼馴染の彩芽に何も言わずに、美蘭と付き合ってしまったことが問題だ。

 だが、真幸からしたら、彩芽とは幼馴染としか思っていなかった。


 今、二人の対立する姿を見て、真幸はモヤモヤと考え込む事となったのである。


 やっぱ、俺が原因なんだよな……。


 双方の姿を見て、自身の不甲斐なさを痛感する事になったのだ。

 真幸はこの現状に頭を抱え始めるのであった。




「美蘭、どうしたの?」


 三人のトラブルを察してから、別グループから離脱してきた亀井佳純が仲介するようにやって来たのだ。


「私、今日の体育の時間は真幸と運動するつもりでいたのよ。でも、こちらの彩芽さんが、どうしても真幸と運動したいみたいで」

「んー、だったら、一緒に遊んだら? 私、これ持ってきたんだけど、やらない?」


 美蘭の友人である佳純は、四人分のテニスラケットを持っていた。


「テニス?」

「そうよ、丁度四人いるんだし。美蘭も束縛はよくないよ」

「別に、束縛なんて」


 佳純からの問いかけに、美蘭は頬を紅潮させながら、気まずそうな表情になっていたのだ。


「まあ、佳純が言うなら、テニスでもするか」


 美蘭はしょうがないといった感じに承諾していた。


「じゃあ、決まりだね。八木さんだよね? あなたもそれでいいかな?」

「いいよ、それで。本当は、真幸と二人きりで遊びたかったんだけど……」


 彩芽は小声で何かを言っているようだったが、一応、佳純から問いかけを受け入れるように、テニスラケットを手にしていたのだ。


 結果として、真幸も佳純からラケットを胸元に押し付けられるように渡された。


「河合さんも、それでいいでしょ。美蘭を困らせたら私許さないんだからね。というか、本当であれば、あなたが、この問題を解決すべきところでしょ!」


 佳純は真幸の近くに寄ってくるなり、耳元で囁くように告げてきたのだ。


 四人は揃って体育館を後に、校庭の隣にあるテニスコートへと向かう事になったのである。


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